表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―II 】……世界構築、キャラなど一気にスケールが広がるパートです。
28/147

28 道中 ①



          ※




 戦士と給仕の旅が始まった日から数えて三日目。

 『土の日』も快晴に恵まれた。

 太陽が真上近くまで昇る頃には、馬車は北街道に掛かる最後の森を抜けており、魔晶石の街クリスタまで続く並木道をカパラカパラと順調に走っていた――のであるが。


「なぜ止まる」


 後ろからの疑問に馬達の歩みを止めたエリが、並木の一角を指差すことで応える。


「ほら、あそこ。立木の奥のほう見て。遠いからはっきりしないけれど、緑色の草の中に青っぽいものが混じってるの」


「どれ、顔にあるものすべてが優れている俺が確認してやろう」


 エリの頭がわしっと掴まれ固定されると、その横に程々に整う男の顔が並ぶ。


「残念だったな、あれは宝箱の類ではない。青い服を着ているだけのヤツだ。動かぬところをみるとただの行き倒れのようだな。よし、先を急ぐぞ。早く馬車を出せ」


「待ってっ。急ぐところが違うよ。人が倒れてるなら私行って来る」


 頭に置かれていたアレクの手をうんしょと除けエリが言う。


「ヤメておけクサコ。草の上で転がっているのはおそらくガキだ。ガキは金を持っていないと相場が決まっている。無駄足になるぞ」


「物取りが目的じゃないからっ。まだ息があるかも。助けなきゃ」


 ふわりと丈の長いスカートが膨らむ。

 だっ、と御者台から飛び降りたエリは着地するなり駆けた。


 踏みつけられる堅い土が、膝下までの高さで生える草の柔らかいものへ変わる。

 樹木を避けながら行き着いた場所では、彼女よりもずっと幼い子供が地に伏せていた。


 銀青色(フェアリー・ブルー)の服。そして、銀髪の……女の子。

 荒らげる呼吸を抑え、エリはそっと近づく。


「……ボルボル?」


 力ない声のあと、さらさらとした長い髪を流し幼き少女が体を起こす。

 刹那、エリが滑り込むように駆け寄り両腕で優しく包む。


「ああ良かったあ、生きてたっ。大丈夫? じゃあないよね、倒れてたんだもんね。どこか怪我とかしてるのかな? ああ、それとも迷子になって疲れて横になってたとかかな? クリスタの子だよね。うん、きっとそう。もう大丈夫だよー」


 エリが矢継ぎ早に喋ると、虚ろなアオい瞳の少女からは空腹時に奏でられる音が鳴った。


「あは、お腹が空いているんだね」


 よしよし、とエリの手が銀の髪をでる。


「よーし、もうすぐお昼だし、とりあえずお姉ちゃん達と一緒にご飯食べる? 馬車に美味しいイノブタのお肉が……お肉ががが、が!?」


 ぎょっとした顔で言葉を切ったエリ。

 『お肉』に反応した碧眼の輝きを確かめる間もなく、幼き少女を再び細い腕の中でぎゅっと抱きしめた。

 エリの驚きの眼差し――釘付けになるそれは、遠くとはとても言えそうにない距離で並び立つ高木の一本へと向けられていた。


 樹木の影からハミ出る草木の色と近いヌメっとした肌。

 みきを堺にして膨らむ頬の上に目が一つずつ。

 手には水掻きがあり樹の実を乗せている。

 隠れているつもりなのか、生き物は大きな丸い体幹の中心を木の幹へ合わせているようであった。


「かかかカエル、大きなカエルっ。あわわわ、魔物だ、カエルのモンスターがいるよおっ。アレクっ、アレクうううう」


 人の叫びに反応を示したカエルの魔物が、巨体に似合わぬ俊敏さでエリ達の方へ飛び出した。

 木々が揺れ、葉が舞う。

 エリが歯を噛みしめ、体を強張らせた。

 そして。

 まさに、死を覚悟しただろう、


――その時であった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