1ー13「臨時パーティと臨時バディの戦場」
霧と瘴気が晴れた事で森は随分と歩きやすい、普通の森へと姿を変えた。もう「陰りの森」なんてネーミングは似合わない。
さて、皐月の身に起きた現象だが結局、とりあえず「すごい」の一言で片付けられてしまった。森を抜けようと歩を進める中その事について考えているのは皐月くらいだろう。嫌でも頭からその疑問は離れない。
腑に落ちない表情で歩く皐月に対し他3人は清々しい顔をして歩いていた。
「サツキまだ悩んでるの?その内きっと分かるから。今悩んだって仕方ないわ。」
「とはいっても突然のことで理解出来ないんだよ。何が起こったのか。考えたくもなるよ。」
首を傾げて歩く皐月に振り返りながらリルが声をかける。
「手を使わないで体全体から魔法出せるなんて凄いじゃん!別に隠すことなかったのにさ」
後ろからメリが会話に参加してきた。森に入った時と違い随分とお気楽そうに歩いている。
「隠してた訳じゃない。魔法が使いこなせてるなら、あんな無差別攻撃しないよ。」
「それはごもっともですね〜。あの流れで私達に攻撃してきたなら魔族の仲間かな〜って思われちゃいますよ。サツキさんがもし私達を騙していたとしてもそんな馬鹿なことはしませんよね〜。」
「・・・あぁ」
先頭を歩いていたミカゲが少し顔をこちらに向けながら柔らかい笑顔を作り、ね?と同意を求めてきた。
正直少し棘のある言い方のように感じた。もしかしたらミカゲは先のことで疑っているのかもしれない。
「なんて、すみません。少し失礼でしたね〜。私もみなさんの信頼を得ているとは言えない状況なので、少し神経質になっていました〜。」
先程の少々冷たい表情とは一変、すまなさそうにはにかんでミカゲは前をむく。皐月が初めに感じていた不安を彼女も感じていたのだろう。助けて貰ったとは言えお互い素性のわからないもの同士、手放しで信用は出来ない。
「大丈夫よ。サツキもミカゲももうとっくに仲間だもの。信頼してるわ!」
その様子を見ていたリルはミカゲを追い越し一行の一番前に出ると腰に手を当て片方の手をこちらに向けて差し出し微笑む。
「リルちゃんは少し人を警戒した方がいいですよ〜?」
「ほんとにな。」
「あら私、人を見極める力は持ってるつもりよ?」
「どうですかね〜?」
リルはおちょくるミカゲの頬をほんとだって!と軽くつねる。
「ひゃめてくだひゃい〜!」
どこか嬉しそうにそう言うとミカゲもまたリルの頬を優しくつねる。
年齢にしては少し幼い行動かもしれないが普通の女の子らしい無邪気な姿に皐月は少しほっとした。
「とにかく!暫くはこの4人で一蓮托生、旅を続けましょう。次の街レブリックへ向けて臨時パーティの結成ね!」
リルはミカゲとのわちゃわちゃをやめて改めて全員に向き直ると天に人差し指を向け、盛大に宣言する。3人は顔を見合わせ笑い合うと元気に片腕を空に掲げ「おー!」と気合を入れた。
少しの困難を抜けて次の土地へと臨時パーティは足並みを揃え旅を始める。
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ーー時を少し遡りリルとメリが旅に出た当日、メイダリア王国の城では誰もがてんやわんやの大騒ぎ。失踪した姫と王子を探していた。
国王が気づいたのは夕食時、リルとメリがいつまで経っても現れなかった時だ。
召使いを総動員してメリとリルを捜索させたが勿論城内で見つかる訳がない。
城中に緊張が走る。
勇者が捕まった報せはリルが自分の所で止めたことによりまだ国王は知らないのだ。
「落ち着いて下さい。あの子達が悪戯に外に出るのはよくあることではないですか。それが長引いただけでしょう。」
