1ー1「姫様の決意」
「どういうことなのよーー!?」
メイダリア王国の中心にそびえたつメイダリア城、その中では1人の少女が声を張り上げてご立腹中であった。
幼さの残る高めの声が城の玄関ホールに響き渡る。 薄紫色の髪を二つに縛った容姿も更に幼さを増長してみせている。
少女の手には1枚の紙がぐちゃぐちゃにされた状態で握りしめられていた。
「どうされたのですか?リル様、姫君がこのような所で大きな声をあげてはいけませんといつも・・・あら、それは。」
髪を律儀に切りそろえた上品な顔立ちのメイドは宥めるように姫の背中に手を置き、姫の手に握られた手紙をそっと引き抜いた。
「どうもこうもないのよ!ラーチェ、見てよそれ!」
姫は手紙を指さしてワナワナと震えている。姫の世話係として長年務めてきたラーチェにはわかる、これはかなりの厄介事だ。心して見なければならないと。
ため息を一つして手紙を広げてみると、そこには手短にこう書いてあった。
「勇者一行は我々が捕らえた。リルエスタ・メイダリアをこちらに渡せば解放しよう。ーー魔王軍」
ラーチェの眉間に思わずシワが寄る。これは想像以上に面倒くさいことになった。そもそも勇者様はある手紙を受けて今回魔王城へと向かったのだ。その手紙はーー
『近々魔王軍全勢力をもって御王国の姫君であるリルエスタ・メイダリアを頂戴しにまいる。』
というものだった。それに先立って王国に近づく前に魔王を討とうと勇者様は国中から実力者達を集め万全なパーティを組んで旅立ったのだった。
つまり王国で最強と謳われた人物とその仲間が魔王城へと赴き、そして負けたというわけだ。
勇者様御一行が敗れたのならばこの国に魔王軍に勝てる戦力はもうない。彼らは国の持ち得る戦力を超える力をお持ちであったのだから。
勇者様は姫の婚約者でもあった。王国は姫を差し出す気などさらさらないだろうから勇者の命は・・・ないに等しいだろう。姫も相当こたえているにちがいない。
「・・・姫様これは、とにかく陛下にお見せしましょう!・・・?姫様、大丈夫ですか?」
下を向いて肩を震わす姫にラーチェは優しく声をかける。
「静かに!ラーチェ、すぐ発つわよ。」
「え?姫様なん・・・」
「すぐに魔王城に出発するの!私が!」
突然の宣言にラーチェは固まる。この方は何を言っているんだ。差し出せと言われている方が自分からノコノコ出向くと、そうおっしゃっている。
「いけません姫様!そんなの許せるわけないでしょう!?」
本気でダメだ。この方なら魔王城につく前に行き倒れる可能性の方が高いし、なんせひとりじゃ何も出来ない。小さい頃から見てるから知ってる。わがままで自分勝手、楽観的・・・それにお人好しだから道中絶対騙されるに決まってる。
「ダメです。姫様、きっと陛下がなんとかしてくれます。お願いですからやめてください。」
知ってる。小さい頃から見てるから。それでもこの方はそうと決めたら曲げないことを。でも、言わずにはいられない。
「ラーチェ・・・ありがとう心配してくれて。でもね、お父様に相談すればきっと勇者様は見殺しにされる。私も閉じ込められて何も出来なくなるわ。助けられるのは私しかいないの。それに、今しかないの!」
姫様の決意は固い。それを止める権利は私には無い。止めたくても止められない。ラーチェは深く、深くため息をついた。
「姫様。決意は揺らがないようで。これ以上私には引き止めることは出来ません。でも、万全の準備を整えて行く事を約束してください。」
姫は分かってたとばかりに二カッと笑った。
「そうね、準備は大事だもの。さて、それじゃあ早速準備に取り掛かりましょうか!」
「ええ、お手伝いいたしますね。」
2人は準備に取り掛かるため庭園へと足を向けた。
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リルエスタ・メイダリア(18)
メイダリア王国第一王女。愛称はリル。その性格はラーチェ曰くワガママで自分勝手、楽観的しかしお人好し。(ほぼ楽観的な所から来るもの)
薄紫色の長い髪を高い所で二つに縛った少し幼い見た目。常にティアラを頭に載せてる。
ラーチェ(?)
リルのお世話係。リルにとってはお姉さんのような存在。時に厳しく時に優しく指導してくれる。黒髪を綺麗に切りそろえて凛とした上品な顔立ちの淑女。




