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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex――I 】……街でのひと騒動をズバんと解決する導入部分のお話です。
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03 少女エリ ②



「おいっ。いつまで待たせる気だ。助けてもらった(・・・・・・・)とはどういうことか、さっさと答えろ」


「うう゛……」


 普段のハツラツとした表情はない。

 いぶかしむエリは恐る恐るといった様子で、吊られながらもそっと後ろを見やる。

 すると恩人に当たる男が我慢の限界だと言わんばかりに、精悍せいたんな面立ちに凄みを効かせて睨んでいた。


「……たぶん私、近々どこかへ売り飛ばされて、正式に奴隷として一生を送る予定で、嫌だと思っても奴隷商の人がそれを許してくれなくて」


「ふむ」


「でも戦士さんがその人達を倒してくれて。おかげ様で、私も自由の身になれそうですから、その……助けていただきありがとうございました、やったね! な感じなんですけれど……私、おかしなこと言ってますか?」


「ほうほう、そうかそうか。お前ら奴隷は、俺がぶっ倒したこのいかにも山賊をやっているような髭面野郎から逃げ出したかったのだな。だから、他のヤツらは慌てていなくなったのか」


「はい。そこの人達は山賊さん達ではないですけれど、そういうことです。きっと先に逃げた娘達こたちも戦士さんに感謝していますよ」


「ふん。ここに居ないヤツらのことなんぞどうでもいい……がしかし。それなら、なぜお前はここでのんびりとくつろいでいた。奴隷の女はとにかく逃げたかったのだろう?」


「……あはは、くつろいではいないんですけれど……」


 エリは苦笑いをしつつ、


「戦士さんが騒ぎを起こしてくれた時に、私も一応、他の子達と同じように逃げようとはしましたよ。しましたけれど、その……コケちゃって。おまけに両手がこんなだから顔から地面に……てへへ」


 もじもじと恥ずかしそうな仕草を見せた。


「ふーん、そうか。お前はどんくさいのだな」


「あぐっ。ち、違います。違いますよ。私、こう見えても」


「つまり、どんクサコだ。だあはは」


 男は否定するエリにそんな結論を告げた。

 そうして掴んでいたボロをバッと離す。

 いいや、正しくはクサコと名付けた少女をポイっと大地へと放った――であろうか。


 一方でふわりと宙を舞った少女はといえば、案の定の着地であった。

 くわえて、縛られる両手が功を奏したのだろう。

 臀部を突き出す格好にて、土塊の地面に顔を(うず)めていた。


「まあしかし、我ながら素晴らしい命名だったものの、クサコがクサコであろうとなかろうとどうでもいい。重要なのはコイツらから俺が助けてやった(・・・・・・)ということのほうだ」


 ズキズキする顔に(もだ)えるエリをよそに、男は近くの地べたで既に事切れている”コイツら”の一人をゲシっと足蹴にしひっくり返す。

 それからゴソゴソと衣服を剥ぐようだった。


「あの……何をしようとしているんですか?」

 

 ぺたんと座る形で身を起こしたエリ。

 男のぞんざいな振る舞いを背後から見てとり問うた。

 ゴシゴシした顔のその眉間は、決して痛みからではない渓谷を刻む。


「見てわからんのか。髭面の服をもらってやろうとしているところだ」


「分かりますっ。だから言っているんですよ。そんな追い剥ぎみたいなことをしちゃダメですよっ」


 そんな抗議にも、男は淡々と剥ぎ取った衣類を着込む。

 さすれば、軽装とはいえ戦闘服に身を包むその様は、彼をより戦士の風貌に近づけた。

 戦士風の男はキュッとベルトを締めると、ややボサくれているような短めの黒髪を掻きながら、その眼差しをエリへ向けた。


「な、なんですか……」


「ふむ。なるほど……そういうことか。クサコだけに脳みそが腐りかけているのやもしれんな……。仕方がない。なぜ俺が服を着るのか、親切にもズドドンと教えてやろうではないか」


 どことなく哀れみを帯びていた眼光が力強く光る。


「人は裸で暮らさんっ。以上だ。覚えておけ!」


「裸が異常なのは知ってますよっ。だからさっきから目のやり場に困ってたんですよ」


「俺はとくに困っていないぞ。それどころか、髭面のくせに割りと着心地の良い物を着ていたので、シメシメといった気分だ」


 上機嫌といった様子の男。

 対して不満からか、頬を膨らますエリ。


「ぶーぶー、ですからねっ。ぶーぶー」


「どんぐりモグラのモノマネなんぞいらんっ。それよりも、だ」


 男は言って、のしのし。

 少女エリの元へ歩めば、地べたで座る相手に向けて手を差し伸べた。

 それは……ぶっきらぼうな言葉使いとは裏腹な行動だった。


「へ?」


 エリが素っ頓狂な声を漏らし固まる。

 眼前には、戦士の風貌に相応しいゴツゴツとした手のひら。

 エリは自分を立たせてあげようとする男の仕草を大きな瞳でまじまじと眺めた。


 そして――。



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