「しかしだな、夕食に多少遅れてくることはあっても来ないことは1度もなかったのだぞ!?」
城の中心部玉座の間では国王と王妃が落ち着かない様子で向き合っていた。
「・・・そんなに心配ならば何故二人を別棟に隔離するのです!?私はあれだけ反対したのに。貴方はリルの体質が怖いのでしょう!!それに、成人の歳になっても王国の民にお披露目会をしなかった!貴方はリルをいない者にするのですか!?」
「そんなことは・・・それはだな・・・っ!」
王妃が涙目で王を責め立てる。それに一瞬たじろいだ王は言葉をつまらせながら反論しようと声を上げた。
「お父様!夕食の時間に遅れて申し訳ありません!」
玉座の間の入り口に、走ってきたのか息の上がった薄紫色の髪を揺らす姫が現れた。
そう、今しがた捜索されていたリルエスタ姫だ。
「リル!一体どこに行っていたの!皆心配して貴方を探していたのよ!」
「お父様、お母様、ごめんなさい。えーと、今日は城下町でお祭りがあったからつい夢中になってしまって。」
「また城下町に出たのか!!お前は自分の立場を考えろと何度も言ったであろう!」
国王と王妃、父と母はひょっこりと現れた娘に安心を覚えつつもその後先考えない行動を叱りつける。
「まぁ、いいわ。リル、これからは気をつけなさい。所でメリは?」
「は、はい!あ・・・メリさ、メリはえーと。お腹が痛いから来ないわ!!」
「あら、そうなの。あとで専属の医師をよんでおかないとね。」
リル姫は母の質問にしどろもどろになりながらもなんとか答える。
玉座の間の入り口ではその様子をラーチェが胸に手を当てドキドキしながら見守っていた。
「お母様!私ちょっと、あの、私も具合が悪いので本日はお部屋で食事を!」
「そのようね、顔色が悪いわ。ゆっくり休みなさい。」
「ありがとうございます、王妃・・・お母様。では」
リル姫は冷や汗を流し少し慌てた様子で会話を離脱する。
リルの体調を案じながら母は1歩下がり上品に手を振った。
リルは玉座の間を出て廊下を少し走り気味に移動すると近くの部屋に入り一息ついた。
「お疲れ様です。国王様にも王妃様にもバレてはいなさそうですね。やはりこのくらいの時間が限界ですか?」
「そうね。はぁ、ふぅ。これが私の限界ですわ。」
床に汗を落としてへたり込むのはリル姫・・・ではなく別棟副メイド長のレイベル。
「魔法は得意ですけれど、声も姿も変え続けるのは中々骨が折れますわね。」
「ここまで変化魔法が使えるのはうちではレイベルくらいですから。助かりましたよ。これで暫くは持つでしょう。お2人は別棟には滅多にいらっしゃいませんから・・・」
汗を拭い、立ち上がるとレイベルは腕を組んでラーチェが差し出すタオルを手に取る。
「ありがとう。そうですわね・・・でもいつまでも体調不良ではいられないし長引けば流石にお2人も様子を見に来られるでしょう、いつかバレますわ。」
「それまでに色々なんとかしないといけません。レイベル、暫くは頼みますよ。私は執事長と話をしてきます。」
ラーチェもレイベルに合わせてしゃがみこんでいた体制から立ち上がるとスカートの裾をパッと払い姿勢を正す。
「今更ですけどリル様もメリ様もとんでもないことをしますわ。本当に。まぁこれも・・・執事長、フェルミスタス様の計画通り・・・なのでしょうけど。」
「そうですね。孫の、フレアスト様・・・勇者様が想定外の事態に陥った時から、彼はもう次の手に出ていますから。さぁ私も準備に向かいます。」
「ええ。健闘を祈りますわ。」
「互いに。」
別棟メイド長と副メイド長は目を合わせふっと笑うと顔より高く上げた掌を互いにタイミング良く叩き合わせ、それぞれの戦場へと向かったーーー