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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―III 】……魔王討伐編前段階のパートです。
106/147

106 名を隠す巫女、サクラ・ライブラ ④



 魔族を対象としたものであるが、冒険者ギルドの指標にはこうある。


①『通常域』:一般的なモンスター級の脅威。

②『対処域』:注意と用心が必要な脅威。

③『危険域』:可能なら積極的に避けるべき脅威。

④『絶望域』:魔王級の脅威なので、潔く諦めましょう。


 赤髪赤目と、巫女サクラは【その奇跡は獣と化す(ケモノフレンズン)】を使用する。

 その戦闘能力は、③の『危険域』の脅威にも通用するものだろう。

 だが――。


「ちょっとお~、おたくさん、キモいだけじゃなくて、反則級に硬すぎるんですけれど~」


 シュタン、シュタンと後転を繰り返せば、巫女サクラが距離を取る相手に愚痴をこぼす。

 全力の打撃とひかっき……だったはずだが。


――ダメージらしきものを与えた気になれない。


 そう感じるほどに、キメラの大男はピンピンしている。

 だからこそ、そばでは尊師フランベンが優越感に浸るだろうか。


「私のキメラ28号(シリアルナンバー28)出裸九主(・デラックス)。じいいいいいいつに、実に素晴らしい!」


「ザザ……ザンス」


 キメラの胸。

 にゅろんと伸びた口ひげを持つ逆さ顔が応じた。


「クヒヒ。日暮れグマ、虎刈りタイガー、ゴリラッパーの攻撃力と耐久性。そればかりか、ハエはえ~マンやトカゲマンの俊敏性と知覚能力をも(あわ)せ持つのですから、言うに及ばず当然であり必然でしょう――」


 フランベンは、のぞむ向こうへいやらしく投げかける。


「よって、自身の不甲斐なさに、何も悲観する必要はないのですよ、サクラ・ライブラ」


「なるほどね~。凶悪モンスターのいいところ取りしたキメラって、自慢したいわけだ」


 相手の皮肉に冷やかすような態度のサクラ。

 しかしながら、胸の内はざわつく。

 月たるヌエの力なのか、フランベンの力なのか。


――サクラの知る限り、”五種以上の掛け合わせ”によるキメラの成功例はない。


 それを否定するキメラが今、目の前にいる。

 禁忌中の禁忌……人間をコア()にすることで、おそらく創造可能だったらしいそれを含め、とにかくは好ましくない驚きであった。

 そして、苦戦を()いられてはいないものの、大きな障害になっている現状も否めない。


「どっかの武闘家みたく、ウチにも必殺技とかあったらなあ……と、ないものねだりをしてみても仕方がないので、お隣の剣士くんへ相談してみるサクラちゃんであった――なんだけど?」


 サクラが隣を見やると、何やら不機嫌そうな横顔が。


「キミくん、どうかしたのかい? 怖い顔して」


「その優れた特性を集めて……いいや、そうするためだけに、人間すら……そのおぞましいモノ(キメラ)を創り上げた……」


 戦士は見据える前へと踏み出す。

 手にする刃の切っ先をかざして。


「はっきり言うよ。さっきから僕は、お前に吐き気をもよおしてるっ」


「何かと思えば。だからどうしたというくだらなさですね」


「くだらない……それでもいいさ。狂人相手に話が通じないのは知っている。だから、僕はこうして剣を向けている。お前を許しておくわけにはいかない。そう、心に固く誓ながら、それが僕の役目だと覚悟を決めながら」


 義憤(ぎふん)がアレックスの身体を熱くさせる。

 その熱に、フランベンが震える。

 ただしそれは怯えからくるものなどではない。

 同じく荒ぶる感情からだ。


「ああ、なんたることでしょう。事もあろうに不浄の者がっ、このフランベンを、盟主の敬啓な信者(エブラハム)を裁こうとなどと世迷い言をっ。コココこれはいけませんっ。断じていけませんよおおお。許し難きことですっ」


 わなわなとこみ上げてくる怒り。


「ならば、ならばいいでしょうっ。直ちにいいい、その罪深さを後悔させてさああしあげええましょうっ」


 目の玉を剥き出しに、フランベンの手が突き出される。


――恐怖におののけとばかりに。


 標的となる戦士。

 そして、巫女に向けて――。



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