2ー7 「説得」
「ナイースアイディア!リルルン!たしかにコンテストで優勝するしか今、手はないでしょ!ね?ツッキー。」
「まあ・・・リルと成海がやってくれるならありがたいけど。」
「あの人踊れればいいって言ってたわ。ミカゲもメリも呼んでみんなで出れば可能性が広がるじゃない!」
「メリも呼んでって、あれ女の子のコンテストだろ?」
リルはコンテストについてよく理解していないようだった。踊りがメインのコンテストで男女どちらでも出れると思っているらしい。たしかに性別について言及はしていなかったが可愛ければという言葉がでるということはそういうことだろう。
「そう・・・女の子でなければ出られないの・・・」
リルは皐月と成海の説明を聞いて思慮深い顔で顎に手を当て、しばらく考える素振りを見せると視線を地面からあげ皐月をじっと見つめだした。
「ど・・・どうした。リル。」
「なればいいじゃない。」
「何に・・・」
「女の子・・・サツキもメリもなればいいのよ!」
「はあ!?」
「あっはは!リルルン面白い考えだねえ!他にもお仲間いるなら呼んでさ、みいんなで行ってみようか?」
「ちょ・・・成海!リル!お・・・女の子になるったって・・・そういう魔法があるのか?」
「うーん。簡単な変装魔法ならあるけれど多分魔法は・・・ナルミンそこら辺はどうなのかしら?」
「うん。魔法で見せかけれるのもあるっちゃあるけど幻惑魔法も変装魔法も多分ダメかな。公平性を保つためにコンテスト中は魔法が規制される。すぐにバレちゃうんだよ。・・・ただねツッキー。この世界の人達は魔法に慣れるあまり古典的な手に弱いのさ。」
「つまりシンプルに女装をしろと?」
「そおいうこと!飲み込み早くて助かるよ!」
「どっちにしろ嫌だ。」
そう見せかけるだけならまだ抵抗は少ないがガッツリ自分で手を加えるとなると別だ。抵抗ありありだ。メリは一体どんな反応をするだろうか。
「ツッキーお願いっ!どんな手段を使ってもミウミウを助けたいんだ。可能性があるものは全てやっておきたいんだよ。」
成海が泣きそうな顔で懇願する。
「う、・・・はぁー、分かった・・・ただクオリティは保証しないからな。」
皐月は少し考えたあと仕方なしと顔を赤らめ目をそらして渋々そう答える。
「本当!?サツキ!そうと決まればメリとミカゲを連れてきましょう!二人ともここで待っててちょうだい!」
「やっぱツッキーは優しいなあ。ありがとうね。あ、リルルンいってらっしゃーい。」
成海は皐月の頼まれたら弱い性格を熟知していた。それに友のピンチを見逃すなんて出来ない性分でもある。答えは・・・ひとつしかないだろう。
リルは皐月の返答を聞くとすぐに飛び上がって人混みの中へと駆け出していった。
この中からあの二人を見つけ出せるのだろうか。
「・・・ねえ。ツッキー。私たちこの2年間色々あったんだあ。」
リルの背中を見送りながら手を振っていた成海はスっと手を降ろし、そう零した。皐月はチラリと横目で成海を見ると、そうか。とだけ声をかける。
「もう!ツッキー何があったんだー!とか聞いてよね。」
「お前が話したい気分なら話して貰いたいけど。深く聞いてもいいのか?」
「そりゃ・・・まだ色々ありすぎて話す内容も多分ぐちゃぐちゃだけど。少しは話したい・・・気分かな。」
「聞くよ。」
大学では1度も見たことがなかった元気がなさそうな成海に少し戸惑いつつ皐月は話を聞くことにした。成海はふうとため息をつくとにっこり笑い、いつもの調子で話し始めた。
「2年前、1番はじめに私がこの街についたんだ。気づいたらこの街の広場に倒れてて。周りの人に大丈夫かー!って叩き起こされたの。その時は本当に状況が理解出来なくてさ。しばらく混乱してたよ。それで・・・いや、そうしたらね、この街の宿屋のおばちゃんが良くしてくれてね。混乱してた私を慰めてくれたり暫く屋根を貸してくれたり、ご飯までご馳走してくれて。まあ、その後はとりあえず自分の状況を把握するために色々話し聞いて歩いたりしてそんでなんやかんやで仕事をもらったり出来て過ごしているよ。」
「そうか。大変だったけど恵まれた部分もあったんだな。だけど、成海・・・お前自分の辛かった部分省いて話してるだろ?話聞いていいんじゃなかったのか?」
