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ウルクアレク  作者: かえる
【 Wolfalex―III 】……魔王討伐編前段階のパートです。
104/147

104 名を隠す巫女、サクラ・ライブラ ②


「がおーんとっ」


 足での一撃をともなう後転式宙返り(サマーソルト)


 ザシュッ――と四肢で着地したサクラは間髪入れず、跳ね上がる。

 その跳躍の先は、蹴飛ばして浮かせた相手のさらに上。


――両足で、ドーンッ。


 空中で踏みつけた。

 教団員Aが、容赦なく石畳に叩きつけられる。

 一方で、教団員A(黒いローブの男)を踏み台にしたサクラ(白いローブの女)は、そこからより高くを飛んでいた。


 夜空を背景に、獣系女子が(かけ)る――。


 人の動きを凌駕する獣のごとき俊敏性。

 ひっかく手は、まさに鉤爪(かぎづめ)となって指先にあったものを簡単にえぐる。


――そうした能力を駆使し、サクラは教団員を次々に撃破してゆく。

 

 『ひとつ』――、『ふたつ』――、『みっつ、ねくすとっ』と、数え上げながらのそれは、圧倒的かつ一方的な瞬殺の連続であった。 

 しかし、五人目。

 教団員Eへのアタッ(強襲)クに及んだ時だ。


――バン、バン。


 発砲音は銃撃によるもの。

 くわえて、数名の教団員F~Hによるもの……だが、それでも獣が銃弾から仕留められることはない。

 素早すぎる動きが、狙いを定まらせないようだ。


「何発撃っても、たぶん当たんないから~。それよりも、ウチばかりに気を取られてていいのかな~」


 サクラから忠告を受けた教団員らが、スパパパパーンと斬られる。

 アレックスの斬撃は、剣術を身につけているとわかる綺麗な太刀筋であった。


「キミくんはキミくんで、なかなか見事な剣士くんだあーねえ……」


 ちょっとした感嘆。

 そのあとはすぐさま、がおがおーと目をつけていた五人目を再び襲いにゆく。


「ちょこまかと動くなら、その動きを止めるまでっ。バインドおおお、チェーン!」


 教団員Eが力強く叫ぶ。

 呼応するように、石畳の魔法陣から『拘束の鎖』が発動。

 しかしながら、その発動よりも速く動ける相手には無意味な魔法となった。

 サクラがやすやすと教団魔法士の懐に潜り込む。


「はい、残念無念なんとやら。ウチんとこの魔法士ちゃんみたく、鎖は追尾式にでもしないとウチは捕えられないんじゃあないかな~」


 たまに縛り上げられるサクラ。

 経験と実績からのちゃんとしたアドバイスであった。

 それはともかく。


――突き上げる打撃(アッパーカット)


 昇獣拳――とでも名づけて良さそうな必殺パンチであった。

 突き上げの有り余る勢いは、教団魔法士だけでなくサクラ自身をも夜空へと昇らせた。


「これで、『いつつ』。さーてさてて……」


 宙でくるり。

 サクラの光らせた赤い目は、瞬時に戦闘状況を把握する。

 相棒となる剣士は危なげなく、教団員を倒している。

 気になる尊師の男は、近くの大柄の教団員を盾にやや後方で待機――といったところ。


「この感じなら、あっという間に終わりそうだね」


 自身が吐いた言葉の責任を果たすつもりなのか。

 サクラの戦闘は激しさを増して再開させる。




 

 巫女の予想通り、『あっという間』の展開であった。

 ほんのわずかな時間のうちに、戦況は決したも同然の有様。

 20名ほどいた教団員達が、今は動ける者もわずか4名――もとい、今しがた剣士が一人斬り伏せたので、残り3名となった。


「……う、うわあああ」


 情けない声を挙げながら、教団員が駆け出す。

 向かう先は、敵対する相手二人ではない。

 だからと言って、仲間の元へでもない。

 明後日の方向へ、


――逃げ出したのだ。


「あーらあらら」


 サクラが呆れたように。

 (かたわ)らのアレックスも、追う必要はないと判断するのだろう。

 去りゆくローブの背中を黙って見つめた。


――そこへ。


 ビュン――と、風を切る音が鳴る。

 投げ放たれた短剣が、首の後ろを貫く。

 突然糸を切れたように……ばたり。逃げ出す教団員が倒れ伏す。


「器用なこって。尊師のあいつって、元冒険者とかなのかしらん。だとしたら、実力はBランク以上かものウチ判定かな~」


 投げナイフの練度から推察するそれを、サクラはアレックスに投げかけた。

 ただし、会話を期待したものでもないようで、返事を待たずに正面へ顔を向け直す。

 サクラとしては、”今までの教団員より注意を払うべき相手”と伝えられれば、それで十分なようだ。


「お仲間だろうに、容赦がないのね」


「我らが使命に背を向けて逃げ出す。そのような背教者に許しなどもってのほかでしょう。当然の報いなのですよ」


「ふーん」


 サクラは興味のない態度で応じた。

 それでも少しばかり、()に落ちない部分はあった。

 裏切る仲間をあっさり始末する残忍さはそれとして、部下の敵前逃亡は不満の対象のはず。

 しかしながら相手のその表情は、腹を立てたというよりむしろ。


「なんだか、嬉しそうに見えるんだけど。今の状況理解してますか? もう尊師くんとそこのデッカイくんしか残っていない、絶望的ななんとやらなんだけど~」


――教団側は、尊師フランベンと大柄の同志の二人だけとなった。


 にもかかわらず……笑みを浮かべている。


 そうなってしまう神経はどこからくるものなのか。

 諦めの境地だからこそ笑うしかないのか……。

 はたまた、この危機的状況をひっくり返せるほどの何かを隠し持っていたりするのか……。


――サクラは心理を読み取ろうとする。


 しかしてその答えは、『ウチは頭脳派じゃないな、やっぱり』との妙な自信と確信であった。



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