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花の大精霊編1 君を手離す物語

 かつて人の世が混沌としていた時、一人の、あるいは一つの大精霊がこの世に吐き出された。

 遍在と無の主。全にして唯一。最も身近で遠い概念。


 便宜上彼と称することになるその存在の生まれた時代、炎は熱を持たず、水は潤いをもたらさず、風は吹かず、土は穢れ、光は人を照らす希望ではなく、闇は眠りのための帳でなくなっていた。

 終焉を求める声が、あるいは虚無のため息が、平等な死神を作り出したのだろう。


 彼は無意識の集合に求められるまま、その力をもって、最低限のもの以外をすべて消し去ってしまった。


 世界を大分すっきりさせてから彼が待ち続けていると、弱り切っていた六つの属性はまた徐々に力を取り戻し、人の群れもまた再び世に広がっていった。

 無責任な彼らは一番辛かった時代の事など概ね忘れてしまって幸福を謳歌していたが、本能はきちんと一度終わった世界と終わらせた存在のことを認識していたらしい。


 いつしか七番目の大精霊はからと呼ばれ、畏怖されるようになっていた。

 触れたもの全てを無に帰す力を持つ人ならざるもの。

 彼は平和な時代にいささか疎ましく思われつつ、相変わらず気まぐれに世の中を渡って漂い続けていた。

 自分が邪魔者になり、もはやかつてのように何もなくさず済むことを、人知れず誰よりも祝福しながら。



 時代はさらに下り、また新たな変化がやってきた。

 枯れ果てた生命が力を取り戻し、人がかつての繁栄を思い出す頃、瑞々しい息吹の螺旋から再び新たな大精霊が生まれた。


 祈りと願いを背負った、廻り巡る命を司る八番目の大精霊。

 脈動する擬似的な魂が、人の真似事をして言の葉を手繰れるようになる頃、その存在は花の大精霊と呼ばれるようになっていた。


 無邪気な少女に近い性質を持っていたそれは、便宜上彼女と称される事が多い。

 彼女が歩く場所には新たな命が巡り、触れた者はたちまち力で満ちあふれた。

 人は彼女を好いた。精霊達もだ。素直で明るい気質の彼女を、他者に祝福を与える彼女を、誰もが愛し、近づきたがった。


 それなのに、そんな彼女がいつしか強い興味を向けるようになったのは、よりにもよって嫌われ者のからの大精霊だったのだ。



 遙か彼方の記憶。忘れてしまえばなくなる思い出。うつろいかげろう幻のような夢うつつ。



 ――これは、大切な人のために手を離した物語。

7月3日にいよいよ書籍が出版されます!

Web版から変えた所があったり挿絵がとにかく美麗だったりと見所満載ですので、書店で見かけられた際は、是非お手に取っていただけますと幸いです。

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