「うーん・・・あはは。話したい気分なんだけどさ、やっぱり弱いとこ見せるのは恥ずかしくて。ご明察通り実は結構危ないことも、成海ちゃん泣いちゃうーってこともあるにはあったけどお。やーっぱ弱いとこがっつりさらけ出すのも私らしくないじゃん?それに・・・ミウミウやアッキーの方が私なんかより大変だったしね。」
「2人はどうし・・・」
「サツキ!ナルミン!2人を連れてきたわよ。」
成海はふざけて笑いながらそう話し、最後に美雨や有紀のことについて言及した。皐月が2人のことについて詳しく聞こうとした時、少し遠くの方からリルが手を振って叫んびながら走ってきた。その後にはメリとミカゲが続いている。
「おい。サツキ。ちゃんと姉ちゃんの事見とけよ。広場の真ん中で俺らの名前叫んでるから恥ずかしいし何事かとおもったぞ。」
「サツキさん、リルちゃん一体どうしたんですか〜?」
メリが呆れ顔で皐月のほうをみてくる。リルの2人を探す方法はシンプルに名前を大声で叫ぶことだったらしい。たしかに弟からしたら姉が広場で自分の名前を叫び散らしていたら恥ずかしい事この上ない。
ただ、皐月も流石にそこまでリルを監督することは不可能だ。むしろ身内にやっていただきたい。それにしても、どうやらリルは2人に事情を話さずに連れてきたらしい。
「ツッキーとリルルンのお仲間さん?はじめましてー!ツッキーと同郷の友達。ナルミンです!」
「わわ。気づかなくてすみません〜。貴方がサツキさんのお友達なんですね〜。私はミカゲと申します。よろしくお願いしますね〜。」
「リル・・・ルン?あ、姉ちゃんの事か。俺はそこの姉ちゃんの弟のメリ。サツキの友達よろしくな。」
成海は2人に自ら進み出て名乗るとぺこりと一礼した。相変わらず初対面の人にも物怖じしない態度だ。ミカゲは成海の挨拶に慌てて謝りながらペコペコと挨拶を返した。
メリは成海のリルにつけたあだ名に一瞬疑問符を浮かべながらすぐに納得し自己紹介をする。成海は2人の挨拶を聞いてふむふむと顎に手を当てた。
「ミカっちとメリリーか!よろしくね!」
「ミカっち・・・?」
「メリリー?」
「ナルミンは友達に愛称をつけるのが好きらしいわよ。」
成海のあだ名付けに先程のリルと似た反応を示す2人に横からリルが声をかける。
「ほえ〜そうなんですね〜。愛称なんて照れちゃいます〜ありがとうございます〜。」
「愛称・・・か。」
嬉しそうにするミカゲに反してメリが微妙な顔をして成海を見る。あまり気に食わなかったのだろうか。
成海はそんなメリの態度もあまり気にせず2人の名前を呼んで話を続ける。
「それでね。いきなりで悪いんだけど2人にはやってもらいたいことがあるんだ。」
「そうなの。急遽色々な事情がありまして、やって欲しいことがあるわ。ちなみにメリに拒否権はないからね?」
「はあ!?内容によってはもちろん拒否させてもらうからな!」
有無を言わさぬリルの態度にメリが怒りを顕にする。
「コンテストに出てもらいたいの。踊りと可愛さを競うらしいわよ。優勝すると・・・なんやかんやで魔王城への道が開けるわ。」
「なんやかんやって・・・ていうか姉ちゃん目立っていいのかよ。」
リルのざっくばらんな説明にメリは一瞬呆れるとその後ヒソヒソと何かリルの耳元で話し出した。
「問題ないわ。みんな変装するんだから。」
「そうだ。言い忘れてたけどあくまで仮面祭だからね。このコンテストも仮面を付けて出るってわけさ。」
メリの耳打ちに対しリルは普通の声で返すメリが何をリルに聞いたのかはわからないが必要事項として成海がそれを付け足した。
「なるほど。それなら抵抗も少しは減る・・・か?」
皐月の感覚はいよいよ麻痺してきた。
「端的に言うとみんなで女の子として着飾ってあのステージで踊って可愛くアピールして優勝しましょうってこと。」
リルがウィンクをしてメリとミカゲに改めて告げる。
「・・・女の子として?女の子のコンテストなら俺もサツキもでなくていいんじゃんか!」
「二人とも女の子になって出てもらうの!サツキも快諾してくれたわ!」
「快諾はしてない!」
リルの言い分に皐月は訂正を加える。
「嫌だ!ぜーったい!嫌だからな!」
メリは暫くごね続けたがリルに強引に説き伏せられコンテストへの参加が否応なしに決まった。