64 手招きドラゴン ③
「俺流戦闘術秘技、先手必勝殺法を喰らうがいいっ。アレークううう」
だん、と踏ん張る身体。
力を溜めるように己の名を口にする。
ぐぎぎぎぎいいっと握りしめるロングソードは、大きく振り上げられている。
「ズバッシュ――ッ!!」
ドッ、シュパ――ンとロングソードが矢の如くである。
――否っ。
弓矢を射るそれとは段違いな投擲。
あまりのデタラメ具合に空気の層すらも穴を開けるだろうか。
一瞬、描かれた。
真っ直ぐに放たれたその軌跡に、穿つ跡のような螺旋の帯を引く――。
凄まじい投げっぷりで飛ばされたロングソード。
言わすもがな、相手の眉間に難なく突き刺さっていた。
距離を置く手招きドラゴン。その頭部がもがくように振れる。
――グゴルルル……。
低い唸り。
つかの間四肢を止めるも、怯む様子ではない。
むしろ、はっきりとした敵意を植え付けたようにも思えるが。
「だあはははっ。さすが俺だ。会心の一撃、見事命中だ。天井の空がいつの間にか明るかったり、目的のキサマがすでに居たりとよくわかんことだらけだが、体の調子はすこぶるいいぞ」
アレクが腕をぐるぐる肩を回す。
ぐっすり眠ったことで体調は万全を期すようだ。
「さて。それはそうと……」
にぎにぎ。
武器を放つ手が、物欲しげな仕草。
「もしかして……先に剣を投げたのは失敗した、とか思ってる?」
発言の主は、アレクの傍ら――後方にて控えていたエリ。
心情を見透かすようなそれに、『ぐぬっ』と反応した背中が翻る。
ズンズン。アレクが数歩前進。
重なる勢いで接近すると、見下ろすエリに乾いた笑みを向けた。
「俺は違うが、お前がそう思うなら、お前があそこからアレを取ってこい」
あそこ……とは、アレクが立てた親指でグイっと指差すドラゴンのこと。
アレ……とは、そのドラゴンに突き刺さるロングソードのこと。
なので、エリの反応は自ずと決まっていた。
――ぶるぶるぶるぶる~。
嫌そうな顔が右左と反復する。
「できぬなら、無駄な口を叩くなっ」
くわっと鬼のような形相でアレクが一喝。
苦笑いで受け止めたエリは 『図星だったんだ……』と確信したことだろう。
そして、その間にも。
――ズズズシン、ズズズシン。
手招きドラゴンはこちらを標的にその距離を詰めてくる。
――キョロリ。キョロキョロ。
アレクがせかせか辺りを見回す。
「おい、チビコっ」
「チビコじゃないよ、ココアだよー」
呼ばれたココアがてとてと。
すると、近寄るやいなや、その銀髪目掛けてぐわっと厳つい手が襲いかかる。
ぐみゅん、とアレクが掴む。
その手が捕らえたのは、ココアの頭の上に鎮座していた……蛙であった。
「喰らうがいいっ。蛙でえええ、ズバッシュ――ッ!!」
ギュオオオオ――ンと発射された蛙が、手招きドラゴンへ一直線。
そうして。
――まさしく文字通りに、喰らう。
グゴアアア、と顎を開くドラゴン。
蛙は、その口の中へ投げ込まれていた。
つまりは、バクリゴクリと飲み込まれてしまった。
「ボルボル、食べられちったー」
「しょせんは蛙か。俺の秘技が、ドラゴンなんぞに餌を与えただけの徒労に終わるとは……」
やれやれ。
そんな態度のアレクが……。
『チッ』と軽い舌打ちを聞かされてすぐだ。
鳴らした音を置き去りにするように、ドドドドド――と猛烈な勢いで突進してゆく。
もちろん、そびえるような鮮黄色の巨躯にだ。
――デタラメ戦士対、六つ星ドラゴン。
ファーストアタックから始まった戦いは、どうやら遠距離戦から接近戦へ移行する模様――である。




