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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―II 】……世界構築、キャラなど一気にスケールが広がるパートです。
35/147

35 その男ノブナガにつき、よろしく。 ③


「それと、舞闘拳技ぶとうけんぎでノしてやるのはだけは勘弁してやらあ。ハンデつけてやる義理もねーけどよ、これでも俺は人格者のつもりだからな」


「ならば俺は、ウルク流免許皆伝秘奥義剣術を使わずして、キサマをギッタンギタンにしてやろう」


「……よくもまあ、地べたに転がったままで堂々と負け惜しみを言えたもんだな。呆れもするが、ちとばっかし感心もしちまったぜ」


「ふん。俺は座りたい気分だからこうして座っているだけだ。それはそうと、キサマの後ろに見えるあれはなんだ」


 言い訳がましいことを口にしたアレクの人差し指が虚空を指す。

 ビシっと伸びた指先を追うようにしてノブナガが横顔を見せれば、エリやココアを含めた観衆の顔も一斉に同じ方向を向く。

 そうして刹那、黒い影がノブナガを襲う。


「たく、古典的過ぎんだよっ」


 ノブナガは吐き捨てるように言って、身を捻りざま拳を突いた。

 風圧を起こす高速の正拳突きは黒き影を難なく打ち抜く。

 その真っ直ぐに繰り出された豪腕には、アレクが羽織っていたマントが絡みついた。


「ちっ、フェイクか小賢しいっ。けどてめえの行動なんざ読めてるぜ。後ろかっ」


 マントが巻き付く腕がブンと唸りを上げる。

 ノブナガは自分の背後へ向け、手の甲を相手へぶつける旋回打撃(バックブロー)の一撃をお見舞いした――がしかし。


「気配はあるのに、いねえだと!?」


「だははは、惜しかったな。もっと下だ馬鹿者め」


 ノブナガの屈強な下半身に潜むようにして屈むアレク。

 アレクは人差し指を合わせ組む両手を突き立てる構えであった。


「さらばだ、筋肉ダルマ。伝説の指技しぎをとくと味わって逝け」


「ぐはらっぷッ」


 悶絶といった叫びは、武闘家の臀部に戦士の指が食い込む光景の中にあった。


「きゃはは。カンチョーだ、ムキムキおじさんが、カンチョーされた」


「ほう、チビコのくせにこの秘技の名を知っているとは、そこそこ大したチビコだな」


「チビコじゃないよ、ココアだよ」


 何やら楽しそうなココアとアレクの脇では、痛みを堪えるようにしてノブナガが臀部を抑えうずくまる。


「て、てめえ。ふざけたことしてくれたじゃねえか。くぐう、ちょっとだけ待ってろっ。今度は手加減なしでてめえを」


「だあはははは、俺に転がる筋肉ダルマの相手をする悪趣味はない。負け犬ならぬ負けダルマはそこで勝手に苦しみ悶てろ。そして、この技の真骨頂は三年以内に必ずになるところだ。クククっ、俺に挑んだことを存分に後悔するがいい」


 アレクは地へ落ちるマントを拾い上げ、バサっとはためかせると元の場所へと装着する。

 それは勝者の凛々しい振る舞いであった。


「さて、それはそうとクサコは何を辛辣しんらつな顔で呆けている」


「険しくもなるよう……アレクってばまたノブナガさんにヒドいことしちゃったんだから」


「よくわからんが、筋肉ダルマがどうなろうと関係ないだろ。気にしたところで一ルネの得もないぞ。それよりいつまでのんびりしているつもりだ。さっさとここから――」


「そこのお嬢さん方、その男から離れて下さいっ」


 不意に発せられた鋭い声が、アレクとエリの会話を遮る。

 声の主である武装した若者は駆け、ココアを抱きかかえるとエリの元へ近づきその背に少女達を隠す。


「団長っ、一般人の隔離問題なしですっ」


「良し。魔術団員は『拘束の鎖バインドチェーン』を発動」


「「了解です」」


 人だかりの場に、蒼い布を首や腕に巻きつける者達の伝達が響く。

 団長と呼ばれた中年男性の指揮の元、展開された数名の手の者によってアレク並びにノブナガが包囲された。

 エリが何事かと若者の影からアレクをのぞけば、複数の発光する”円”が地面でクルクルと回っており、マジックスペルを内包するそこからは光る鎖が飛び出していた。


「クリスタの自衛団か。状況からして、飲食街で暴れるやからを取り抑えに参上したってところか。野郎がふん縛られるのはいい気味だがよお、ちっ、俺も拘束しやがるとは。だが、初手の判断としちゃ間違っていねえわな」


