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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―III 】……魔王討伐編前段階のパートです。
107/147

107 名を隠す巫女、サクラ・ライブラ ⑤




「出裸九主っ。生体特技【穢れた緑の毒霧(グレートムター)】ッッッ!!」


 号令とともに、キメラが反応を見せた。

 首に乗るイボイボの塊。

 にゅるにゅると数本のくだが伸びると、霧状の液体を噴射する。


――ブシュウウウウウウ。


 辺り一面――とまではいかないまでも、人間二人を包み込むには十分な”範囲攻撃”。


「サクラさんっ――」


「うげげ!? なんか出した――」


 アレックスが右。サクラが左へと素早く飛び退く。


――ジュシュワワワ~。


 二人がいた場所からは白い蒸気。

 石畳が溶けるようであった。


「なに゛、これ゛」


 ツーンした異臭に、サクラが鼻をつまむ。


「もしがして……さっきの浴びてだら、ウチらがドロドロ~ってこと?」


「クヒヒ。いかにもですよ」


 尊師フランベンが肯定する。


「九種の特性を持つ傑作キメラ(デラックス)っ。その能力のひとつに過ぎませんが、ドクモネぎんちゃく・グレートの毒霧は浴びれば最後、骨のずいまで溶解してしまうことでしょううううう」


 全身に触手を持つ、柔らかい無脊椎動物の『モリモネギンチャク』。

 森で生息する彼らは、捕食のさい”毒霧(ムター)”なる溶解液を噴射する。

 そのなかでも、個体サイズも大きく毒性の強い種がキメラには配合させていた。


「さあ、このフランベンにいいっ、溶解液に侵され苦しみ悶えながら懺悔の声を聞かせなさいッッッ!!」


 (あるじ)の指示に、キメラの特殊攻撃が再開された。


――ブシュウウウウウウ。


「浴びなければ、どうということはない――んだけれどもっ」


――ブシュウウウウウウ。


 毒霧がしつこくサクラ襲う。


「避けるしかないっていうのは、どうということはあるんだよね、これがっ」


 素早い身のこなしは、サクラを毒霧から守る。

 だが、それだけで手一杯であった。

 毒霧はサクラを仕留めるに至たらずも、サクラを不用意に近づけさせない。


「どうしたもんかなあ……」


 サクラが迷いを見せる。

 毒霧を防げないこともない(・・・・・・・・・)

 ただし、新たな【神気(ジンキ)】のために”獣化を解く”ならば……の話であった。


「出裸九主っ」


 フランベンの視線が移る。


「次はあちらの男に【穢れた緑の毒霧(グレートムター)】だッッッ」


 巫女サクラに対して優位性を示した攻撃。

 その矛先が変わるようだが。


――サクラがハッとなる。


「ちょっとキミくん!?」


 溶ける石畳を挟んだ向こう側。

 姿勢を正し、剣を構え直すアレックスの姿が視界にあった。

 サクラは危惧した。

 それは避けるものではなく、立ち向かおうとする態度だからだ。


「サクラさん。大丈夫です」


 力強さを宿した瞳。

 その視線を向けることはなかったが、アレックスが落ち着いた様子で言う。


「キミくんがどんなに平然と言っても、どう見たって大丈夫じゃ済みそうにもない霧吹き攻撃だからっ」


「……避けてばかりでは、いずれ追い詰められてしまうかもしれません。なので、ここは攻めに転じて勝機をつかむべきだと判断しました」


「いーやいやや。根拠のない自信で活路を開くぜ系男子に、ウチはときめかない女子だからっ。変な気を起こしちゃダメだってっ」 


 毒霧に真っ向から挑もうとするらしい戦士の相方。

 それを、サクラなりの言い分で制止しようとした――時だった。


――ブシュウウウウウウ。


 正面から広がり迫りくる毒霧。

 避ける気配もないままに、アレックスが飲み込まれる。


「キミくん――っ」


 駆け出したが、もう遅い。

 サクラは叫ぶことしかできなかった……。


 

モンスター辞典:「キメラ(合成生物)


古くは1000年前にその存在が確認されている。

ただし古代キメラは、現在のキメラのような人為的創造生物体ではなく、”キメラ種”として神の創造物とされている。

その古代キメラ種においては、約400年前から確認されていない。


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