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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex― IV】……あれやこれやで王都オークションとかのパートです。
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129 手招きドラゴン再び ③


――正面へ突き出されるガザニアの両手のひら。


 そこに風の刃が衝突するや否や、パシパシイイッッ――と異音と刹那の発光を放つ。

 風の刃は、見えない壁に防がれるようにして消滅したのだった。


「これ、ガザニアの”魔障壁”で、ギリギリぽかったぞ」


 ちょっとした焦りが、竜娘のすっきりとした鼻筋が通るそこにシワを寄せさせた。


――魔族特有の技能【魔障壁】。


 あらゆる攻撃に対応、耐性を持つ魔力の障壁で、風の刃を防いだガザニア。

 それでも、その強度に余裕がないと感じたようだ。


「よくわからんが、小賢しいマネをっ」


「おい、人間のアレク、ヤメないか!?」


 パシパシイイッッ、パシパシイイッッ。

 ガザニアの魔障壁に、風の刃が次々と衝突する。


「俺はこの新必殺技で、キサマをギタンギタンにしてやると決めていたからなっ。何がなんでも、ブワッシュでギタンギタンのギチョンギチョンにしてやるぞ!」


 乱れ飛ぶ斬撃、”疾風波”。

 防がれたことへの対抗心からか、アレクがひたすらに風の刃を生み出す。

 そして、風の刃が放たれれば放たれれるほど、街の広場が切り割かれ傷ついていった。


「とりゃ、とりゃ、とりゃ、とりゃ、とりゃあッ」


「ほ、本当に、ヤメろ……ガザニア、魔障壁得意違う。集中力とてもいる。だから、このままだと……」


 防戦一方であるものの、ガザニアは無傷。

 しかし、その身体をぷるぷると震わせ、耐え凌ぐような様相を(てい)した。


「だあははっ、どうしたどうした。手も足も出ないどころか、顔色も悪いようだぞ」


「おまえ、人間のアレク。とにかく、それヤメろっ。ヤメてまず、ガザニアと話し合いしろ!」


「ぬん? そんなに()めて欲しいのか?」


「お願いする。じゃないとガザニア、もう……ガマンの限界になりそう」


 (うる)む瞳に、胸を寄せるようにして縮こまる肩に、極端な内股。

 まさに、何かに耐え忍ぶガザニアの姿。


「そうか、我慢の限界か……」


 振り抜く刀剣の動きが止まる。

 そうして、アレクが見せつけた。


――それはそれは、とても意地の悪そうな笑顔を。


「ならば、仕方がない。ますます止めるワケにはいかなくなったなっ」


 さすがに疲れているだろうと思えた”疾風波”の攻撃が、さらに勢いを得て繰り出される。

 すると、である。


「もう、本当にもうっ、ガザニア、もうっ、らめ~」


 シュバサ――。

 ガザニアの背中に翼が生えたように見えた刹那だった。


――黄色い煙が、ボフンと立ち込める。


 さらには突風が巻き起こり、そのモヤモヤした黄色い煙を吹き飛ばした。


「な、何いいいい!?」


 アレクが大声を上げる。


――吠えるは、空に向かって。


 視線を上向ける先では、大きな大きな鮮黄色の飛行物。

 翼を羽ばたかせ浮かぶ、ドラゴンがいたのだ。

 

「グルアアアアッ」


 そう、ひとつ喉を鳴らすと、鮮黄色のドラゴンは逃げるようにして飛び去る。

 そして、そんなドラゴンの足にでも引っ掛けられたのだろう。

 完成間近だった時計塔ノッポさんが、ガゴンと折れて崩れていた……。





 『怪奇。時計塔広場に突如として現れた黄色いドラゴン!』。

 明日のプジョーニは、これで持ち切りになるだろう話題を、酒場の客達は一足早くに語る。


 時計塔広場からドラゴンが去った夜。

 ぱんだ亭でも、いつもの顔ぶれがいつものように酒のつまみに語り合っていた。


「僕が聞いた話だと、あのウルクが追い払ったって言ってましたよ」


「ああ、らしいな」


 酪農家の青年の話は、情報通の中年男も知るところのようだ。


「ウルクが珍しく役に立つことしましたよね。……明日の天気が荒れそうで怖いです」


 ハハハ、と冗談めかして青年は笑う。


「ま、俺としちゃあ、別に街を救おうとしてのあいつの行動じゃないだろうと、にらんじゃいるけどよ」


「どういうことです?」


「縄張り意識ってやつさ。獣ってのは、自分の縄張り(テリトリ)に他の獣が居座るのを嫌がる。それと同じだったんじゃねーかとよ」


「うわ、それ、すごく納得できます」


「だろ?」


「ウルク、そういう心理からだったんですね。それでも、ドラゴンに噛みつけるって、結構なことですけれど」


「ドラゴンといや~、例の『クリスタのドラゴンなんぞ、軽く成敗してやったぞ』ってうそぶいていたのも、あながち本当かもしれねえな」


 ガハハ、と冗談めかして中年男は笑う。


「あれは勇者御一行が解決したって、シンブン玉で報道されていますから、絶対に嘘ですよ。たぶん、アーサー様が追い払った後の鉱山に行って、自分がそうした事にしているだけですって」


「だな」


「何しても、時計塔の被害だけで済んで良かったですよ、今回のドラゴン事件」


「ノッポさんも、あいつに壊され、ドラゴンに壊されと、災難続きだな……」


「あ!?」


「いきなり、どうした」


「いえ、ふと新しい説を思いつきまして……」


「新しい説?」


「マサさんの縄張り説の逆で、実はドラゴンを街に呼び込んだのがウルクだったのではと」


「まさか、そんなことはねーだろうよ」


「僕たちが、クリスタのドラゴン討伐の話を信じないから、あえての今回のそれだったんですよっ」


「自作自演ってやつか……」


 ごくり。

 男らが、葡萄酒を(あお)る.


「すみません。そう言ってはみたものの、現実的ではないと思い直しました」


「だよなー」


 ハハハとガハハ。

 青年と中年が賑やかに笑う。


――客達の憶測が飛び交う酒場。


 そんな夜が更けてゆき、ぱんだ亭はこの日の営業を終える。

 そうして、深い夜に街も寝静まるのだが……。


――どうやら、今回の一件の一部始終を見届け真実を知る娘には、もう一波乱が待っていそうだ。


 夜が明けるにはまだ幾ばくかの時間がある頃だ。

 ぱんだ亭の屋根裏部屋では、エリがベットで眠りつく。

 隣では一緒に寝るココアが、すぴーすぴーと寝息を立てた。


――そこへ、角と尻尾のある人影が忍び寄る。

 

 それからその人影がベッドを少し沈ませながら、エリに馬乗りになった。


「う、ううん……んん……」


 眠るエリが、苦しそうな吐息を漏らした。

 それもそのはず。

 なぜなら、ガザニアの両手がぎゅううう――と、エリの細い首を絞めつけていたのだから。



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