76 ウルクアレクと竜王と――。 ①
「おい、やめろっ。見た目はあんなだが、相手は”北の魔王”、竜王ヴェルヘルムだぞっ」
ノブナガが声を荒げる。
到底敵わない――ばかりだけでなく、アーサーと竜王との話をぶち壊すそれは避けねばならない。
「ほう、このクソジジイが”魔王”か……」
外野からの助言に、アレクがささやくようにして応じた。
――『意外にも冷静だった』。
エリの目にはそう映る。
怒りに満ちた態度から、有無も言わさずその魔王に襲いかかる筋書きだったゆえに。
「それで、筋肉ダルマ。コイツの報奨金はどれくらいだ」
「はあ!? んなモンあるわけねーだろっ。魔王なんだぞ」
「そうか、ならばエラそうにしているこのジジイは、ただの見栄っ張りジジイというわけだな」
ノブナガから竜王ヴァルヘルムへと、アレクは意識を向け直す。
すると、どうだろう。
不機嫌そうな表情ではあるものの、ついさっきの憤怒の形相が影を潜めていた。
「……そうあるべきが必然……とはいえ、いささか拍子抜けであるぞ、人族の戦士よ……」
アレクの罵りに対しての……皮肉だろうか。
ヴァルヘルムが敵意を剥き出しの相手について、言及するようであったが。
「ふん。勘違いするな。俺のほうがキサマに拍子抜けというヤツだ。ウサピーほどの価値もないジジイに、俺の興味が失せただけだ……」
アレクは言葉通りの態度を示すように、あらぬ方向へ身体を向けた。
ヴァルヘルムの目の前で、なんの躊躇いもなく行われたそれは、何かを探す仕草であった。
のそりのそり。
周りから見ると明らかに不自然なそれも、当人はさり気なくのつもりで歩き近づく。
アレクの足元に転がるのは、落としていた鋭利な武器。
――すうううう、と大きな呼吸。
「と、見せかけての――絶技」
ダンッと地面を割るような強烈な踏み蹴り。
それによって、ドバーンと巻き上がり吹き上がるは、土埃と岩の破片と――そこに紛れるロングソード。
――アレクが、パシりと武器を手にした。
ギラリと光らせる眼光。
ぎぎぎと力が込められてゆく肉体。
「”だがキサマはっ、俺のお宝に手を出したことを後悔する間もなくブチ殺すっ”攻撃を喰らうがいいいいっ」
――『やっぱり、根に持ってた』。
そうエリが確信した時には、もう遅い。
ノブナガが止めに入ろうと動くが、もう遅い。
ズドン――っ。
大砲に勝る勢いで放たれる、ロングソード。
剣技ズバッシュとアレクが命名する投擲攻撃。
絶対的な強者ゆえの危機感の無さ。
あらゆる攻撃を防ぐ強固な魔障壁を展開させていたこその油断。
竜王ヴァルヘルムは、正面からまともに受けてしまうことになる。
さらには、
――絶命必至のそれであった。
常軌を逸した威力。
ロングソードは、ヴァルヘルムの魔障壁をいともたやすく貫く。
渾身の一撃となったその切っ先は、狙い通り魔王の喉元へと届くのあった。




