40 探し人
教会は、人々に神への祈りの場を提供するばかりではない。
”探し人あらば教会を訪れよ”と言われるように、特定の相手を探す場としても利用される。
孤児達を預かる教会には生き別れになった家族を求める者や、条件の合う孤児を里親として引き取る者など、人を探し求め訪れる場所としての慣習がある。
いつ頃からか、それらの行為は総じて『探し人』と呼ばれ、人々の間や教会内でも定着していた。
エリが迷子相談として、こうしてここに足を運んだのはこの理由からだ。
教会の長椅子には、その『探し人』エリと横ですやすや休むココア。
そして、シスターマルガリータが座る。
手には、教会の聖典本よりもやや大きい四角い板――。
「さすが、魔晶石の街クリスタですね。記録帳が羊皮紙じゃなくて魔晶石板なんですね」
「これを使うようになったのは、ここ最近ですね。便利ですから、その内ブジョーニの教会でも使われるようになることでしょう。それでエリさん。調べてみましたが、迷子届けは……今のところはまだ無いようですね」
魔晶石板上の文字が操作によってパっパっと変化する。
シスターマルガリータが淡々と目を通してゆく……が。
「あれ……私、マルガリータさんにプジョーニから来たって話しましたっけ?」
「いいえ、直接はうかがっていません。先程ラティス様のほうから、エリさんがプジョーニからの旅行者だと聞かされていましたから」
「ああ、それで。ラティさんが気を利かせてくれたんですね」
「なので、連絡先はプジョーニのぱんだ亭ではなく、こちらでの宿の名前を登録させていただくつもりです」
「宿、宿……その、すみません。クリスタには今日着いたので、まだ……」
「後日でも問題ありませんよ。クリスタの街にはところどころに魔晶石板が設置されています。そこに朝と晩『探し人』の連絡等が記載されますので、こまめに確認して下さい」
「うわ、すごい便利」
「はい、便利になりましたね。一昔前までは何日も教会で夜を明かす待ち人も居ましたが、今では見なくなりました。それで、そちらの女児の名前を教えて欲しいのですけれども」
「あ、はい。彼女は、ココア―ジュ・クロニクル・フォン、フォン、フォ……ええと……ううんとおお」
むぎゅ~と目を閉じ、ウネウネ~と身をよじるエリ。
「エリさん?」
「ココアちゃんでお願いしますっ!」
無駄に元気な声だった。
「名前はココア。年齢は五、六歳。銀の髪に蒼い服。はい。これで『探し人』に必要なことは終えました。もし宿がお決まりでしたら、また教会を訪ねて下さい」
「ありがとうございました!」
「この子に、そして、貴方にアマンテラス様のお導きを」
エリ達に祝福の言葉を贈ると、シスターマルガリータはそそくさと奥の扉へ消えて行った。
「うふふ。シスターさんも神の巫女である前に女の子だもんね。アーサー様の歓迎会に早く戻りたいよね。……そう言えば、マルガリータさんはあんなこと言ってたけど、ラティさんとのお話の時、私”ぱんだ亭”の名前口にしてない気がするような……」
エリが明るい髪の頭をこてっと傾げる。
そのあとは、隣で気持ちよさそうに眠るココアの頬をぷにゅぷにゅ。
「うりうり、可愛いなあもう。食べちゃうぞお」
指先で幾度となく突いては、ほっこりを楽しむのだった。




