2ー10「作戦会議」
その髪飾りを見て気づくことがある。
「これって1位の・・・」
「多分、そうよね。着替えてる時にね、この子にぶつかってしまって何故かここに呼び出されたんだけど・・・暗くてつまづいたらこの子を押して倒してしまって。気絶しちゃったのよ。」
リルは不安気に倒れている子を見つめていた。
「それは災難というかなんというか。とりあえずこのままにしとく訳には行かないよな俺が向こうに運んで・・・」
「ちょっと待って。あのね、えっと、あまり褒められた事ではないのだけどこの子に成り代われたりしないかしら・・・なんて考えたり。」
リルは皐月の表情を伺うように恐る恐るそう言った。
「まさか最初からそのつもりで」
「ち、違うわ!確かに、その、負けた場合のいい方法ってこれに似たような事だったのだけど。もっと穏やかな方法で考えてたのよ。」
「わかってるよ。リルがそんな事しないことは。そんで、この子に成り代わる必要はなくなったよ。」
少しというか、かなりリルを疑ってしまったが流石にここまではしないだろう。彼女の焦った表情からも故意でなかったことは十分伝わってくる。皐月はひとまずリルに先程メリから伝えられたことを伝え、倒れている子を控え室の椅子まで一緒に運ぶことを提案した。
「そうだったのね。メリ、お手柄だわ。そして・・・よいしょっと私がこっちを持つからサツキはそちらを持ってくれるかしら。」
リルは安堵の表情を浮かべ、続いて女の子の脇を抱えサツキと持ち上げる。そのまま控え室の椅子まで運び一息ついた。
「あとは係の人がみてくれるみたいだから俺たちは外へ行こうか。」
「ええ。そうね。」
外に出ると成海とメリがいた。そこに遅れてミカゲが合流し、皐月が事の顛末を話す。
「なるほどねん。まあ、あのお嬢様血の気が多いからねえ。呼び出しといて思わぬ返り討ちにあっちゃったわけね。んまあ、成り代わり作戦はナルミンも考えなかったわけじゃないよ。」
へへっと悪い笑みを浮かべ成海がリルの肩をポンポンと叩く。血の気の多さならここにいる女子達も負けず劣らずと言ったところか。
「ねえツッキー。さっきもらった券でさ、食料調達してみんなで宿の個室で作戦練ろうよ。みんなもいいでしょ?」
「そうしようぜサツキ、俺お腹ペコペコ。」
「あ、メリリーとツッキーは宿に行くまで変装といちゃだめだよ?その券とかもその姿でもらったものなんだから。バレちゃうからねん。」
「う・・・あぁ。そうだな。」
メリと皐月は嫌々ながらも納得し、そのままの格好で仮面祭の屋台をまわることとなった。こればかりは致し方ない。
仮面祭の会場では先程のコンテストを見ていた人達に声をかけられ買い物するにも時間がかかる。
各々が好きなものを買って宿に着く頃には全員疲れによりヘトヘトだった。
「ふう〜着きました〜。結構疲れちゃいましたね〜。」
「あー早く食べたいぜ!」
「メリもサツキも着替えてきたら?私たちはこの部屋で待っているわね。」
リルにそう言われ皐月とメリは1度男子部屋にいき着替えてから皆のいる部屋へと戻った。
「すっきりした。女子っていつもあんなに動きづらいんだな。」
「そうだよお。女の子は色々大変なんだよねえ。」
成海とリルは顔を見合わせ「ね〜」と声を揃えて言っている。すっかり仲良くなったみたいだ。
メリも部屋に帰ってくると成海の乾杯の音頭で食事が開始された。
「あ、これ美味い!・・・んーで。みんな俺に言うことあるんじゃない?」
メリは色々な屋台飯に手をつけながら感想をいいつつ本題に入る。その場に立ち上がりそわそわと褒められるのを待っているようだ。得意気な顔が少し腹立たしい。
「聞きましたよ〜メリくん、ありがとうございます〜。」
「へへん。」
「メリ、よくやったわね。」
「あ。なんか姉ちゃん偉そう!もっと褒めろよな。」
「よっ!メリリー世界一い〜!」
「ナルミンは相変わらずだよな。」
「流石美人・・・だな。」
「サツキの言い方はなんか含みがあんだよ・・・まっ、いいや!みんなサンキュー。まずは第1段階クリアだろ?俺のおかげで!」
メリは1人ずつ丁寧に賞賛を受けると満足したのかストンと座る。
「いやはやほんと感謝だよ。さてと、じゃあ本題いこっか。メリリーがもらった招待状、これは領主様の仮面舞踏会のものって事はOKだよね?そして、招待されたメリリーは今日と同じ格好をしてここに出向かなきゃならない。この招待状では本人と同伴者1人が入ることが出来るんだ。まあ大抵は家の従者を連れていくって感じかなあ。」
「魔王城の場所を聞くために私も行きたい所だったのだけど。サツキとナルミンの親友が大変なんでしょう?どちらかがついて行った方がいいわ。」
