表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―III 】……魔王討伐編前段階のパートです。
116/147

116 エンドゲーム ④



 ぽっこりな残骸を椅子に見立て、アレクが腰掛ける。

 そばでは、向き合うサクラが手を()え傷を治す。


 ポワワ~。

 優しく光る、アレクの人差し指の付け根部分。


――神の癒やしたる【神気】の発動。


 さすがに、指を生やしたりなどは無理なレベルの”治癒効果”でしかないが、今回のような断面も綺麗な体組織を修復、繋げることは造作もない。


「このまま少しすると、元通りになるって寸法なのさ~。と、それはそれで~、キミくんのさっきのあれ、必殺技と言ってたスゴ技の……」


「ズバッシュだな」


「そう、それそれ。あれって、わざとハズした(・・・・・・・)んだよね?」


 治療時間の退屈しのぎ。

 そのつもりで始めたサクラが興味本位で話す。


「当然だ。言っただろう。俺の計画通りだと。ヤツの後ろにあった時計塔がああなることで、そのまま埋めてしまう作戦だったのだ」


「んー。あくまでもそっち(・・・)を言い張るんだーねえ、キミくんは」


 『じゃ~あ~』と声を伸ばしながらに、サクラは二の句を考える。


「わざわざ、怪我してるこっちの手(・・・・・・・・・・)を使ってまで、”人差し指がないおかげで、狙いが狂ってしまった”攻撃をしたのは、作戦通りな狙いのためだったんだよね? つまりブラフだった」


「ふむ。何やら、よくわからんようになってきた気もしなくはない……が、まずは、”ぶらふ”とやらが何かを言え」


「ハッタリかまして、相手を騙してやったぜいっ。てなところかな~」


「そうか……ではなく、そういうことだ。時に役者な俺は、お前の言う通り、ダマしてやったというヤツだな。うむ」


 自信たっぷりな(うなず)きである。


「そこまでする必要があったのは、怪我を押してでも、利き手じゃあないと、正確に狙えなかった(・・・・・・・・・)んだな、これがっ――て、ことだよね」


「まあ、そんなところだな」


「ふふ~ん。ウチは見抜いてたよ~。誤って、メイドちゃんごとザクううッ! てなっちゃうのは避けたいから、絶対にハズす(・・・・・・)自信のあるほうの手を無理して使ったんだーねえ、キミくんってば」


 にしし。

 サクラが綺麗な歯並びを披露(ひろう)した。

 すると、『ふんっ』と不機嫌な態度の相手から、添える手を払い()けられてしまう。

 癒やしの光は失われ、【神気】の作用が途切れた。


「あーらあらら。まだ終わってなかったのに」


「俺はお前と違って、ヒマではないのだ」

 

 治療はもう済んだとばかりに、アレクが立ち上がる。


――グー、パー、グー、パー。


 指の動きに、支障はなさそうだ。


「なーんか、嫌われちゃった感じなのかしらん」


「そうだな。俺の指をくっつけようとしたお前は、意外にも、見込みのありそうな女だと思っていたがしかし、見当違いであった」


「ありゃりゃ。そこはかとなく残念。そんな気持ちから~、それはまた、どうしてだい? と聞いてみる」


「簡単なことだ。俺は魔法を使う女が嫌いなのだ」


 アレクの黒きマントが(ひるがえ)る。


「ウチとしては、あの時みたいな相手の心を折る”強引なやり(救出作戦)方”も、嫌いじゃあないんだけどね……」


 見せられる背中に、サクラはつぶやいた。

 返事を期待したものではない。


――自分では難しかったろう、と相手を認める気持ち。


 それを口にしておきたかっただけだった。

 

