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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex― IV】……あれやこれやで王都オークションとかのパートです。
144/147

144 目指すは、王都ルネスブルク ①



 二頭の馬を飼う馬小屋。

 その馬達が引くホロつきの荷車には、旅に必要な食料品や道具を入れた樽がすでに準備されていた。


――しかし、樽は蓋を開けられ、中身を物色されたあとでもあった。


 アレクが見つけた干し肉をむさぼる。

 ハナコとハナゾーと名づける馬達に、これ見よがしにムシャムシャ。

 そうしたところへやって来たのが、ココアと蛙、そして、ガザニアであった。


「本当だ。人間のアレク、いた!」


「ふむ。チビコとともに、巻いたはずのツノ女がまた現れおったか……」


「チビコじゃないよ、ココアだよー。うわ~」


 ココアの身体がぐわんと上昇した。

 アレクから吊り上げられたからだ。


「ヨーコのヘソクリは、ちゃんと頂いてきたのだろうな」


「うん。このカバンがそうだよー」


 ココアの両手が、肩から下げるカバンを(かか)げてみせた。


「そうか。ならば、とっとと乗れ」


 そのままココアを荷車へ放り込む。

 さすれば、アレクは腕を組むその態度をガザニアに向けた。


「何かとしつこくつきまとって来るお前を、俺はウザったく感じていたのだが……まあ、いいだろう。馬車係をチビコか、蛙のゲコゾーにするしかなかったところだ」


 腕組みを解き、ずしゃりずしゃり。

 アレクがガザニアに歩み寄る。


――得体の知れない圧迫感。


 よくわからぬままに、ガザニアは緊張感に包まれる。


「おい、ツノコ!」


「な、なんだ!? ん? その前にそれ、ガザニアのことか?」


 浴びせられた強い語気。

 そこにあったあだ名にガザニアは疑問を投げる。

 しかし、相手は聞く耳を持たないようだ。

 そしてそんな様子のままに、言い放たれてしまう。


「お前を、馬車係に任命してやろう。ありがたく思え」


「馬車係……なんだ、それ」


「お前もずいぶんと飲み込みが悪いツノコのようだな。馬車係といえば、この馬車を走らせる役目以外に何がある」


「ガザニア、そんなのしないぞ」


「なるほどな。いや、俺はわかっていた。ツノコは所詮、なんの役にも立たないツノコでしかないと」


 アレクは、生えてもいないあごヒゲを擦るように。

 または、見下すように。

 それに触発されたのか――、


「いっつもいっつも、ガザニアを役立たずにするなっ」


 脳裏をよぎるは、赤い飛竜のダリア。

 ガザニアが腕や肩、さらには尻尾に力を込めムキになる。

 だが、すぐに思い直すようにして、その顔の表情を緩めた。


――この街でお目当てのアレクを見つけてから、ずっと食い下がってみたものの、望みを一向に聞き出せず。


 ゆえに、諦めるつもりはなかったにせよ、気が滅入っていた……ところへのチャンス到来である。


「そうだ。それをガザニアがやる。すると、人間のアレクの望みを叶えたことにならないか? 馬車係すれば、ガザニア借りを返したことになる。そうだろ?」


 ぱっと目を輝かせながら、ガザニアは問うた。

 しかしながら、


――さりとて、であっただろうか。


 返事は、予想したものではなかった。

 肯定否定とは大きく違う、『がるるるるるッ』と唸り声の反応。


「あまり俺をイラつかせるなよ。質問などする前に、まずお前は、馬車係をやらない役立たずなのかっ、それとも、馬車係をやる役立たずなのかっ、それをはっきりさせろ!」


 再び低く唸るアレクは、いつもにも増して傍若無人に見える。

 自覚があるのか定かではない。


――だとしても、”王都への(はや)る気持ち”が一因で違いないはずだ。


 ともあれ、そんな己の都合を優先する相手と渡り合うには、今のガザニアでは難しかったようである。


 しゅん、と身を小さくした竜娘――。


 ここに白旗があれば、それを揚げながら歩くようにだろう。

 アレクの鋭い眼差しが指し示す場所……馬車の御者台へ。


――人間の姿、その給仕服の衣に身を(やつ)すも、竜の娘は人々から畏怖されるドラゴンの一族。


 なのだが、どういう訳か、馬達の手綱を握るハメになるガザニアであった。


 そうこうして。

 人に化けるドラゴンの指示で、二頭の馬は力強く駆け出す。

 そのハナコとハナゾーが引く荷車では、アレクがふんぞり返り、ココアがカバンを大切に抱え、蛙が広げた地図に目を通す。


 そんな面々の馬車が、夕陽を背にプジョーニの街を出発した。

 むろん、目指す先は――”王都ルネスブルク”だ。


 

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