101 月たる鵺、フランベン ②
街の者達がのちに、『タチマチ斬殺』と呼ぶ悲劇が生まれてしまう。
『なんのつもりだ。俺は今、急いでいる。なんだかクサコが給金とやらを手にしている気がしてならないからだ』
教団員が呼び止めると、相手は黙れとばかりに目つきが鋭くなった。
『つまり、暑苦しそうなキサマらは今、その俺の行く手を阻……もうとしているワケか。なるほどな。そういうつもりのなんのつもりだったか』
何やらタイミングが悪かったようだ――と、察した教団員。
すぐさま、悪気や敵意はないことを伝えるように、口元をにこやかにして見せた。
それから、和やかな態度で指輪を手にセリフを声にする。
――事前に配布されていたマニュアル。
そこから教団員が選んだのは――『これ最近王都で流行っている物なんですけれど、指にハメるだけであの子もこの子もよりどりみどりの恋愛運アップ! 金貨も銀貨もよりどりみどりの金運アップ! さらにいろんなところが元気になる健康運もあがるすぐれもの! それが今だけ、なんとタダでお配りしているんですよ! 欲しくありませんか? 絶対欲しいですよね! 分かりました。特别にあげちゃいます!』だった。
――さすれば。
教団員の脳天に刃が降りかかる。
『ならば、うざったいキサマらをサクっと殺して先を急ぐとしよう。あのクサコのことだ。俺の金をワケのわからん風にしてしまうやもしれんからな』
何一つ噛み合わなかった戦士の返答と行動。
それによって、教団員らは命を落とすこととなった。
つまりは、誰にでもできる簡単な仕事はあっさり失敗に終わった。
――かに思えたが。
『ほうほう。なんだかカッチョ良さげな指輪が転がっているではないか。落ちている金は拾わん主義の俺だが、俺に似合いそうな指輪なら拾ってやらんでもない……どれどれ』
指輪は戦士のお眼鏡にかなったらしく、さっそく指にハメられた。
事にあたった団員達の命は失われたものの……結末は、教団の狙い通りになった。
こうして、教団は屈強な戦士を手中に収めた。
――はずであった。
”魔法具の指輪”は、戦士の人指で怪しく輝く。
それでも、戦士がまた一つ教団の思惑を裏切る。
傀儡状態にもかかわらず、自らの意思で街中をうろうろ。
本来なら刷り込まれる司令に従い、このミッションを担う”尊師”を尋ねてくるのだが……。
「不測の事態。一筋縄ではいかない機運であることも認めよう」
月たる鵺にあって『尊師』と呼ばれる男が、被るフードの下の顔を険しくさせる。
「しかし、やり遂げてみせる。いいや、やり遂げねばならない。このフランベンが、盟主メアリー様のご期待を裏切ることなどあってはならないのだから……」
尊師フランベンは、以前、この街で行ったの仕事ぶりにより、今回の任務を託されていた。
また、奴隷商から”試作魔法具”を回収したその仕事で”尊師の地位”へと昇格した。
そのような経緯からなのか。
自身が選ばれた教団の使命――それを、盟主からの期待のあらわれと受け取る。
ゆえに、淡々と教団員に伝えるのだった。
「同志達を集めなさい。対象者はどうなろうと構いません。しかし、”魔法具の指輪”は回収しなくてはなりませんから」
どうやら尊師フランベンは、今後の方針を”生死を問わない奪還”とするようである。
――さらには。
「念の為、私のアレも投入しましょう」
なにやら意味深につぶやき、ほくそ笑むのであった……。