 人質を盾にする相手に、一歩も引かない方法も一つの手だ。

 あの場合、人質に危害を加えてしまえば、相手は身の安全を図れない。

 その点から、こちらが圧力をかけることはできたはずだ。


 逆上させてしまう恐れもある。

 しかし、相手を屈服させることも……と、サクラは考える。

 だからこそ、嫌いではないどころか、好ましく評価するのだろう。

 ぎりぎりまで圧力をかけた戦士を、その精神力の高さを。

 見知らぬ人質ではなかった点を踏まえると尚更か。


 そうして――。

 巫女サクラが微笑んだ向こう側であった。


 ”どうやら、知り合い以上の関係だったらしい”――と見受けられた元人質の娘が、むんずと襟首を握られ持ち上げられていた。


「いつまで、寝ているつもりだ。とっとと起きろ、この寝坊助(ねぼすけ)めがっ」

 

 アレクが(かか)げる片腕を前後に振る。


「……はう!? はがわわわわわ」


 ガクガクガクガク――。

 目覚めてみれば、頭が激しく揺れていたエリであった。

 そして、揺れも収まった目の前の光景に心を痛める。


「ノッポさんが……」


 もうそこに、街を見守っていてくれた時計塔の姿はない。

 感傷的にもなる――その視界が、ぐるりと回る。

 吊られたままに方向転換。

 エリはアレクと顔を突き合わせた。


「ところで、クサコよ」


「うん?」


「もうそろそろ、ヨーコがお前に給金とやらを渡すはずだが、どうなっている」


 アレクに問われ、エリはハッなる。


――”もう、ルネは残っていません”


 それを素直に話すべき、いずれ話さないといけなくなるとは知っていた。

 ただ、今はまだ心の準備が万端(ばんたん)ではない。

 文句を言われるのは確実。

 だとしても、このまま()みつかれてしまうには覚悟が不十分――と、エリは自分にも素直だった。

 その結果。


「お、お給金!? ヨーコさんからの……ええとお、私のお金は……うううんとおお」


 しどろもどろとなる。


「おい、こら」


「ひゃい!?」


「お前のではないだろ。俺が手にしなくてはならないルネなのだから、俺の金だろ」


「あはは……」


 苦笑い。

 アレクを相手だと機会も多い、いつもの対応。

 しかしながらエリは、いつもとは違うちょっとした成長をここで見せるだろうか。


「そういえば。元気そうなアレクだけど、病気はもういいの?」


 誤魔化すため、エリは話題を変えることを覚えたのである。


「昔に聞いたシスターさんからの話だと、”ヤクルト(薬瑠湯)ウ”っていうお薬なら、どんな病気にも効くらしいよ?」


「ほう。聞き覚えがあるようなないようなだが。なるほど、そいつがあればクサコもまともになれるということか」


「……アレクのための話だったのに」


「どこをどうひねれば、そうなる。明らかにお前に必要な薬だろう」


 呆れ顔のアレク。

 それからすぐ、気を取り直し吊るす相手をにらむ。


「それはそうと、お前はなぜ、いきなり(・・・・)そんな話を持ち出したのだ」


「うぐ」


 エリにはやましさがあった。

 それが、アレクの真摯な眼差しをより突き刺すものに感じさせた。


「何か良からぬ気配が、ぷんぷんしているぞ。まさかクサコごときが、この俺をダマそうとしているのではないだろうな」


「お薬の話は本当なんだけれど……その……ごめんなさい」


 結局、観念せざると得ないエリであった。

 そんなエリが、なんだかんだと広場を後にする。

 アレクから吊るされたままに、去りゆくだろうか。

 その頃ともなれば、巫女サクラ、そして、尊師フランベンの姿もなくなっていた。


 夜の静けさを取り戻す広場は、時計塔ノッポさんの瓦解した姿を残すばかりであった――。









大陸辞典:「剣聖・アデル」


大陸中に響き渡る名のひとつ、”ソードマスターアデル”。

我流であるものの、剣の腕前で彼女の右に出る者はいない。

それは卓越した剣技を誇る勇者アーサーをもってしても同じである。


そんな若き女剣士は、冒険者になるわけでもなく、ただひたすら自分に見合う剣を求め、大陸中を放浪している、いわゆる住所不定無職でもあった。

しかしながら、ソードマスター人気には貢献していただろうか。

クールな面立ちとすらりとしたスタイルの大陸最強女剣士。

現カンフーマスターと比べ、ソードマスターの人気が高いのもうなずけるものであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