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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex― IV】……あれやこれやで王都オークションとかのパートです。
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128 手招きドラゴン再び ①




 広場の中央。

 エリがにこやかな様子でトコトコと近寄る。

 さすれば――、


――アレクがギロリ。


「なるほど、アイツか……」


 威嚇(いかく)するような鋭い目つきは、エリの向こう――待ち構えるガザニアのほうをにらむようだ。


「良かったあ。来てくれるかどうか、半信半疑だったから」

 

 その嬉しそうな顔は、賭けに勝ったような気分からなのだろう。


「クサコごときが、俺を呼び出した(ふう)にするな。俺は俺の意志でこのクソ暑い中、ここに来ているのだ」


「あれ? 私達がここで待ってるからじゃないの!?」


「そうだな……。その辺にいたメガネ男が、『俺に借りを返したいヤツがいる』とかなんとか言ってきたので、ならばと、ここまで足を運んでやった」


「なら、やっぱりそれって私からの伝言を聞いて――」


 言葉半ばで、エリはじろりとした視線に気づく。


「で……でも、それでも、最後はアレクが”行こう!”って思ってくれたからなんだよね」


「そういうことだ。つまりは俺の意志で来てやったのだ」


 にか、と口元を緩ませ、アレクが牙のような歯を見せる。


「ちなみに、俺に気安く話かけてきたメガネ男は、『ぜひともエリちゃんに、よろしくお伝えください!』――と、ワケのわからんことをホザいていた」


「あ、そうなんだ。メガネの男の人かあ……あとでお礼しなくちゃだね」


「ふむ……。そういえば、だ、クサコよ」


「ん?」


「そのメガネ男。今はメガネじゃない男であった。ニヤニヤと気持ちわるいヤツだったので、ぶん殴ってやったのを忘れていた」


 軽い調子で、うっかりしてたとばかりにアレク。


「うう゛……どこの誰かわかりませんが、ごめんなさい」


 申し訳なさに、エリは唇を波打たせる。

 おそらくは、眼鏡を壊されてしまった元メガネ男。

 そして、エリが知る由もないところでは、その元メガネ男には、眼鏡のほかに失うものがあった。


――エリへの片思い。


 大切な眼鏡とともに、それも砕け散ったことだろうか。


 凶暴な戦士と関わるのはまっぴらごめんだが、気になる給仕娘からの頼みとなれば特別だ。

 恋心と下心。

 それを胸に、元メガネ男は勇気を振り絞ってアレクに声を掛けた。

 すべては、これをきっかけに始まる給仕娘とのラブストーリーのために――であるも、男の夢物語は『どこの誰か』で終わってしまうようだ。


「まあ、メガネ男だろうがメガネじゃない男だろうが、どうでもいいがな。それより――」


 正面に向けて、アレクの大きな手が伸びる。

 そうして無造作に触れるのは、エリの小さな顔。


「むに~」


 ぐい、とエリが邪魔そうに横へ押しやられた。


「俺に借りを返したい女がいると聞いたが、キサマで間違いないのだろ?」


 アレクが数歩前へ。

 たたずむ相手……様子をうかがっていたガザニアも応じるように歩み出る。


 相も変わらず不敵な態度のアレク。

 どことなく緊張しているガザニア。

 その両者が向き合う。


「ガザニアで間違いない。おまえもアレクという人間で間違いない」


「ふん。ならば良かろう」


 スララ~と引き抜かれた刀剣。

 アレクが抜身の刃を肩で担ぐ。


「おまえ、何するつもりだ? もしかして、ガザニアと戦うつもりなのか?」


「角女を懲らしめた覚えはないが、俺に仕返しすると息巻いていたのだろう。何を今さら怖気づく」


「仕返し? ガザニア、人間のおまえに借りを返したい。それで待っただけ……だぞ?」


「そうだよ、アレクっ。アレクが早合点しているだけで、ガザニアさんの”借りを返す”はそういうのじゃないからっ」


 アレクを止めようと、ぱしり握るマントをエリが一生懸命に引っ張る。

 すると、むんずと襟首をつかみ取られる。


「ええいっ、うっとうしい」


――ぽいっ。


 アレクが吊り下げるエリを後ろへ放り投げた。

 ぐるんとエリが宙で一回転。

 そのままきれいに――臀部(でんぶ)で着地を決めた。


「あうう~」


 エリがどすんと落ちて痛めた尻を(さす)る。

 それを尻目にアレクはすでに、準備動作(・・・・)へと入っていた。


――切っ先が地面スレスレの下段の構え。


 がに股の踏ん張りで、ぐんっと力を溜める。


「ちょうど新しい必殺技を編み出し、ウズウズしていたところの俺だ。そんな俺に挑んだことを後悔させながら、キサマを返り討ちにするとしよう」


「おまえ、ガザニアを攻撃するのか!? 人間の女も言った。ガザニア敵違う」


「問答無用というヤツだっ。いくぞっ」


――とおおおおりゃあッッ!!


 気合一発の掛け声。

 それとともに、刀剣が下方から上方に振り抜かれた――その直後だ。


――ブワシャアアアッ! と空を切り割く衝撃波が走るっ。

 

 『疾風波』。

 そうと呼べる三日月型の鋭利な風の刃が、アレク斬撃から発生、それこそ疾風の勢いでガザニアを襲った。

 しかし。


「ちっ。ハズしたか」


 風の刃は狙いを逸れ、ガザニアの横を通り過ぎる。

 そして、時計塔まで突き進むと、そこにあった工事用の柵をスパンと真っ二つにした。


「ズバッシュと勝手が違い、この”ブワッシュ”はイマイチ狙いが狂うな」


「うわ、何今の!?」


 エリが声を上げた。

 驚愕(きょうがく)したくもなる、剣技でそれを放つことが可能なのか、と思えるようなデタラメな攻撃であった。


「ぬくくっ。どうだクサコよ、なんか派手でスゴそうだったろ!」


 アレクがくるり。嬉しそうに振り返る。


「ズバッシュは、投げた剣をあとで回収せねばならんなあ……と勘づいた俺は、密かに新必殺技を考えていたのだ」


「それって……毎回、剣を拾いに行くのが面倒になったんだね……」


 エリはぼそり、アレクの心情を察した。


「おい、人間のアレク。危ないだろ」


「そうかそうか。ビビったか」


 ガザニアの抗議に、アレクが向き直る。

 それから、間髪入れずに再び『ブワッシュ』の構え。


「とりゃ、とりゃああッ」


 ニ連続の振り抜きが、二つの疾風波を生み出す。


――そして。


 放たれた片方の風の刃が、ガザニアを直撃する。

 いいや……本当の意味でのそれは果たせなかった。


「な、なんだと!?」


 相手の切り裂かれた姿でも予想していたのだろう。

 それを(くつがえ)す事態に、アレクが驚いて見せた。



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