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花の大精霊編22 妹

 人の世は収穫の季節だ。

 少年姿の人外は、人々がいつもの年と同じように、歌を歌いながら畑に繰り出す様子を見守っている。

 ふと、彼はなんとはなしに自分の隣を見る。

 そこは空いていた。誰も座ることはないのに。


 自嘲するかのような多少引きつった笑みを浮かべ、少年は人々の営みに視線を戻す。

 彼が、彼女が、価値があると思い、それぞれ別の形で尊ぶことにした人という存在の輪を見守り続ける。


 生きる音を耳にしたまま、目を閉じた。


 彼の擬似的な脳という器官で、擬似的な思考が紡がれる。




 ――ぼくは。

 ぼくという存在は、ぼくの存在に意義を求めない。

 空は無。空は無限。どこにでもいて、どこにもいない。偶然生み出されて、きっとまたいつか偶然いなくなる。それがぼくでありそれが事実、なんの疑問を覚えたこともない。


 だけど、ロマンチストな君に合わせるなら……少し、おかしな妄想にふけってみるのなら。

 君は彼と会うために、君の力を持って生まれてきて。

 そしてぼくは、君のためにこの属性を授かった……なんて考えはどうだろう。


 ぼく個人はそんな感傷にふけったりはしない。君のくだらない考えを、馬鹿だなあっていつも通り笑ってやる。大精霊の力はそんなことのためにあるものじゃない。大精霊という機構はそんなものは必要としていない。


 ただ、悪くない。そういう解釈も、悪くはない。馬鹿らしいとは思うけど――ぼくは君が好きと言ったものを否定しない。

 そして否定したくない、と考える。この気持ちがきっと、ぼくの一つの個としての意識なのだと思う。


 でも君は知らない。永遠に知らない。ぼくが君の隣にいて、君がぼくの隣にいた、その意味を。そこにどれほどの価値があったのかを。ぼくがどれほどそれを、かけがえがないと思っていたのかを。


 それが君への罰だ。そしてぼくへの罰でもある。

 空の大精霊は無と遍在を司る。それなのにほんの一瞬でも何かに心を傾けた、ぼく自身への戒めとして。


 もう二度と心を動かされたりはしない。


 永遠にさようなら。


 この真実はぼくだけのものだ。


 ――この世でたった一人の、ぼくのシュヴェスター




 彼はエメラルド色の目を開けた。

 微笑みを浮かべた。

 もう、おかしな頬の力みはなくなっていた。

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