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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―III 】……魔王討伐編前段階のパートです。
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109 アレックス ②



 月たる鵺から、”試作魔法具(マテリアβ)”を手にした。

 それゆえ、マテリアを回収する尊師フランベンから、素材としても拾われていた。


 その男に、”魂”と呼べるものは宿ってはいない。

 それでも、生物の部品として、キメラを機能させるコアとして、再び生命の灯火ともしびを得ていた。


――トレードマークは、にゅろんと伸ばす口ひげ。


 そう遠くもない過去では、奴隷商を束ねそれなりに人生を謳歌(おうか)していた男、ガンスはある日、一人の戦士によって殺されてしまう。

 キメラとなった意識では、その相手――”ウルクアレク”の名も忘却の彼方(かなた)だろう。

 しかしなんの因果か、その姿を再び目に焼きつけることとなる。


――二度目の断末魔。


 キメラとなったガンスは、奇しくも同じ戦士から葬り去られる末路をたどるのだった……。


「が……こんなことが……私のキメラが……このフランベンの、最高傑作が……」


 ガクり。

 フランベンが膝をつく。

 そこへアレックスが歩み寄ろうとした、がしかし。


――ビュンッ、ビュンッ。


 短剣が飛来した。


――キン、キン。


 金属のぶつかり合う音が鳴れば、短剣が地面に落ちる。

 ”投げないナイフ”を払い落としたアレックス。

 その隣からは、サクラが腰に手を当て登場する。


「悪党は往生際が悪いからね~。言ってるそばからあんなだし。まあ、分かりきってたことだけど」


 サクラの向こうでは、尊師たる証でもある”月たる鵺”の装飾マークが見える。

 フランベンが背を向けていた。

 ここからの逃走を図ろうというのだ。


「逃げ切れるわけないのに、ご苦労さん」


 巫女には【神気】がある。

 さらには、相方の凄腕戦士もすでに追いかけ走り出していた。


――どう足掻(あが)こうと、結果は見えていた。


 ところが、である。

 時計塔の傍らから、ふらっと現れる人影があった。


「きゃう――っ」


 広場に若い娘の悲鳴が響く。

 走ってくる相手と衝突して、どてん倒れたからであるが。


 それは――、衝突した尊師フランベン、その後方の戦士アッレクス、巫女サクラはもちろん、給仕服の娘エリにとって、突然の出来事であった。


「う~すみません。少し考えごとをしてて……ぼーと歩いてました」


 あいてて。

 強く打ったお尻をさすりながら、エリが起き上がる。

 それからすぐに、ぶつかった相手を気づかうだろうか。


――『お怪我はありませんか?』、と。


 それがアダになるとは知らないままに。


「クヒヒ。いいっ。素晴らしいいいッ」


「ええ……とお?」


 後ろから抱きつかれ、羽交い締めにされるエリ。

 状況が飲み込めるまでに、少々時間を要する様子――の最中、その細い首元では短剣の刃がギラリと光る。


「ああっ、やはり尊きお方です。これこそは、未来を見通せる貴方様が差し伸べてくださったこの小娘との出会いなのですね。ああ、盟主メアリー様っ。このフランベン、心より感謝を。そして――」


 好機を悟るフランベン。

 そのひんむく目玉で、追手を威圧する。


「教えずとも分かるはずでしょうっ。妙な動きはするんじゃああああありませんよおお」


「さっきまでの半べそくんが、一気に調子にノっちゃってるよ」


「サクラ・ライブラ。とくにお前の場合は、喋ることも許すつもりはありませんよ。魔法を使うものとして、今後口を開いた時点で、この娘が鮮血に染まることでしょうううう」


 形勢逆転。

 そう言わざるを得ないだろう。

 フランベンの脅しに、サクラは沈黙で応じ、アッレクスもまた身動きが取れないでいた。


「……その人は僕らとは何も関係ない」


「相変わらずくだらないことを。いいや、失礼。それこそ、人質となるなら、誰だろうと関係ないでしょううう。クヒヒ、グーヒヒヒヒ」


 気味も悪い高笑い。

 そんな時だ。

 フランベンの腕に捕まる人質ことエリの頭の中で、


――ぴこぴこ、カシャン。


 と、状況の理解が完了した。


 目の前には、探していたアレク。

 剣を片手に追い回すような様子から、後ろにいる人は追われていたとわかる。

 そして、その人物が自分を盾に、つまり人質にアレクを牽制(けんせい)しようとしている。


――エリは同情してしまう。


 大方、理不尽なことで追いかけ回されていたはずの被害者のローブの人。

 それからもうひとつ、間違ったその行動(・・・・・・・・)にも心を痛めた。


「あの~、すみません。私の後ろの人、いいでしょうか?」


 のんびりした声は、この緊迫した場において、一種の”ヘンな間”を演出してしまう。

 間近のフランベンも、命乞いや暴れるといった想定していた以外の意外性に、反応できずにいたようだ。

 さりとて、それをエリが知る由もない。

 気兼ねなく自身の考えを言葉にしてゆく。


「ごめんなさい……。私では人質をまっとうすることができそうにないです。たぶん、うーうん。きっとアレクを相手に、誰だろうと意味がないと思うんですっ。それこそ、人質とか関係なくて……一緒にバッサリ」


 おそらく、よそからプジョーニへ来た旅行者さんだから知らないんだろうなあ……と思いながら、エリは申し訳ない気持ちにもなる。

 ゆえに。


「だから、急いで逃げてくださいっ」


 大真面目に訴えるのであった。



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