成海が一通り情報をまとめて話を進めていく。メリの同伴者についてが1番に決めなければいけない議題だ。
「それなんだが、成海が行った方がいい。成海の方が色々わかってる事が多いし立ち回りがうまいだろ。」
「ふむ。任せてもらえるのは嬉しけどいいのかなん?メリリーはどお?」
「俺は誰でもいいぜ。勝手に決めてよ。」
皐月は成海が行く事を提案する。勿論美雨の事は心配で出来るなら自分も助けに行きたいがこの世界の事をよくわかっている成海が行く方が効率よく助けられそうだ。成海もその方がいいと感じていたのだろう。頼もしい顔で頷いてくれている。それに対し、お腹もいっぱいになり眠くなってきた様子のメリが適当に返事をする。
「とりあえず。同行者は成海に決まりだ。俺たちに外からできる事はあるか?」
「そうだねえ。とりあえず、明日私はなんとか舞踏会に忍び込めるつてがないかあたってみることにするよ。まあ、あんまり期待はしないで欲しいけど。」
「ナルミンにはそのツテ探しってやつと同行をお願いして、メリには魔王城について聞いてきてもらうとして、私達はまた外で情報集めってとこかしら。」
「それでは私はみんなの動向を見て行動しますね〜。明日の夕方あたりまでは別の用事があるので少し失礼しますが、なるべく情報集めもお手伝いします〜。さ、それよりお料理冷めちゃいますよ〜?」
それぞれの役割を整理し終えた所でミカゲの指摘によりみんなの意識が料理へと向き直る。
本題が大体まとまり、あとは料理をつまみながらの雑談へと切り替わった。
全員が食べ終わる頃、メリが先に自分の部屋へと戻りミカゲは借りてきた本を読みたいとの事で宿のロビーへと向かっていった。
部屋には成海と皐月、リルだけが残る。
「あ〜。なんやかんやあって有耶無耶になってたけどさ元々私に聞きたい情報があったんだよね?」
「ええ。魔王城の場所についてどんな些細な事でも知っていたら教えて欲しいの。」
少しの沈黙の時間をおいて成海がそう切り出すとリルは単刀直入に聞きたかった事を質問した。
「ほえ〜。それがリルルン達の旅の目的ってわけだねん。それまた何で・・・とは聞かないけどさ。この私でも確信持ってお伝え出来ない情報だなあ。」
「ここの領主が魔族と交流があるだとか耳にしたわ。」
リルがヴァレリオから聞いた情報を口にすると成海は少し難しい顔をして話を続けた。
「それねえ。まあ、確信持っては言えないけどたしかに噂になってる事だ。リルルン達はそれで領主に用があったわけねん。それはメリリーに確かめてもらえるとして、もう1つそれ関連で最近聞いた事もあるよ。数日前からこの街に滞在してる魔法使いさんがリルルン達と同じようにここで魔王城の場所を聞いて回ってるらしいんだ。そんな事聞く人中々いないからさ、噂になってたねえ。私達みたいな高額情報屋の中で・・・ね。その人も聞いてるって事は知らないんだろうからあてになりやしないけど。」
「ありがとう。でも何も情報が無いより良いわ。その魔法使いさんもまた違う情報を持っているかもしれないし。」
「ごめんねえ。情報屋なのにあまりチカラになれなくてさ。」
成海は申し訳なさそうにリルに謝る。
「そんな事ないわ。ありがとう。明日私自身でもまた探してみることにするわね。」
「リルルン〜!優しいねえ。・・・と、こんな流れでごめんだけど。そろそろ私は帰るとするかな?明日の夜またここの宿に来るね。」
「あぁ、こっちでも何かわかれば明日共有する。宿の入口まで見送りに行こう。」
「ええ!ツッキーがお見送りに来てくれるなんて珍しい事もあるもんだねえ。」
皐月が見送りを申し出ると成海が大袈裟に口に手を当て驚いてみせる。いつも通りこちらをおちょくる体を崩さない。それをため息をつきながらハイハイと受け流すと皐月は成海の背中を急かすように押した。成海はリルに手を振りながら部屋を後にする。
「じゃ、ツッキーまた明日ね。ミウミウの事、正直気が気じゃないけど。ツッキーがいてくれて心強いよ、ありがとう。1人じゃやっぱり、ね?・・・って、あーもう。久々にツッキーの顔みたら調子狂うな。とりあえずまた明日だね!おやすみ!」
「あぁ。こっちも色々ありがとうな。俺もまだ混乱してる中成海に会えて凄く心強かったよ。おやすみ。」
成海は自分の天然パーマの効いた髪をぐしゃぐしゃとしながら早口にそう言うと皐月にすぐに背を向けた。皐月はそんな背中に手短に返答する。もっと色々言いたい事もあるが長々言うのも性にあわない。成海はそれを聞き「ん。」と相槌を打つと足早に夜道をかけていった。
爽やかな夜風の吹く宿の前の通り。遠くからはお祭り帰りの人々の声がまだ聞こえていた。
そんな音を聞きながら皐月は宿の中へと静かに戻る。