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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―III 】……魔王討伐編前段階のパートです。
117/147

117 古代の遺跡、見張り塔にて ①


 

 ”何故だか、モンスターを寄せつけない”。

 そんな不思議な力、【神の加護】を宿す石造りの遺跡があった。


 プジョーニの街の東に位置し、街道をやや外れた場所。

 岩肌をさらけ出す地で、それはそびえ立つ。


――古代の見張り塔。


 こう呼ばれるくらいなのだ。

 最上部からは、さぞや良い景色も(おが)めただろう。


 空も(しら)み始める――。


 訪れたタイミングとしては悪くない……が、景色よりも食べ物を愛でたい巫女にとってはどうだか。

 そもそも、登る(・・)のではなく、階段を降りた(・・・)場所なのだ。

 ここから外を(なが)めようなど、到底無理な話である。


 明り取りの魔晶ランプ。

 いくつかの光を灯すここは、


――隠し通路から行ける、地下の部屋。


 四方を冷たい石壁に囲まれる一室に、広さはあった。

 しかしながら、出入り口の石扉が閉じてしまうと閉鎖空間となる。

 だからなのか。

 重みのある低い天井といい――、通気口はあるにせよ、どこか息苦しくも感じる。


 こうした雰囲気の区域を、巫女は『祭壇の間』と称する。

 しかしだからといって、あからさまに”祭壇”があるわけではない。

 奇妙な図形が石壁に刻まれ、作為的な凹凸模様が石床に見られる程度。

 おおむね、殺風景なところでしかない。

 だが、それでも。


――【神の加護】の力を働かせる役割を担う。


 よってここは、不思議な力を宿す見張り塔の根幹部分と言えよう。

 その『祭壇の間』のほぼ中央。

 

 椅子がひとつ置かれていた。

 そして。

 ローブの男が、縛られながらに座る。

 足を椅子の脚に――。腕を肘掛けに――。腰と首は背もたれに……細いベルト(革の紐)が、尊師フランベンの自由を奪う。


「……無駄ですよ、サクラ・ライブラ」


 弱々しくも、はっきりと聞き取れる声であった。

 覚醒したばかりの意識でも、自身の置かれる状況を把握するようだ。


――拷問。


 今から行わるそれを、無意味だとフランベンは告げたのである。


「おーやおやや。お目覚めのようだあーねえ」


 サクラ・ライブラが反応する。

 椅子の周囲に印を記述したりと、【神の加護】の力を借りるあれこれがちょうど終わったところだった。


「無駄だったかどうかは、やってみて決めるとしよう。ちなみに、どんだけ騒ぎ立てても、誰にも迷惑をかけない場所だから、よろしく」


 数歩足を運び、サクラが椅子の男フランベンの正面へと回る。


「こうして、教えて差し上げたのにもかかわらず……ああ、愚者とは、つくづく救いようがない……」


「ウチだって、そう簡単に『月たる(ヌエ)』のことを、その口から聞けるとは思ってないから。でもね……その道のプロじゃあないにしろ、まったくのドシロウトってワケでもないよ、こっちは」


 役職がある教団の男。

 こうして聞き出す機会も少ないその者からなら、何かしら情報を得られる可能性が高い。

 ”指輪の物品(マテリア)”だけでなく、それも手にしておきたいサクラとしては、是が非でも吐かせたい。

 そのためには、手段を選ばないつもりでいた……が。


「クヒヒ……どんな苦痛だろうと、どんな魔法を使おうとも、このフランベンには、無駄、無駄、無駄ああッッなのですっ」


「こらこら。そりゃあ、誰にも迷惑かからないとは言ったけども、あんまり叫ばないでくれるかい。ここ響くから」


 『ウチには迷惑なのだよ』とばかりに、サクラは両方の人差し指で耳をふさぐ。

 対してフランベンは、(たか)ぶる感情を抑えきれないのか。身体をぶるぶると震わせていた。

 それから、こぼれ落ちそうな目で見るようだ。

 対面のサクラに、彼女でない何者かを。


「ああ、盟主よっ。”支配する世我の夢宝石マテリア・ドリーミーキャスト”を失ってしまった今、このフランベンにできるのは、もはや貴方様の御慈悲を()うだけ……」


 願うような声。


「メアリー様。貴方様から賜った祝福の言葉を……すべてを捧げるこのフランベンこそが、もっとも相応しいのではないでしょうか……そして」


 開く瞳孔。

 それが、ピントを合わせるようにしてすぼまる。


「ソソソそしてっ、邪悪なる巫女のお前には、呪いとなる言葉ッッ。それをありがたくもおお、聞かせて差し上げようといいゆううのですっ」


 フランベンの精神状態は、追い詰められたもので違いなかった。

 だが、その精神は――その先の至福へと向かう。


「”バンザイサンショウ”うううっ――」


 謎の言葉を発して、直後であった。


――ガクン。


 椅子に座る男は、頭をうなだれた。

 そして、ピクリとも動かない。


「あーあ」


 サクラの手がフランベンの首筋に触れる。

 脈はない。

 案の定、死んでいた。


「こういうことするから、面倒なんだよね……。だからといって、喋ってもらう口を塞ぐワケにもいかないし」


 詰問対象の”自害”。

 その事態に、サクラは短剣を取り出す。

 元はフランベンの持ち物だったそれで、相手のローブを胸元から割いた。

 

「やっぱりかいな……」


 確認するまでもなく、といった言い草で確かめた肌には模様があった。


――はだける男の胸には、『死の刻印』。


 おそらく、”キーワードを唱えると浮かび上がる模様”があった。

 それが現れる時は、心臓の破壊を意味した。


「ふひ~」


 やれやれと、サクラが大きく息を吐く。

 これから追加される疲労(・・・・・・・)への嘆きである。


 夜から現在に至るまで、飛び降りたり、戦ったり、傷を癒やしたり、男を運んだり眠らせたり――と、何かと【神気】を活用していた。

 肉体的にも精神的にも疲れが溜まっている。

 そこからさらに、大掛かりなこと(・・・・・・・)をやらねばならなくなった。


「まーあ。わざわざ『祭壇の間』を選んで来ているのも、こういうことになるだろうな~と思ってたからなんだけども……」


 この場所へ、選んで来ている。

 それは、巫女サクラならではの行動だろうか。


 まず第一に、隠し通路を看破できたのは、教会関係者だからこそ。

 教会は、”神の加護に関する研究資料”を多く保有する。

 それが無いとなれば、この場所へ訪れることは難しかったろう。


 そして。

 意図して、『祭壇の間』を詰問の場所とした理由であるが。


――【神の加護】、その力を借りるつもりでいたからだ。


「そうなんだけどーもさあ……せっかく、戦士くんから助けてやったんだから、ちょっとくらい遠慮して死のうよ。拷問のルール説明もまだだったのに……」


 ぶつくさ言いながらも、サクラ・ライブラは【神気】に必要な所作を行い、神に真名を告げる。


「最上位特級神気――、『その聖なる手は魂をも触(ゴッド・ブレス・ユー)れた』!」


 細工を施していた石床から、キラキラと輝く粒子が昇る。

 眩しい明るさの中、対象者である亡骸には”神の奇跡”が働きかける。

 一方で、術者である巫女は、精神力をガツガツ削られゆくのを感じていただろうか。


「とりあえず……これが済んだら、美味しいものを食べよう」


 頑張る自分へのご褒美。

 サクラはその確約を励みに、乗り切ろうとする。

 

――特殊な力場を利用して発動させるこの【神気】は、”死者の魂を呼び戻す”。


 このまま成功に終われば、情報を吐かせる仕事が待っているのだから――。



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