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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex― IV】……あれやこれやで王都オークションとかのパートです。
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126 竜娘ガザニア ②



「ガザニアが覚えていなくても、ダリアが知っていた」


「……だりあ?」


「ガザニアと同じ竜魔。人間は飛竜って呼ぶって言ってたな。おまえ洞窟で赤いの見なかったか?」


「それなら、見ました」


 エリの(さかのぼ)る記憶に、赤いドラゴンはいた。

 クリスタの鉱山洞窟。

 そこへ竜王とともに現れた飛竜の名が、”ダリア”のようだ。


「いつも偉そうにするから、ちょっといけ好かないやつ……だけど、ガザニアはダリアから”匂い”を分けてもらった。だから、ガザニアも洞窟のことを知っている」


「匂い?」


「ダリアの能力、自分の体験したこと”ニオイ”で相手に教える。竜魔ならそれで、ダリアが見たもの聞いたもの、ガザニアが見たり聞いたりしたものにできる」


「ほえ~」


 感心したように、エリは相づちを打つ。

 しかし、(なか)ば理解を放棄したそれでもあった。


――すんすん。


 と、鼻で嗅ぐものとはきっと違う”ニオイ”なんだろう――とは感じたが、それがどうした理屈で、見たもの聞いたものを他人に伝えられるのか……。

 エリにはまったくもって想像できない。


「あ、じゃあ、もしかして――」


 柏手(かしわで)を打つように、胸元で両手を合わせたエリ。


「ガザニアさんは……たとえば、あの時の”手招き”なんかは空白状態ってことになるのかな? 飛竜のダリアさんはその後だったし……たぶん、そういうことですよね?」


「あの時の手招き?」


「うん。私、クイクイって手招きされたあと、ぐぼおおってすんごい炎を吐かれたんですよ」


「ガザニア、ガザニアがおまえに手招きした――のか!?」


「気にしてほしいのはそっちじゃなくて、炎のほうだったりの私なんですけれど……なはは。あれですよね。冒険者の手引き書だと、手招きドラゴンさんが求愛……あれ? でも、男のドラゴンさんとか書いてあったような」


 エリがまじまじとガザニアを見た。

 ぼふんとした膨らみの胸、くびれた腰といい、自分のものと比べるまでもなく物の見事に女性らしい体つき。


「ガザニアさんって……明らかに、女の人ですよね?」


 手引き書では、手招きドラゴンの”手招き”は、(おす)のドラゴンによる求愛行動と記されていたはず。

 『まさか!?』と、エリが疑惑の目を向ける先では、口をぱくぱく、ガザニアが何やら動揺していた。


「ち……違うからな。ガザニアは違うからなっ」


「そ、それはつまり、女の子じゃないって意味ですか!? それとも、男の子じゃないって意味ですか!?」


 近頃になって、魔族の性別は大事なポイントとなったエリ。


――ここは、はっきりとさせなくてはならない!


 と、語気も強く問いただす。


「ガザニアは女だっ。とても女だっ。だから、手招きなんてハレンチなことしないっ。だから違うっ」


 赤面する竜魔の娘。


「……手招きって恥ずかしいことだったんだ」


「それに、おまえ人族じゃないかっ。人族なんかに手招きなんてしないっ」


「あ、じゃあ、あれって私じゃなくて、ココアちゃんにだったのかあ……」


「ココア?」


「私と一緒に魔族の女の子がいたんです。その子のおかげでガザニアさんから丸焦げにされずに済みました」


「違う。それ、絶対に違うぞっ」


「え、違わないですよ。ココアちゃんが”バリアー”っていうすんごい魔法で私を守ってくてたんです。本当ですよ」


「違う。ガザニアの違うはおまえのそれじゃないっ。ガザニアは、ガザニアは――」


 その昂ぶる感情に合わせるような前のめり具合で、ガザニアはエリを威圧する。


「ガザニアは(オス)が好きなんだから、そんなことはなかった……ことにして欲しい」


 モジモジしながら懇願する竜娘だった。

 しかしながら、相手は今ひとつ鈍いところを持つエリである。


「えええええ、別に女の子が女の子を好きでもいいじゃないですかあ~」

 

 マイペースに良かれと思って口にしたそれは、ガザニアの神経を逆なでしてしまうこと請け合いであった……。






 竜娘にとって看過できない話題。

 恥ずべきことらしい手招きのそれが一段落すると、ガザニアが話を戻し、そして話を進めようとしていた―――。


「ガザニアはおまえ達をちゃんと知っている。だから、人間の男のほうも問題ない」


「そう言えば、もともとそういうお話でしたっけ」


 ガザニアからの恋愛話を期待していたエリとしては、この仕切り直しは残念であった。

 ともあれ。


「ええとお、ガザニアさんが私を探していたのは、アレクを探しきれなかったからなんですよね」


「そうだ。この辺りをうろうろしてみた。でも、目的の男見つからなかった。そしたら、男と一緒にいたおまえを見つけた。ガザニアはおまえから、なんとしてもそのアレクの居場所を教えてもらう」


 その両手が覚悟を決めたようにして、ぎゅっと握りしめられる。


「なんか、すごい意気込みを感じる……」


「当たり前だ。アレクという人間の男に、ガザニアは借りを返しに来た(・・・・・・・・)んだからなっ」


 そう言い放つガザニアは、縦に走る瞳孔の目をさらに力強く見開いた――。



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