2ー6 「祭りの前に」
「俺はおじちゃんを悪いやつから助けたぜ。」
「私は個人的な捜し物で図書館に行きました〜。」
「私達はサツキの同郷の人と会ったわ。」
宿に全員が集まるとひとまずそれぞれの活動報告を行った。旅に役立つ情報を聞いて歩いていたものはまだ1人もいない。
「んんっ。まぁ、まだ夕刻前だからこの街について各々知れて良かったわね。私達はこれからサツキの知り合いの情報屋さんのところに行くのだけど2人はどうするのかしら?」
リルが咳払いして気まずそうにそういうと他の面々も同様に苦笑いする。街についたばかりなので仕方がないといった様子だ。
リル達の旅路は急ぐものではないのだろうか、皐月に口が出せたものでは無いが常々疑問に思ってはいる。
「私は夕刻から始まる広場の仮面祭の方に情報集めに行こうと思うのですが〜。」
「あ、じゃあ俺もミカゲさんと仮面祭の方行こうかな。おじちゃんから色々話聞いて行ってみたいし。勿論情報集めのために!」
ミカゲが軽く手を挙げてそう言うとメリも身を乗り出しそれに乗っかった。リルのムッとした視線を感じ遊びに行く訳ではないことを強調する。
「それなら2人にはそっちの方で情報収集してもらいましょう。私はサツキと少し話を聞いてその後そちらに向かうわね。じゃあ話がまとまった所で一旦解散よ。」
おおまかに行く場所を伝え合うとすぐに解散し全員がそれぞれの場所へ行く準備を始める。皐月とリルは待ち合わせの時間までは余裕があるので仮面祭会場の方を少し見て回ることにした。まだ始まってはいないがそこそこ人がいるらしい。何か話が聞けるかもしれない。
仮面祭の会場は宿から10分程の場所にあった。開けた広場で前方には大きなステージが組み立てられている。夜になり祭りが始まれば様々な人や団体があの上でショーをするのだという。
「大きい広場ね。まだ始まる前なのに人がこんなに沢山。おかしな格好してる人たちもいるのね。これだけいれば有益な情報でも手に入るかしら。」
「そうだな。でも、昼間っからベロンベロンに酔っ払ってる人達がまともな情報くれるかな。」
「ちょいとちょいとそこのお嬢さん。」
リルが手近な人に声をかけようとしていると後ろから1人の男が声をかけてきた。
「お嬢さん今夜のコンテストに飛び入り参加してみない?」
男性はリルをみてヘラヘラと笑いながらそう言った。
「コンテスト?」
「そーそー街の可愛い子達がいっぱい出る今日のコンテスト。優勝すると領主様の開く仮面舞踏会に出られるよ。」
「ふーん。でもあまり興味ないわね。私達は魔王城の場所を探して、先を急いでるし。」
ようはこっちの世界のミスコンのようだ。しかしリルは興味なさげに肩に置かれたその男の手を払い除ける。
「待った待った!お願いだよ!コンテストに出る人数が少なくて・・・」
リルがそれじゃあとその場を離れようとすると男は焦り、そうだそうだと思い出したように手を叩いた。
「そういえばこの街の領主様は魔族と交流があるとかなんとか・・・確かこの街を魔族が狙わないのもそのおかげだとかって話だけど・・・まあ、あくまで噂だけども。領主様なら何か知ってるかも〜。なんて・・・」
「その話詳しく聞かせてちょうだい!」
リルは男がそう言うとすごい勢いでその話に食いついた。男が後ずさりするほど詰め寄りもっと詳しくと急き立てる。
「あ、その、私も詳しい話を知ってる訳じゃなくて。たださっき言った通りコンテストで優勝して領主様に会えたら魔王城?でしたっけそこについても聞けるかな〜って話を・・・した・・・だけ」
リルが男の顔をじっとみながら話す度詰め寄るので男はたじたじになり少しずつ後ずさりをしながら話している。
「そう。で、どうやったらコンテストに出れるのかしら?そしてどうやったら優勝なの?」
リルの食いつきが半端ない。皐月は流石に近すぎるとリルの肩を掴み制止する。
