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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―III 】……魔王討伐編前段階のパートです。
105/147

105 名を隠す巫女、サクラ・ライブラ ③


「クヒヒ……我々の前に現れたのが、あの邪悪なる勇者に(くみ)する巫女なのですよ……」


「悪党な尊師くん。それはアーサーくんだけ邪悪ってことだよね? 一応、巫女な者なので、一緒にされちゃうと聞き捨てならないわけだ、これが。せめて小悪魔な~、程度にしといてくれるかい」


「では、このフランベンの喜びを理解できない愚者(ぐしゃ)とでも呼んで差し上げましょう。そして、その愚かさを説いても差し上げましょう」


「はいはい、お好きにどーぞ、見た目と一緒で、お腹も黒そうな尊師くん」


「”サクラ・ライブラ”――。この名を耳にした時から、私は絶望などではなく、幸福を感じていたのです」


 尊師フランベンの言動に、サクラが理解を示すことはない。

 だが、サクラではたどり着けなかったその思考においては、紛れもない心情。


 盟主メアリーに仇なす存在。許させざる者達。

 その一味の女が現れ立ちはだかる。

 熱狂的な信奉者である尊師フランベンにとって、これほど喜ばしい状況はない。


――なぜなら。


「”指輪の使命”を託されたばかりか、尊き盟主の(うれ)いたる邪魔者を、このフランベンが直接排除できるううう、機会が訪れたのですっ。ああっ、まさしく僥倖(ぎょうこう)っ。私の純真な信心があってこそおおおの果報っ」


 フランベンは、身をよじり打ち震える。


「やーれやれれ。ウチの隣の剣士くんがちょっと引き気味になるくらい、盛り上がっているところ悪いんですがー」


 ぐぐ、とよーいどんの体勢。


「【神気】の有効時間とかもありますんでー、現実見えてない悪徒はちゃっちゃと片づけちゃおう! と思っているサクラちゃんであった――まる」


 ダシュッ――と、サクラが駆ける。


――想定される迎撃は投げナイフ。


 しかし、いかに正確なそれだろうと、獣の動体視力と動きをもってすれば、避けるのはもちろん払い落とすのも可能。

 だからこそ最短距離を選び、サクラは真っ直ぐに突っ込む。


――もともと大した距離を置かない対話相手なのだ。


 瞬時に、その間は詰まる。

 そして。


「サクラさんっ」


 鋭い声は、アレックスであった。


「思ってたより、速く動けるデッカイくんなんだね――」


 フランベンに殴りかかろうとするサクラ。

 その真横には、サクラの倍はある大きな図体。

 その真上には、サクラの握る拳とは比較にならない大きさの拳。

 

――ゴガッッッ!!


 岩でも叩きつけたかのような一撃であった。

 頭上からの攻撃を交わしたサクラには、打ち砕かれた石畳の破片が降り注ぐ。


「うぺぺぺ」


 はねた泥に顔をしかめながらも、その動きが止まることはない。

 地を蹴るステップは三回。

 たったそれだけで、自身を襲ったローブの影――サクラが言うところの”デッカイくん”の後ろへと回り込んだ。


――がおーっ。


 サクラは目の前の背中めがけ、ゲシッッッと飛び蹴り。

 吹っ飛ばす……つもりだったろうそれであるが。


「ありゃま」


 当然のように、耐えしのがれてしまう。

 そして、攻撃が通じなかった背中からは、しゅるんと何やら伸びてくる。

 丈も長いローブの裾をめくり、サクラの蹴り上げる足に巻きつく。


「し、しっぽ!? うおわあああ」


 ぶおん、とサクラの身体が引っ張り上げられる。

 相手の反撃。

 鱗のある尻尾からそのまま振り下ろされ、


――勢いよく地面へ叩きつけられた。


「くはっ」


 放り投げられたサクラは硬い地面を破壊し――バウン(弾む)ド。

 そこへ、すかさず第二波。

 『日暮れグマ』が繰り出すような、強烈な打撃に見舞われる。


「――っ」


 意識を手放すことはなかった、がしかし。

 サクラは面白いように吹き飛ばされた。

 放物線を描くでもなく、地面と水平に吹き飛ぶ。


――後方の壁。時計塔めがけて。 


「サクラさんっ」


 アレックスが素早い反応をみせていた。

 サクラを受け止めたのだ。

 ただし、飛びついて肩を抱く不安定なキャッチでは、サクラが帯びる推進力に負けてしまう。

 引きずられるようにして、アレックスもまた削ぎ落とせなかった勢いに飲まれる。

 そうした刹那。


――ガガガ。


 石畳を突き刺す刀剣が、勢いを殺す。

 サクラを抱くアレックスが踏みとどまる。

 後ろには時計塔も近い。


「危うく壁にドーンと激突、略して壁ドンからウチを助けてくれたんだね」


「間に合って良かったです」


「あんがとさん。なので、キミくんの手がウチのお胸を、くにゅっとわしづかみにしているのは大目にみとくから」


「す、すみません、故意では――」


 アレックスの手が、慌ててどけられる。

 にしし、とからかうサクラは微笑んだ。

 それから、起こす身体のダメージを確かめるように、伸びを一つ。


「ちょいと焦るような攻撃力だったけど、まだまだやれるよ~」


 心配されることを嫌ったのだろう。

 サクラはその平気な様子をアレックスに見せる……のだが。

 肝心の相手の顔がこちらを向いていない。


――(いぶか)しみ、そして、一層用心深くなる眼差し。


 アレックスの見つめる先には、黒きローブを脱ぎ捨てた人ならざる者がたたずむ。


「貴方が無事なようで何よりです。ただ……アレは一体なんなのでしょう……か」


「あのデッカイくんは……たぶん、”キメラ(合成生物)”だろうね」


 『キメラ』――。

 生物同士を掛け合わせ、新たに創造された合成生物。

 その存在は大昔から確認されていたが、一般には知れ渡っていない。

 教会が禁じた学問であるため、キメラはタブー視されているからだ。


 そのキメラと目される大きな異形の人影に、尊師フランベンが寄り添う。


「クヒヒ……さすがだ。さすがは、28番目の傑作『出裸九主(デラックス)』よっ」


 サクラからの襲撃を防ぎ、造作もなく撃退した。

 自身が生み出したキメラの実力と功績に、フランベンは満足するのだろう。

 静かな狂喜のなかには、恍惚(こうこつ)とした表情が垣間見えた。


「――ザザザンス」


 感情があるのかも疑わしいが、キメラは創造主に反応するようだ……。

 

 頭部にあたる部分に顔はなく、イボイボの塊がある。

 顔らしい顔は人間のものが見て取れるが、アゴ先が上、額が下と逆さま。

 そして、その位置は胸元……に埋まるようにして。

 腕は4本。

 豪腕と呼ぶに相応しい太さ。

 脚部も巨躯を支えるに相応しいそれであった。

 人間の肌を思わせる部分は少なく、ほとんどが毛や鱗に覆われている。

 さらには尻尾を持つ。


 人影と称するには惑う、まさしく異形の姿である。



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