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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―II´ 】……今回の冒険の結末がさらなる冒険を呼ぶ予感パートです。
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78 ウルクアレクと竜王と――。 ③

琴線(きんせん)に触れる。(心に響く)


 

 失う片目が最後に見た者。

 人の時の流れにして約400年ほど前、ヴァルヘルムはその男と雌雄を決する。

 しかしそれは、協定によるもの。

 不本意であるも、眷属を統べる者としての結論であった。

 大戦の戦火は、魔族、人族の存亡を揺るがすまでに大きくなり過ぎていた。


――世界の半分を、(ぬし)が物とするがいい。


 魔王は申し出る。

 男はそれに、不快なほどの笑い声で応えた。

 そして、『そんなもの、断るまでもないだろうさ』などと口にすれば、男はヴァルヘルムを軽くあしらうようだった。


――『まあ、半分ってところはあながち間違っちゃいないけどな』


 男は”女”を望んだ。

 人族の女達は殺させない。

 魔族の女達も手に入れたい。

 だからこそ、男は魔王の前に立ちはだかる。


 それは魔王ヴァルヘルムにとって、荒唐無稽(こうとうむけい)にも思えた馬鹿げた理屈であった。


――ゆえに……魔王の琴線に触れる。


 不合理を突き抜けた”エスプリ(魂の匂い)”を男は持っていた。

 ヴァルヘルムはその優れた嗅覚で知る。

 魂の匂いと形容するそこには、比類なき強さと眩い精神に溢れていた。


――『もちろん、美女ちゃん優先だけどな』


 のちの英雄王ルネスブルグは、大きな笑い声をあげていた。


「……くっくっく」


 含み笑いであるも、竜王ヴァルヘルムは愉しげに笑う。


「まさか……まさかであるな、ルネスよ。貴様をおもうなど、儂も随分と老いていたようだ……」


 ぶわり。

 ローブの裾が地面から離れた。

 浮遊したヴァルヘルムの眼差しは、ペタリと地に伏せる不格好な戦士から、金色純白の見た目も良い勇者へ。


「儂らはここより()る」


 ヴァルヘルムの意向に、飛竜が両腕の翼を羽ばたき応じた。

 後脚で手招きドラゴンを捕らえながらに、空へと舞い上がる。


「して、勇者よ……。此度(こたび)の儂の出向きは、主への顔見世としておこう……」


「竜王ヴァルヘルム!」


 投げかけられた声に、アーサーが身を乗り出す。


「それは――、貴殿は人族との争いを撤回する。そう言うのか」


「人族の戦士が、儂の眷属の助けとなったは事実……この場限りは、報いたまでである。これから先、主が儂の領地に踏み入ろうものなら、儂は言葉でなく魔王たる力を示し、主に開戦を告げるとしようぞ」


 人にとって、竜王ヴァルヘルムの脅威が消えたわけではない。

 しかし、迫り来るはずであったそれが遠のいてゆく。

 アーサーは最悪の事態である”人魔大戦の再来”の窮地――その道筋から、今まさに脱した。


――安堵。それと……。


 自然に笑みが溢れる。

 そして、自分の不甲斐なさに奥歯を噛み締めるが。


「貴殿のその言葉。僕は信じてみることにしますよ」


「この儂を、主らが”西の魔王”と呼ぶ、小賢しき女とも等しい魔王とでも申すつもりか。愚弄(ぐろう)するでない……」


 最後は機嫌を損ねてしまったらしいが――。

 ゆるりゆるりと浮上してゆくヴァルヘルムを、アーサーが見上げ、見送る。


――『月たる(ヌエ)』を探るはずだった、手招きドラゴンのクエスト。


 目的であった『魔法具(マテリア)』は破壊されてしまった。

 それでも……いいや、そのおかげで、竜王ヴァルヘルムとの大きな争いはまぬがれた。


「彼に僕は……人々は救われた。そういうことだよね」


 ふ、とアーサーは見やった。

 竜王と対峙し、溜飲を飲ませ引かせた戦士を。

 倒れる不格好な姿はその勇敢さから。

 今は名も知らない。しかしきっと、心に刻みつける名となる予感がする。

 勇者は戦士に、羨望の眼差しを送るのであった。


 こうして、魔王の登場もあった手招きドラゴンのクエストは終わる。


――はずだった。


 ちゅどーん。


 洞窟の岩肌が”魔法の巨槍”――『グンクニール(破壊と破滅を)ジャベリン(もたらす矛)』の攻撃を受ける。


「チッ。照準値の補正が必要のようですわね」


 竜王ヴァルヘルムを狙った魔法が外れ、歯がゆい。

 そんな黒き魔法士ラティスが遅れて、そして、不意に姿を見せた。

 その現れた仲間から近い、ノブナガが目を見開き振り返る。


「おいっ、ロイヤール、いきなり何してんだっ!?」


「ええ。本当に、いきなりの事でさっぱりですわ。それでも、はっきりとしているのは、あのクソ老いぼれに一発かましてさしあげなくてはいけないという事っ」


「やめろっ。俺達と魔王との話は今しがたついたところだっ。後で説明すっから、こじれるような真似をするんじゃあねえっ」


「まったくもって(わたくし)とした事が……迂闊(うかつ)でした」


 ノブナガの大声に、ラティスは反省の色も濃いその面持ちをうつむかせた。


「求められる握手や『魔晶写影機(ポーラロイド)』の写影会などにうつつを抜かしていた事が、本当に悔やまれます……」


 しおらしくもあったその頭上に、再構築された魔法陣が浮かぶ。

 血走る目が前を見据える。

 ズギャーンッと発射される”魔法の巨槍”。

 続いて、ズギャーンッ! ズギャーンッ!!


「糞だらああ。やめろってつってんだろうがっ。気でも狂ってんのかよ、このスットコドッコイっ」


 せっかく折り合いがついたらしいアーサーと竜王の話に水を差す行為。

 ノブナガが絶叫気味で制止に走る。

 しかしながら、ラティスにはそれすれも見えていないだろう。

 魔晶石の影響を受けやすいここで、さらに繊細さを要求される高等魔法を連発。

 そのような冷静さを欠く少女の瞳が焼き付けるのは、倒れるアレクの姿と、そこへ向き合っていた魔王たる(おきな)


 当たらぬ”魔法の巨槍”は、鉱山洞窟の岩肌を次々に崩す。

 それを気にするまでもなく、竜王を始めとしたドラゴン達は空へとその姿を消した。

 残された者達は、各々それぞれに見合う行動をとるようであったが。


――周りの騒がしさにもお構いなく、寝息を立てていた者には寄り添う影が二つ。


「ふう。とりあえずアレクだし、大丈夫みたい」


 エリはココアに、アレクの安否を告げた。

 見た目は無事とは言い難いほどにボロボロ。

 それでも、しっかりとした呼吸は――、元気に生きている確かな証として十分であった。



魔法辞典:「その奇跡は獣と化す(ケモノフレンズン)!」


神官が起こす奇跡術の魔法。

ただし、ライブラの名を始めとする四聖卿と呼ばれる教会の中でも特別な地位にある者達、それに連なる者にしか伝えられていない、いわゆる秘伝の魔法。

また、使用者は、神官でも女性となる巫女に限定される模様だがお~。


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