146 目指すは、王都ルネスブルク ③
「こっちは後半というヤツだ。
つまり前半があるということだ。
だあはははっ、俺は造作もなく見抜いてやったぞ!」
「いやいや、そうではござらん」
「どうしてだ? もう間に合わない。それボルザックが言ったぞ」
待ったをかける蛙に、ガザニアが訝しげになる。
「そのような困難な事態もあり……ソレガシからガザニア殿に1つ提案を」
「提案? どんなそれだ?」
「秘策と言えるものではござらんが――」
耳打ち――とはいかず、蛙はガザニアを見上げながらにあれこれと相談する。
「別にいいぞ。月光浴できるし、羽も伸ばせるから」
快い了承。
その後には、ガザニアが御者台から飛び降りる。
そして。
なぜか身にまとう給仕服を、ほいほい脱ぎ捨てた。
――月夜にさらけ出す、褐色の裸体。
角と尻尾のある乙女の美しい姿。
それが途端に变化する。
鮮黄色のドラゴンのそれに――。
「グオゴゴゴロロロ……」
気持ち良さげ? にカザニアが喉を鳴らす。
それから、その大きな頭部を馬達へ向けるのだが。
――ヒヒーンッ。ブヒヒーンッッ。
ハナコとハナゾーが嘶き、戦慄く。
その怯える様子は当然といえば当然。
自分達より遥かに大きな生き物が突然姿を現し、標的にしてくるのだから。
しかしながら、荷車に繋がれる馬達に逃げ場はない。
荷車ごと引っ張る体力はなく、まして、左右に引っ張り合い混乱するようでは話にならないい。
ゆえに、簡単に捉えられてしまう。
ドラゴンの大きな前足。
右手がハナコを、左手がハナゾーを慎重に包み込む。
「グオンン……」
ドラゴンの鳴き声を受け、蛙が『ガザニア、痛くしない。おとなしくしろ』と代弁。
それを聞かせながら、蛙が荷車と馬達を繋ぐ留め金具を外してゆく。
荷車から切り離された馬達。
さすれば、ドラゴンが翼を広げて空中へ。
――ガシん。
今度は荷車であった。
後ろ足を器用に使い、アレクやココア、蛙を乗のせたまま引き上げる。
空へと上昇する手招きドラゴン――。
そうして馬と荷車を手に、飛び立つ。
「ガザニア殿。人の街、王都に直接降り立つのは憚られる」
「グオロロン……」
「そうですな。どこか適当な場所へ降りて、また馬車で向かうでござる」
示し合わせが終わば、飛翔が加速する。
――ぐんぐんと後ろへ、地上が流れてゆく。
馬車とは比較にもならない速度。
くわえて道を選ばない移動は、あっという間に王都との距離を縮めた。
そうして。
出発から2回目の朝を迎えた。
ドラゴンがひっそり舞い降りた森も、眩しさを帯び始める。
清々しい森林――。
そこに留まる馬車の御者台には、今は給仕服姿となったガザニアがいる。
後ほどアレクから叩き起こされるのも知らずに、すやすやと眠りこけていた。
「この森からあれば、残り一日とかからずといったところでござろうな……」
地図を広げる蛙が、一人つぶやく。
――何事もなければ、今夜、もしくは明日の朝にも目的地へ届きそうだ。
そんな蛙の見込み通り、馬車は明朝に王都入りを果たす。
そして、この『金の日』は、王都のオークションが初日を迎える日でもあった。
おかげ、いつもにも増して賑わうようだ。
「なんだ!? このウジャウジャと気持ち悪いくらいの人並みわっ」
オークションの開催時刻はまだ先だというのにごった返す人、人、人。
とりあえずは、アレクが呆気にとられくらいには混雑する――【王都・サウスブルク】であった。
―――― 『 Wolfalex―IV』 ――――
了
大陸辞典:「王都・クロス地区」
人の中心都市、王都ルネスブルクは十字型で都市を形成する。
十字の中央に、王都の中枢であり王宮がある。
そこから南北東西に広がる地区を設け、以下の呼称で分ける。
南=サウスブルク。
北=ノースブルク。
東=イースブルク。
西=ウエスブルク。
以上、王を守りし四聖なんちゃらがエトセトラとかもの噂があるそんな王都ルネスブルクである。