「出場は私に申し付けて貰えば・・・優勝は可愛くて上手に踊れれば・・・かな。」
「分かったわじゃあ申し込み・・・あ、ちょっと待って。もう少しあとでも大丈夫かしら?」
「まだ大丈夫だけど8時開始だからその少し前くらいまでにはしてくれると助かるよ。私はこの広場にはずっといるからね。見当たらなくてもそこら辺の人に主催のヴァレリオはどこって聞いてくれたらおっけーさ。」
「分かったわ。じゃあまたあとで。」
ヴァレリオはリルがそう言い、身を翻すと額の汗を拭いふぅとため息をついていた。
それにしてもリルの猪突猛進具合には肝を冷やすことが多々ある。
「ふふ。サツキ、それにしてもいい事聞いたわね。物見ついでに可能性あればと寄っただけの広場だったけど大収穫じゃない。」
「そうだな。でも8時からは成海と・・・」
「あ・・・そうだったわね。私つい興奮して何も考えていなかったわ。」
「まあ成海の方は俺だけでちょっと会ってくるからリルの方はーー」
「ああああ!よかったあ!ツッキーとリルルンいたあ!」
噂をすればなんとやら。今しがた話していた成海本人が勢いよく登場し皐月とリルを指さし盛大に叫び散らした。
「成海!・・・いきなりどうした。」
「ねえ、ツッキー大変なんだよ。急用なんだ。だから街中思い当たる所探してさあ・・・ふう。ごめん。落ち着くね・・・。あのね、美雨が大変なんだ。」
成海は皐月とリルを探し回るため走り回っていたようで息を上がらせ肩を上下させていた。一旦自分の胸を叩き深呼吸をして呼吸を落ち着かせると真剣な眼差しで要件を伝えてきた。
「!そうだ。美雨もいるといっていたよな。大変ってどういう事だ。」
「私としたことが、ライバルの情報屋に邪魔されて早く情報を仕入れられなかったんだ・・・美雨に届いたんだよ。仮面舞踏会の招待状がね。」
「?いいじゃないか舞踏会の招待状が届くなんて。何か問題があるのか?」
「一般的にみたらないけどさあ。むしろ羨ましがられるだろうね。普通はね。なにから言ったらいいかなあ。」
成海はそう言うとしばらく悩んでまず・・・と急いで整理した話を話し出した。成海の話は纏めるとこうだった。毎年この街の領主の開く仮面舞踏会には街の美しい娘が何人か身分に関わらず招待されるという。招待されるのは美しい証なので選ばれたものは羨望の眼差しを送られる。招待状を持つものは仮面舞踏会でも特別な存在として一目置かれ、個別で領主に会う事を許可されるらしい。舞踏会が終わった後には特別な品物を沢山もらい望めば階級等も与えられるとのことだ。
「で、それの何が問題なのかしら?私的には領主に個別で会えるだなんて羨ましい限りだけど。」
リルは腕を組み難しい顔で成海を見つめる。いいじゃない、羨ましいと成海が話している間も言っていた。
「うーん。こっから先は不確定情報なんだけどさ毎回舞踏会から帰ってきた子達の様子がなんとなくおかしいんだ。」
「その招待された人達だけか?」
「そう。なんというか覇気がないっていうかボーッとしてるって言うか。静かでお淑やかと言えばまあそうなのかなって感じだけど。とにかく様子がおかしいらしいんだ。」
「なるほど。本当に不確定だな。でも、少しでも美雨が危険な可能性があるなら助けるべきだ。成海、お前もそのつもりで急いできたんだろ?」
「そうなんだよ美雨を助けなきゃ!でもさ入れないんだ・・・仮面舞踏会には。招待された人以外は。」
「美雨がその会場に行く前にどうにか出来ないか?」
「それが・・・普通は当日に行くはずなのに美雨の家に行ったらもう会場に行ったと言うんだよお。なんで今回に限って・・・ああもう私が不甲斐ないばかりに悔しいよ!」
「あるじゃない。助ける方法。目の前に転がっているチャンスが。」
成海は心底悔しそうに自分の腕をぎゅっと掴んだ。そんな成海にリルはニヤリと不敵に笑ってそう言った。
「出ましょうみんなでコンテスト!そして優勝をなんとしてでも勝ち取るわ!」