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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex― IV】……あれやこれやで王都オークションとかのパートです。
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127 竜娘ガザニア ③


 

 ガザニアがお館様と(うやま)う者がいる。


 北の地を統べる魔王ヴァルヘルム。

 人間が竜王と呼び畏怖(いふ)する竜魔の長――。


――そのお館様である竜王が、このところあからさまに冷たい。


 周りの竜魔達もどこか素っ気なく、ガザニアと口を利かない者達が増えた。

 そうした態度をひしひしと感じ始めたのは、鉱山の一件からだった。


 ゆえに、ガザニアは相談をした。

 竜王の側近であり、その時のことを知る赤い飛竜に。


――飛竜ダリアはまず、ガザニアの身に何が起きていたかを語った。


 人族から手玉に取られ、自我を失いただの獣と化していたこと。

 それにより、人族からこぞって命を狙われる事態になっていたこと。


 そして、そのような危機に陥っていたガザニアを見かね、竜王自らが鉱山へと(おもむ)き救おうとしたこと……。


――心が押しつぶされそうな自責の念。


 ガザニアは、いたたまれない気持ちでいっぱいになった。 

 そこへ、ダリアからさらに語られる。


 自我を失う元凶が、冒険者と名乗る一人の人間達の手によって取り除かれたこと。

 竜王がそれに報いるため、人族へ告げた自らの言葉を取り下げたことを。


――なんということだ。お館様の顔に泥を塗ってしまった。


 ガザニアは悲痛にあえぎ悔いた。

 当然ダリアからは、(あるじ)たる魔王の名誉が愚妹によって傷つけられたと責め立てられた。


 だが、どれだけの後悔や非難があろうとも、それはもはや取り返しのつかない出来事でしかない……はずであるが――――。


「だからガザニア、人間の男アレクから受けた借りを返すことにした」


 木陰での会話。

 そこでは、エリが聞き手にまわる様子が続いていた。


「ガザニアがアレクの望みを叶える。そしたら、借りなくなる。借りなくなること、帳消し(チャラ)って言うだろ? これで、お館様も不名誉違う」


 世の中の物事が、数式のように足したり引いたりできるとは言い難い。

 それでも、プラス・マイナスでゼロの無かった出来事となるらしい。

 要は、ガザニアの負い目が解消されたならば問題ない――という身勝手なものなのだが、それを手土産に戻れば万事解決との考えるようだ。


「なるほど……そういうつもりでの”借りを返しに来た”だったんですね」


 ほ、と胸をなで下ろすようなエリ。

 ガザニアからの物騒な物言い。

 それを耳にした時は、ひやりと肝を冷やした。

 しかし、気を揉みながらもこうして話を聞いてみると、それも杞憂(きゆう)に終わりそうだ。

 ただし……。


「でも、もしアレクの望みを叶える(・・・・・・・・・・)としたら……」


「なんでも平気だぞ。ガザニア、人間の望みなんて大したことないの知ってるからな」


 何を根拠にしているのかはさておき、自信満々の笑みがエリに向けられる。


「だとしても、どうなんだろう……。アレクといったらやっぱりお金なんだろうけど……」


 頭から足元まで。

 エリは改めてガザニアを見た。


「ガザニアさん、余分なルネたくさん持ってます?」


「……余分なルネ? るね? 聞き覚えある……けど、何だ、それ?」


「あのお……すみません。今の話は忘れてください」


「なんでだ」


「ええと、その、持っていないのが丸わかりだったんで……えへへ」


 エリは苦笑しながら、先行きの不安を感じた。

 助けを惜しむつまりはないのだが、


――『おそらく、無理っぽい気がするなあ……』


 と、エリはガザニアの行く末を案じるのだった。






 そうこうして、である。


――『おまえ、今すぐアレクと会わせろ』


 そう急かすガザニアの願いを聞き届けたエリは――、今は陽射しの中をガザニアと肩を並べて歩く。

 到着した先は、再建築中の時計塔ノッポさんがある広場。

 そびえる時計塔は工事中であるも、完成間近といったところだ。


「これで、ガザニア、アレクと会えるのか?」


「自衛団や自治会の人にもお願いしたし、アレクが通りそうな場所の街の人達にも声掛けたし、きっと大丈夫だと思いますよ」


 かいつまんだガザニアの紹介とともに、エリは街中をあちこち訪ねていた。

 そうやって、伝言をお願いして回った。


――『アレクを見かけたら、時計塔広場で待っていると伝えてほしい』と。


 アレクは普段どこで何をしているのか。

 モンスター退治の依頼や何かしら騒動を起こしているほかは、見当もつかないその行動範囲。

 よって街の人達の協力を仰ぎ、エリは”待ち合わせ”の一計を案じたのである。


「もし、夕方まで待ってアレクが来なかったら、ぱんだ亭かなあ……」


 絶対に会えるとは断言できないまでも、ぱんだ亭でならそのうち会えるだろうとエリは口にした。


「パンダテイ?」


「あ、私がお世話になっているお店です」


 このやり取りからだったろうか。

 なぜだかエリが、ぱんだ亭での生活をガザニアに話して聞かせる流れになっていた。


 店主ヨーコの話。

 そこで一緒に暮らす、可愛い魔族の幼子ココアとおまけの蛙の話。

 それらはガザニアにも楽しいものだったようで、人と魔の娘らは退屈もなく、そして程なくしてその時(・・・)を迎えることなる。


――その時とはむろん、待ち合わせた相手の登場だ。


 気づけば、ちらほらいた広場の人の気配が遠い。

 ひそひそ、ざわざわ……と、端に身を寄せる人影が遠巻きにして見守るなかを、


――のしりのしり。


 戦士の装いの男が、肩で風を切って進んでゆく。


「ぬ~ん。辺りに火だるまトンボが飛んでいるワケでもないというのに、なぜこんなにもクソ暑いのだ」


 その不快さにしかめっ面のアレク。

 額からは、汗がダラダラダラダラダラ~と流れていた。

 こんな陽射しの強いなか、黒いマントを羽織っているのだ。

 尋常(じんじょう)ではない暑さだろうがともかく――。


 こうして広場に、アレクがやって来たのであった。




大陸辞典:「キャットバイク」


大陸東、重工業で有名なハンダ地区に店を構えるバイク・ソウイチロウが手掛けた特注品の単体移動車両。

最高出力約300馬力。

最高速度約300キルマーベル

車体全長約3.00マーベルのイカした乗り物(マシン)だ。


ちなみに、兄弟車に「マド・マックス」という尖り仕様(イカれた)マシンがある。

こちらの注文時には謎の合言葉、ブイハチを讃えよっ―――が必須。

もちろん、ブイハチサインをキメないもぐりな野郎は相手にされない。


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