表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―II 】……世界構築、キャラなど一気にスケールが広がるパートです。
43/147

43 大浴場 ②



「あれだね。なんだかんだ言っても、アレクってやっぱり冒険者なんだね。私にはそんな発想なかったから、その、すごいと思います!」


「……わざわざクサコごときから言われんでも、俺は当たり前にすごいわけだが……しかしながらこの場合は、考えなしのお前がただ単に馬鹿なだけだろ?」


「なんでだろう……褒めたつもりだったのに、どうしてなんだろう……」


 エリは釈然(しゃくぜん)としないままにつぶやく。


「ともかくだ。今夜中にドラゴンのねぐらを見つけるぞ。罠があればあったで、俺のドラゴン狩りの邪魔になるヤツらがいるということだからな。ソイツらを蹴散らしておく必要がある」


 よくよく聞けば、アレクの物騒な考え。

 そこに向けられるエリの浮かべる表情は、む~んと同意しかねるものだったが。


「なんだ、まだ言いたいことでもあるのか?」


「他の冒険者さんたちを……のところも気になるんだけど……その……ええと……うーんと……」


「じれったいヤツだなっ。とっとと言え」


「やっぱり、いいです。きっとアレク、ダメだって反対するもん」


 聞かずとも、エリの中ではすでに答えが出ていたのだろう。

 しかし押し黙ることをほのめかす言い草には、それ相応の反応があった。


――ビシュッ、ビシュッ。


 アレクが『デコぴん』と称する、しなる中指の素振りを始めた。 


「あ、はいはい! 言います、言いますっ。お風呂っ、せめてお風呂に入りたいなあって」


「うむ。ダメだな」


「ほらーっ」


 そう声を荒げてすぐ、エリは『きゃいたっ』と小さな悲鳴をあげた。

 アレクの指先によって弾かれたおでこをスリスリ。


「なぜに俺が、”ほらー”などとお前から勝ち誇られねばならん。ドラゴン討伐に風呂なんぞ必要なかろうがっ」


「でもでも、アレクだって前言ってたよ。一流のモンスターハンターは体の匂いを気にするものだって」


 胸元できゅっと握られた両拳。

 エリは熱意を伝えるその態度で食い下がろうとする。


「時と場合によっていろいろだ。今回の場合、クサコはエサ係なのだから、どちらかと言えば人間臭いクサクサのほうがいいだろう。喜べ。クサコだけにうってつけというヤツだ」


「う、うってつけじゃないもんっ。私クサコだけど、臭くなんかないもんっ――じゃなくて、餌係って!?」


「人を襲うドラゴンのエサといえば、人間に決っているだろう」


 エリの顔が青ざめてゆく。

 それから、ビシっと挙手をした。


「はいっ。わたくしエリは、つつしんで餌係を辞退したいと思います!」


 力強い宣言だった。

 更には、その力強く伸ばす腕が、これまた力強くがしりと握り取られてしまう。


「わーわー、ごめんなさい、嘘です。嘘じゃないけど嘘でしたっ。でも、無理だよう。私なんかきっと美味しくないから、絶対ムリムリムリいいいい、痛たたたたたたい」


 アレクから腕を掴まれながらに、エリは半べそでわーきゃー騒ぎ立てる。


「おいこら、ちょっとばかり腕を掴まれたくらいで、そんなに騒がしくなるんじゃない……まったく、なにかと世話のやけるヤツだな」


 アレクが、パっとエリの腕を離す。

 そうして今度は、肩を抱くようにしてエリを抑えつけた。


「クサコよ、落ち着け。そして、しっかり俺の話を聞け」


 小柄な肩に乗る大きな手は、がっしりとしていながらどことなく優しくもあった。


「ドラゴンが俺のあまりの強さにビビって逃げ出すやもしれんだろ。エサ係の話はその時の話だ」


 グイっと精悍せいかんな顔が近づく。


「ゆえに……そうやすやすとドラゴンなんぞに、お前を食わせたりはさせんということだ。わかるな」


 有無も言わせぬような真摯な眼。


「……アレク」


 正直、エリには言われた理屈がよくわからなかった。


 ただそれでも、餌であることはなんら変わらずとも――エリは感じ取ってしまう。

 アレクの自信に満ちた言葉に、包まれるような安心感を覚えてしまう。


――じー、と見つめた先。


 普段の荒々しさが今はどことなく頼もしい……そのように思えなくもない。

 アレクが微笑んだ。

 にっ、と牙のような鋭いうわあごの歯を見せてくれる。


「なにせ、お前からはまだルネをいただいていないからな。あっけなく死んでもらっては俺が困るだろ」


「うう~、アレクだよう、やっぱり、いつものアレクだったよう……」


 ヘタヘタと脱力するエリ。

 そこへココアの小さな手が差し出される。

 手のひらに乗るのは、ドラゴンまんじゅう。

 幼き少女の気づかいに『ぐすん、ありがとう』とお礼を返せば、エリはハグハグと口にした。

 

「……だったら、うんん。もしかしたら、私の人生明日までかも知れないから、やっぱりお風呂を、最後の思い出にお風呂を……」


「エリのお姉ちゃんは、お風呂が大好きなの?」


「うーんとね。クリスタには『大浴場』っていう大きくて特別なお風呂があるんだよ。魔晶石板に紹介があったの。プジョーニにはない施設みたいだから、せっかくだし、一度くらいは入ってみたかったなあ……って」


 エリは未練たらたらといった具合で、ココアに嘆く。

 すると、そばではバサリとマントをひるがえす音がした。


「そうか。風呂は風呂でも、プジョーニにはないデカくて特別な風呂とな……」


「アレク?」


「少し面白そうではあるな。ドラゴン討伐のついでということで、ヨーコへの自慢話にでもしてやるか」


 アレクが生えてもいないヒゲを擦るようにして、自身の顔をなでた。


「そうと決まれば、クサコっ。まんじゅうなんぞをかじっている場合ではなかろう。さっさとそこへ案内しろ」


「えっ、え!?」


「その大浴場とやらに、これから行ってやろうではないかっ」


「はむはむ……やろうではないかあー」


 最後のまんじゅうを食べ終われば、ココアがわーいと両手を上げやる気を見せた。

 そして、ささやかな願いが聞き届けられたエリは、その足取りを徐々に軽快にしてゆくのであった。






大陸辞典:「三種の神器」


六合級を超える無限級の武器。

3つほど知られてされているが、名前だけが伝わるのみ。

ムラクモ、ヤタカガミ、マガタマ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