「ふんぬうっ、うんぬうっ」


「無駄だよ。そいつは地属性の魔法の鎖で、力任せに引き千切れるようなただの鎖じゃねえからな」


 顔を真っ赤にするアレクと親切にも忠告するノブナガの体には光る鎖が巻きつく。

 ”円”から生えるのは魔法の鎖で、普通以上の強さを誇る男達をやすやすと縛る。

 地面へ縫いつけるような鎖の捕縛は、アレクに膝を折らせ、ノブナガを臀部に両手を添えた状態で抑え込んだ。


「騎士団員は二班に分かれ各班で暴漢どもに制裁を加えろ。抵抗するなら腕の一、ニ本は折ってやれ。『拘束の鎖バインドチェーン』の効果時間はそう長くはない。迅速にやれ」


「おうおう、荒っぽいことで。さすが冒険者でごった返すクリスタの自衛団だけのことはあるな」


「ふごおおおお」


 余裕があるのか動揺もなく、ノブナガは不格好のままであるも軽口を叩く。

 一方でアレクは鼻息を荒くし、更に顔の赤色を濃くした。


「諦めな。教えてやる義理もねーが、『拘束の鎖そいつ』は魔力を扱える奴の解除魔法や、俺のような舞闘拳技の類の力を扱える奴じゃねえと太刀打ちできねえ代物だからよお……って!? おいっマジか。どういうこった!?」


 くわ、とノブナガの眉根が深くなる。

 アレクに絡みつく光る鎖の一部が、光を失い鉄色のそれへと変化していたからだ。

 そして、次の瞬間。


「ふぬがああああああっ」


 ガラスが割れたような音とともに、『拘束の鎖バインドチェーン』がパーンと弾ける。


「だだだ団長っ。戦士風の若い男の拘束が解けましたっ」


「狼狽えるな。騎士団員は戦士の男を牽制。魔術団員長オソノ、あれはどういう事だ。あの暴漢が魔法を扱える戦士だったとして、解除スペルを使用した形跡はなかったぞ」


「おっしゃるように、あの者が魔術式を唱えた様子はありません。ですので、魔法術者でもあるその可能性は薄いです。そこから推察すると、恐らくあの者が羽織る黒いマントが原因ではないかと」


「マントがか」


「はい。マントに触れた部分の『拘束の鎖バインドチェーン』から魔力が失われた節が見受けられます。何かしらの魔法効果を有する装備ではないかと」


「くっ。魔法具マジックアイテム持ちか。厄介だな。しかし、一時は拘束できた……。次だ。順次『拘束の鎖バインドチェーン』を放つことで対処する。魔術団員は戦士風の男へ向けて、魔術式を絶えず唱えよ」

 

「うぬぬぬ、お前らまたさっきの鬱陶しい鎖の魔法を使うつもりなのか」


 クリスタ自衛団の動きに辟易へきえきするような態度のアレク。

 そんなアレクの視界には、見覚えのある重厚な鎧を纏う(フルプレート)男が映る。

 さすれば、フルプレ男が有無も言わせず持ち上げられた。

 すなわち、魔法を詠唱する魔術団員らへ向けて放り投げる為だ。


「ぎゃあああ、鎧の男がこっちへ飛んで来るるるる」


 魔術団員長オソノの悲鳴を皮切りに、アレクの近くにいた者達が次々に宙を舞った。


「頼みます、受け止めてええ」


「ムリムリムリ。いやああ、来ないでっ」


「何をしている、早く魔法であの者を拘束しぐがっ」


 投げられた者とぶつけられた者の嘆きの連鎖が、着々と阿鼻叫喚の有り様へ変貌してゆく。

 そのような混乱の中にて、クリスタ自衛団の若者が不格好な様の大男を見て目を丸くしていた。


「その、貴方ノブナガさん!? アーサー様御一行のノブナガさん!?」


「おう、そのノブナガだ。俺は逃げも隠れもしねえから、安心しな」


「そ、そうとは知らず、失礼しましたっ。今すぐ、バインドチェーンを――っ!? 団長、団長っ。戦士風の男が見当たりませんっ」


「痛……なんだと。戦士の男が逃亡した模様っ。各団員、追え、追ええ!」


 号令が響き渡った路地の一角。

 冒険者と野次馬、更にクリスタ自衛団が加わり騒いだそこから、アレクの姿はとうに消えていたのだった。




大陸辞典:「円卓の英傑たち」


人魔大戦時に活躍した英雄王ルネスブルグとともに戦った者達を言う。

「12の才器」とも言われ、その中には大陸では珍しい海賊の長も含まれており、八代に渡って引き継がれる「海賊団オージャンズ」は今でも健在のようだ。





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