137 ゼヴォニカヴォゼナ・ニャーニャー ④
「簡単に言うと、ニャーがルネを預かることで、ルネの支払いをカードで行えるようにしたものにゃ」
ゼニニャンによる『ゼニカ』の説明会。
その真横では、鼻も高々にアレクが腕組みして突っ立つ。
もちろん、傍聴人となるのは、エリら対面の女達。
「一番の利点は、お財布すっきり、ルネを持ち歩かなくてもお買い物ができるところにゃ」
「俺ような大ルネ持ちともなると、金貨や銀貨がジャラジャラと、ジャマで仕方がないからな」
「それから、安全性も向上するにゃ。強盗に遭ったりしても、ルネを持っていにゃいから失うこともないのにゃ」
「俺ような大強者ともなると、逆にルネを奪って殺してやるのだが、そういうことだ」
「あとは、担保次第にゃけど、預かっているルネの金額以上を支払うことも可能にゃ。物入りな時にゃんかに、ニャーのカードがあって良かったにゃ~と思えるはずにゃ」
「俺ような大巧者ともなると、まだ一度もゼニカを使わずして、まけろ! の一言で事足りるのだが、そいうことだ」
などと、しきりにアレクの合いの手が入るのも、『ゼニカ』がどういった代物なのか見えてきた。
――ルネの最新形態。
アレクが口にしていたらしいそれも、あながち空言という訳でもなさそうだ。
人々が交わす取引きの”仲立ち”として、長年使用される硬貨。
そのルネの価値を、カードという形式に置き換えた。
よって、新しい形態と言えないこともないだろう。
そうした『ゼニカ』の話に、傍聴人が関心を示す。
ただそれも、エリだけと述べるべきか。
「なんだか、すごく便利そうかも~」
「そうだろう、そうだろう。とにかくは、スゴいのだ」
「エリーの言う通り便利そうなのはアタイも認める。けど、見たことないさね。プジョーニでそのなんたらってカードが使える店をさ」
水を差すようなヨーコの発言。
そして、それにいち早く応えようとした者がいた。
アレクやエリではない。
まして、話についていけないガザニアでもない。
「王都より西の地方は、ニャーとの契約加盟店がまだまだにゃーねー。とくに片田舎にゃプジョーニだとゼロ件にゃ」
ゼニニャンが嘆息をもらす。
「なので、ぱんだ亭はん。プジョーニで第一号のカードの加盟店ににゃらいかにゃ?」
「あら、随分なお誘いだね]
「手間賃として、カード使用分の少しをぱんだ亭はんへ払うにゃ」
「商人らしいちゃんとした物言いだ。そういう所は嫌いじゃない……そんなあんたなら、アタイの顔になんて書いてあるかくらいお手の物だろうさね」
「あにゃにゃ、”聞くまでもにゃい”みたいにゃーねー」
「ふん。気にするなゼニニャンよ。所詮ヨーコの店は、いわゆるヨーコの店だからな」
バン、とアレクが隣の背中を叩く。
手加減されたものだったろうが、ゼニニャンを前のめりにさせた平手打ちとなる。
「このゼニカには、”トーシ”という能力が備わっている。ソイツで、俺のゼニカはより一層スゴいゼニカになっているのだ。そんな俺のゼニカと、こんな貧乏くさいヨーコの店が見合うなどとは到底思えんからな」
見下すようなアレクの向こうでは、ヨーコが不機嫌そうにカウンターの中へ入ってゆく。
そうした最中にも、エリが聞き慣れない言葉に引っかかっていた。
――”とーし”ってナンジャラホイ?
「アレク、”とーし”って?」
「……トーシはトーシだ」
「せめて、あと少しだけでも、具体的にお願いします」
「ぬう、クサコ相手ではこうもなるか。いいだろう。ゼニニャン。このバカ者めに教えてやれ」
「背中の痛みはにゃんのその、やっぱりニャーの出番だったにゃ」
ゼニニャンが、うにゃ~と背筋を伸ばす。
「ものすごく簡単にゃと、ルネを使ってルネを増やす方法が”投資”にゃーねー。その投資を、アレクの旦那からニャーが預かるルネでするにゃ! って話になってるにゃ」
「ほえ~、預けたお金が増えるんですか……」
「相変わらずの間抜けツラはいいとして、そもそも、ルネなしのクサコには縁のない”トーシ”だ。俺のような大ルネ持ちでないと、その資格とやらがないからな。そうだろ、ゼニニャン」
「ですにゃ。多くの利益を上げるには、多くの投資費用が必要にゃ。それを毎度毎度のおおきにのアレクの旦那にゃ」
だあははっとにゃははっ。
理解しているのか疑わしき笑いと、それこそ笑いが止まらないのだろう笑い。
それぞれ異なる笑いのようだが、ともあれ、投資の話題に戦士と商人が楽しげであった。
「と、まあ、そういうことだ。クサコよ、そんなスゴい俺のゼニカを見れたことをありがたく思えよ」
「じゃあ、はい」
エリの手がビシっと天井に向けて伸びる。
「思い切って聞きたいと思います。そんなすんごいアレクのカードには、一体いくらぐらいのルネが貯まってるの?」
「ふん、クサコごときが調子にノリおって」
貶すような物言いと裏腹に、そのドヤりとした態度は好意的に見えた。
「仕方がない。では、聞いて驚くなっ――、いや、待て。聞いて驚け! そして、腰を抜かせっ」
カッと見開らく目、バーンと突き出すカード。
「俺のゼニカには、なんと!」
「うんっ、なんと!?」
エリが固唾を飲む。




