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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―II´ 】……今回の冒険の結末がさらなる冒険を呼ぶ予感パートです。
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73 竜王ヴァルヘルム ②



 話し合うというには、相手ヴァルヘルムとは(へだ)たる。

 意識のすれ違いを表すようなそれを埋めるように、アーサーは前へ出た。

 

「竜王ヴァルヘルム、その決断は見誤るものだ! 貴殿ほどの者が迂闊(うかつ)にも、悪しき者の手のひらで踊らされようとしている。それを僕は正したい」


 勇者アーサーにとって、ここは引くわけにはいかない。


――今はまだ、”北の魔王”との戦いは避けなければならない。


 そのために、アーサーは今回のクエストに名乗りを上げた。

 それが、悪しき者『月たる鵺』の描いた絵だったとしても――、直面しているようなリスク(危険性)を生むとしても――、人々の未来を考えればこの方法しか選ぶ余地がなかった。


――相手がいくら拒絶しようとも、アーサーはなおも詰め寄るがしかし!?


 攻撃を仕掛け、そこに割って入る者がいた。


「グゴルアアアッ」


 手招きドラゴンの尻尾が振り下ろされる。

 人の身には大木となるそれは……その人たる姿のヴァルヘルムの頭上へと叩きつけられていた。


「……(なげ)かわしい」


 白髪からいくらばかりの空間を残し、鮮黄色の尻尾が受け止められている。

 ヴァルヘルムは変わらずただ佇んでいた。


――だが、”見えない壁”を使い防ぐ。


 そして、この現象に強く反応してみせたのは、事の成り行きを見守る――いわゆる外野の者。


「なんつー硬え、”魔障壁(ましょうへき)”だ」


 ノブナガがボヤくそれは、魔族を球体状で包み込む防護壁であった。

 魔族の誰もが展開できるものでもないにしろ、魔族ゆえ術式も必要としないその魔力の障壁は、


――『魔障壁』と呼ばれた。


 無色透明なるも、瞬発的な力を受けた場合などに起こる反発作用は視覚でも感知できるだろうか。

 そして。

 許容を上回る力に対しては無力ではある。

 また、多くの魔力を消費するのか、障壁範囲が増す大型の魔族ほど展開が困難のようだ。


――しかし、危害を加えてくるありとあらゆる力を妨ぐ役割を果たす。


 そのような魔障壁は、魔力の質や総量に基づきその強度が反映される。

 言い換えれば、”魔象痕ましょうこん”の数が多いほど魔障壁の強度は増す。

 (とう)の斑紋を持つ魔王ともなれば、手招きドラゴンの尻尾攻撃ごときではびくともしない強度を誇るようであった。


「やっぱ向こうも、手招きドラゴンの奴が正常な状態じゃあねえって事を知ってそうだな……」


 ノブナガは推察する。

 配下であるドラゴンから突然の攻撃を受けているにもかかわらず、ヴァルヘルムからは少しの動揺もうかがえない。


「うわわ、赤いドラゴンさんが!?」


 エリがノブナガの隣から顔を出す。

 竜王ヴァルヘルムの脇で控えるように鎮座していた赤い飛竜(ワイバーン)。その飛竜が、手招きドラゴンを襲っていた。

 (あるじ)に働いた暴挙に、怒り心頭といった様子だ。

 飛竜は同じ眷属であるはずの手招きドラゴンを、お構いなく大地へとねじ伏せた。

 ズシーン、と重たい音が響くなか、


――ぐらぐらら~、と鉱山洞窟内が大きく揺れる。


「あ、すみません」


 体を支えようとしたエリが思わず手を伸ばした先は、隣の固くて太い腕。

 ちなみにココアは、エリの柔らかさのあるお尻に、ばむっと顔をぶつけていた。


「構わねえよ。それより、なんだなあ……エリの嬢ちゃんは、あそこに見える奴が誰だか察しはついてるよな?」


「ええと。ノブナガさんやアーサー様のお話からすると、”北の魔王”さんなんですよね、あちらのお爺さん……」


「だな。それを知ってて、平気を保っているみたいだからよお、嬢ちゃんは意外と大した肝っ玉の嬢ちゃんじゃあねえか、と感心していたところだ」


「あはは……そういうわけでもないのかな~と私は思います」


 エリが頭を掻いて、ぎこちなく笑う。


「魔王さんとかすんごいお爺さんがいても、ノブナガさんやアーサー様がいらっしゃるので、大丈夫な気がするのもあるんですけれど……アレクがドラゴンさんに踏まれたり食べたりで驚くのに忙しくて……」


 ちらり一瞥(いちべつ)した視線は、飛竜に上から組み敷かれる手招きドラゴンを見た。


「私がオタオタしなくて済んでいるのは、たぶん、驚きが出尽くしているから、かな? えへへ」


 たとえ勇者達頼りになる者らがいようとも、エリのような一般人が魔王を間近にしたらどうなることだろう。

 慌てふためき泣き叫ぶ――とまではいかないまでも、確実な恐怖に身をすくめてしまうのではないか。

 蒼白(そうはく)で強張る顔に、逃げ腰で震える体……。


 しかしながら、エリはそうはならないようだ。

 標準的なことだけが自慢の一般的な娘は、いつもに近い表情豊かな顔とのんびりとした雰囲気である。

 ともすると、これはエリという少女の魅力に繋がる個性――ではあるが、やはり、アレクとの冒険を経て、知らず知らずのうちにノブナガの言うような肝っ玉が備わったのだろうか。

 ならば、それは成長というもの。

 はたまた、アレクの死を受け入れられない戸惑いが影響しているのであれば、それを不幸中の幸いとして扱えば良いというもの。


 とにかくは、この時この場においてエリの平常さは、ノブナガにとっても好ましいはずだ。


――守るべき対象が平静を失いパニク(発狂)っていたなら、守れるものもそう簡単ではいかなくなる。


 そうして。

 守るノブナガ、守られるエリとココアの立場のままに、三人は意識を再び向こうへと集中した。

 ここよりほんの先からは、途端に空気の張り具合と温度が異なる。

 それもそうだろう。

 魔王との対話を望む勇者アーサーの歩みは、まだ始まったばかりなのだから。




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