表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―III 】……魔王討伐編前段階のパートです。
108/147

108 アレックス ①



 パーンと消し去った。

 誰が見てもそう思えた。


 サクラが目を見張る。

 さらには敵であるフランベンも、裏切られた光景に一時動きを止めるようであった。


「……記憶は相変わらずなので、根拠は説明できそうにもありませんが、自信通りにできた(・・・)ようです」


 毒霧が一瞬にして晴れたそこで、アレックスがふうと息を吐く。


――やってのけた。


 その手応えを表すように、身体はむろん無傷であった。


「チラっと見えたんだけど、さっきの霧吹き攻撃を……みじん切りにして防いだってこと!?」


「はい、炎を斬る要領でですね」


「キミくんってば、さらっととんでもな返答くれちゃってるぜ、べいび~。それを聞いて、”ああ、なるほどね~、そういうことかあ~”なーんて、納得できる人ってあんまりいないと思うよ、普通……」


 ”炎を斬る”。

 なんとも馬鹿ばかしい話。

 それでも、剣の妙技として理解の範疇(はんちゅう)ではあった。

 仲間の剣士、勇者アーサーがそうであるように、似たような芸当をやれる人間をサクラは知っていたからだ。


「すみません。僕自身も、覚えていた感覚(・・・・・・・)をこの戦いの中で気づけただけなので、なんとも……刃の起こす気流で斬るのがコツで、数回の斬撃に思念の斬撃をいくつものせて、その残影で斬り刻む……言葉にするとこんな具合でしょうか」


 毒霧に対して、アレックスは刀剣で5回ほど斬りつけた。

 刹那のそれだけでも、一流の剣技だと言えるのだが、さらなる剣技――、


――【剣気(ケンキ)】を用いた技が、そこにはあった。


 【剣気】。

 わずかな瞬間、精神統一を経て生み出すことのできる超常的な力。

 それを扱えるほどの鍛錬を積んだ剣士は、斬撃の思念(イメージ)を具現化できる。

 高みに至るまで数多(あまた)と振った”一太刀”。

 その数々を、実体ある刀剣の一撃とともにアレックスは放つ。


 ひと振りにつき、20あまりの思念の刃が具現化していた。

 すなわち、100以上の斬撃が、瞬きをする間に繰り出されていたことになる。


 どうやらこうした剣技を、アレックスの身体は覚えていたらしい。

 そして。

 記憶としては蘇ってはいないこの剣術は、アカイロシキブ流・武刀剣技に属した。

 毒霧を消し去った技名は――『閃光剣術(シャイニングムーブ)・烈式(クロスザード)』。


「頑張って説明してくれたご厚意には感謝~なんだけど、専門外のウチにはちんぷんかんでした。すまんこって」


「いえ。僕のほうこそ、前もって伝えるべきだったかもですね……貴方をいたずらに動揺させてしまったようですから」


「ほんとだよ。ウチの心配を返してほしいかな~」

 

 軽い足取りで近づくサクラ。

 安堵(あんど)の気持ちを素直に見せたくないのか。おどけてみせた。

 すると、


――ヒュワン。


 変化が起きた。

 それは心情的な内面ではなく、誤魔化しようもない外面的な部分。

 

 サクラの髪色が、赤から青へ。

 膨らみを持つ髪は、萎縮するようにして元の髪型に戻る。

 【神気】の効力が失せたようだ。


「僕としては、良いタイミングだったかもしれません。あとは任せてください」


「それはつまり、ウチの代わりに、キミくんがオイシイところをもらっちゃうぞ~、てことですかな?」


「ええと……」


 ぽりぽり。

 アレックスが困ったように頭を()く。

 それでも、お互いの意思の疎通そつうは行えたようで。

 

「できれば、あの尊師、デメキンの男のほうは半殺しで生かしてくれると助かるかな」


「……善処(ぜんしょ)します」


 それだけ言い残すと、アレックスが前方へと向かう。

 戦士の顔つきとなったその姿を、サクラは控えて見守る。


「まずは――」


 月光の明かりに照らされる視界。

 そこにアレックスが映すのは、10M(マーベル)ほど距離を置く大きなキメラの影。

 そして、その後方に位置するローブの男フランベン。

 毒霧を防いだアレックスの眼差しが(しゃく)に障るのだろう。

 ぎぎぎ、と憎たらしそうに奥歯を噛み締めていた。


「その戦士としての力わあああっ。メメメ盟主メアリー様のためだけに捧げるべきものっ。にもかかわらず、にもかかわらず、その力で言葉通りに刃向かう愚行をおおお。どこまでもどこまでもっ、罪深き男おおおおぐぎいいいい」


 発狂とも思える様子。

 そのような状態のフランベンを尻目に、アレックスが駆ける。

 刀剣の切っ先を下げた格好で夜風を切る走りは、迷いもなくキメラの巨躯へと向かった。


「ザザ――ザンスッッッ!!」


 危害を察したキメラが防衛反応をとる。

 まさに豪腕である『日暮れグマ』の一撃で、アレックスを迎え討つ。


――斬っ。


 アレックスの頭上での一閃。

 殴りつけてくるキメラの攻撃を刀剣で払うような斬撃であった。

 四本ある腕のひとつが、切り落とされ地面に落ちる。

 痛みを感じないのか。

 キメラの胸元にある逆さ顔の表情が歪むことはない。


「いい武器だ」


 サクラさえ苦労したキメラの硬さにも物ともしない切れ味。

 自身が扱う刀剣の事実を体感した(・・・・・・・)アレックスが、流れる動きのままさらに踏み出す。


――刃の鋭さを知る一太刀は、思念のそれに反映される。


 そうして、瞬時であった。

 アレックスは全身全霊で、高速の剣術を浴びせた。

 

 上から下への真直ぐ。

 返す刃での逆風。

 左右の薙ぎ。

 袈裟切り。

 刺突――。

 

 様々な太刀筋で繰り出された、(とう)の斬撃。

 さらに【剣気】を帯びる一太刀には、百の斬撃が加わる。


「お前を憐れんだりしない。それでも、これは僕なりの弔いだ」


 原型を留めるわずかな間に、アレックスは告げた。

 つう、つう、とキメラに無数の線が現れ始める。

 それから、細かい肉片の(ちり)となって崩れ去る。


――千を越える刃の閃光。


 それをまともに受けたのだ。

 いくら屈強で凶悪なキメラだろうと、あっけない最後ともなろう――――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