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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―II´ 】……今回の冒険の結末がさらなる冒険を呼ぶ予感パートです。
77/147

77 ウルクアレクと竜王と――。 ②

ありがとうございます。

今回「注釈=*」の表記がありますが、環境によってはこちらの意図通りに反映されないかもしれません。

表記のアイデアはこちらから。

『駄菓子屋さま式ルビ』

https://ncode.syosetu.com/n2116cz/



「……久しく忘るは、この血の(たぎ)りであったな」 ((忘る*わする))


 ヴァルヘルムの喉元で、ピタリと止まる鋭利な切っ先。

 ロングソードは、その刀身を掴まれている。

 攻撃を止めた手に力が込められば、バキンと砕け折れた。

 それと同時に、動きを見せる者がいた。

 ただし、攻撃を仕掛けたアレクではない。


「こうなりゃ仕方がねえっ。アーサーっ」


 ノブナガがアーサーに告げる。

 その意図は、竜王との対話は終了だと。もはや今ここで、戦い倒すしかないと。

 しかし、その動きに先手を打つのは、竜王ヴァルヘルムのほうであった。

 刀身を砕いた手とは逆の腕が、振り払うように(くう)を薙いだ。

 すると、バリバリバキバキ地面が音を立て隆起。


――辺りに二本の腕が生えた。


 巨人の大きさ、岩の硬さとなる拳が敵対者を襲う。


――ドゴン、ドガン。


 アーサーが華麗に後方へと退く。

 ノブナガはエリとココアを両腕に抱え宙へ退いた。

 一方でヴァルヘルムは、自身が相手にするアレクとのにらみ合いを続ける。


「万全とは言い難き有り様であるも、その蛮勇に、儂自ら相手となろうぞ」


 ヴァルヘルムがのぞく先。

 アレクの口からは、ダラダラと血が流れ出ていた。

 手招きドラゴンに踏みつけられ、食べられ。

 当然の報いであるそのダメージからのそれは、先程の仕掛けた攻撃の反動によるところが大きいが。


「して、どのような死を望む。人族の戦士よ」


 冷徹。

 相手がどのような状態だろうとも、竜王は与える死を見据える。


「キサぶは……。ちょっぶと、待て」


 アレクが自分の腹を殴る。

 ぶはっ、ドバドバ~ゲボゲボ~と血を吐き切れば、ゴシゴシと口を拭いた。


「それで……なんだ……。俺はキサマとなんの話をしていた」


「……儂は主にこう問うた。刹那の死か、それとも絶望を悟り(じゅん)ずる死か。儂が名誉ある死を主にくれてやろうと言うのだ」


「おお、そうだった、そうだった。何やらキサマ風情が、そんなことをホザいていたようだったな」


 キリリと精悍(せいかん)な顔に、あざ笑うような物言い。


「そして、面白くもないが笑えるな。くれてやろうと言うのであれば、そんなものは断るまでもない。この俺は、”くだらんモノをよこそうとするなっ、クソジジイっ”と言い返してやるだけだっ」


「豪胆に振る舞おうとも、死を恐れるは当然。されど、人族の戦士よ。面恥とは思わぬのか。己が前に訪れた死とともに戦いに果てるが戦人(いくさびと)の本懐であろう……」


 竜王ヴァルヘルムが再び問うた。

 それは、相手には聞こえない、ふと湧いた声がそうさせた。


――『そんなもの、断るまでもないだろうさ――』


「何かと難しそうな言葉を使い偉ぶってはいるが、バカ者ジジイなら、バカ者ジジイらしくしておけ。俺がキサマを殺すっ。ゆえに、キサマが俺を殺すなどという話を聞く必要もないということだ。そんな簡単なこともわからぬようでは、クサコ以下の脳たりんジジイになるぞ。あわれ過ぎるジジイになるぞ」


 挑発もここに極まれり、といった具合だ。

 武器もなく、また思うように身体も動かないことにも薄々気づいたのか。

 他にできることもないからこその、”口撃”とするようだ。

 しかしながら、厳しくも涼しい顔のヴァルヘルムに効果があるとは思えない――が。


「ならば……、改めて問うてみるも一興か」


 微かだが、(おきな)の口元が緩むか……。


「人族の戦士よ。この儂、魔王ヴァルヘルムを討ち果たし、何を望む。人族の安寧か、それとも戦人としての名声か」


「相変わらず、小難しそうなうえに、あれこれと面倒くさそうなどうでも良いことを……」


 アレクは舌打ちを鳴らす。

 面と向かうヴァルヘルムに辟易(へきえき)するようだ。

 しかし、その口は尻込みするどころか、大きく、そして強く開かれる。


『お前が俺の気に食わねーことをするからな。だから、ぶっ殺しに来ただけさ』

「何度も言わせるな。キサマが俺をムカつかせた。だから、ぶっ殺すだけだっ」


『何を望むかだって?』 

「俺が何を望むかだと」


『決まっているだろっ。この俺が求めるのは、女だ!』

「決まっているだろっ。この俺が求めるのは、(ルネ)だ!」


『お前が死のうが生きようが、俺にはなんの価値もない。あえて言うなら、興味ない野郎のお前にうんざりってところだ』

「ゆえに、一ルネの価値もないキサマに興味のない俺は、相手をしてやっているキサマにウンザリ気分しているところだ――」


 そこまで言い放つと、アレクが。


――ドバはっ、であった。


 噴水のような吐血。

 バタンと前のめりに倒れた。

 周囲を唖然、呆然とさせたその光景にあって、竜王ヴァルヘルムはささやくように言葉をこぼす。


「……のう、ルネスよ。貴様が戦英の墓標(ヴァルハーラ)に名を刻み誓約を残した頃より、どれほどの無聊(ぶりょう*)なる年月が流れたであろうな……」 ((*退屈))


 それは、『重なり聞こえた声』へ尋ねるのではなかろうか――――。



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