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手紙

本編終了直後。

エピローグ没案供養。

 親愛なるイングリッドへ



 お久しぶりです。フローラです。


 あの、本当に、何から話したらいいものか、わからないのだけど……。


 今、わたしはランチェに住んでいます。

 魔法使い様のお手伝いとして、住み込みで主に家事を担当しているの。

 他にも、お仕事を少しだけ手伝ったり……。

 とにかく、この一月半で、いろいろなことが変わりました。


 近いうちに、一度そちらに帰ります。

 それから改めて、アルツト家の皆様にご挨拶をしたいのです。

 魔法使い様はすごいのよ、わたしを町まで瞬間移動させてくれるんですって。


 ……魔法の話題は、あなたは嫌いだったかしら。


 嫌いと言えば、厄介者がようやくいなくなったと思ったら戻ってきて、皆に嫌な顔をされるかもしれないから、一つだけ先に言っておきます。

 わたしはこれからも、ランチェで暮らしていくつもりです。アルツト家には戻りません。


 わたしはあの家では、ずっといらない子のままだろうから。


 でも、居場所がまったくなかったというわけでもないかしら。夜風をしのいで眠ることのできる場所と、食べるものを与え続けてくれたこと、育ててくれたこと――わたしの保護者で、責任者であってくれたこと。それには本当に、心から感謝しています。


 特に家事一式は、厳しく仕込まれていて本当に良かったと思うの。あなたに散々注文をもらったことも、助かっているわ。今、とても役に立っているから。


 叔父様と叔母様にも、あなたにも。きちんと言っておきたくて。

 なんだか、慌ただしく出てきてしまって……あれきりでは、気持ちの整理が、つかないというか。



 ねえ、イングリッド。

 わたし、ずっとあなたのことを、ただ嫌な人だと思っていました。

 あなたはわたしのことを嫌いで、見下しているから意地悪をするのだと思っていました。


 けれど、何をしても駄目で、何をしようとも思えなかったアルツト家を離れて、今まであったことのないいろいろな経験をして、少し、思ったのです。


 本当にあなたがわたしのことを嫌いなだけだったなら、あなたはわたしのことを無視したのではないか、無視できたのではないか、と。たとえば、叔父様や、使用人達の大勢のように。


 正直に言うと、あなたとの思い出は、わたしにとってけして気持ちのいいものばかりではありません。辛い事の方が多いかもしれないわ。

 あなたがわたしを傷つけたこと、特に目のことを言ったり、落とし子と呼んだことは……怒っているわ。許せないかもしれないぐらいに。


 ……でも、でもね。もしかしたら、あなたはわたしが思っていたより、ずっと親切な人だったのではないかと、今なら考えられるようになってきているの。

 どんな形にしろ、あなただけはわたしに関心を失わないままだった。

 その意味を、わたしが理解できていなかった、だけで。


 叔母様は、わたしのことを嫌っている。たぶんこの先も変わらないでしょう。わたしがあの人の大切な兄を奪った、魔女の娘だから。

 叔父様は、わたしのことに無関心なままでしょう。わたしが彼にとって、役立つような娘じゃないから。


 イングリッド……あなたは、わたしのことをどう思っているの?



 わたし、あなたと話がしたい。アルツト家とわたしのけじめをつけたいのもあるけど、あなたの言葉が直接聞きたくて、それで帰ろうと思ったの。


 わたしは少しは変われたつもりでいるけれど、またあなたを怒らせるかもしれない。あなたはまた、わたしを泣かせるかもしれない。

 でも、それでいい。今度こそ、ちゃんと……あなたの言葉を聞きたい。あなたのことを知りたい。


 それで、もし、あなたがいいと思ってくれるなら、わたしの話も聞いてほしいの。


 たくさん、たくさん、喋ることがある。

 どうしてわたしがランチェに行くことになったのか、どういう人と暮らしているのか、どうやってわたしの考えが変わったのか、この一月半、何があったのか……。


 本当に、話したいことは尽きないから。



 わたしはまだ、わたし自身を肯定しきることは、難しいけれど。

 わたしを肯定してくれる人のことは、否定したくないと、大切にしたいと、思うようになりました。


 だから、あなたとも話がしたい。


 わたしの思い込みで、あなたが本当は、わたしをただ嫌っているだけなのだとしても、あなたの口から、ちゃんとそれを確かめたい。

 そうしたらまた、新しい一歩を踏み出せる気がする。



 ……これって、わたしのわがままなのかしら。

 でも、わたし、今までちっともそういうことを言わなかったと思うから……少しだけ、許してください。



 何より、話し合う言葉があるのに使わないなんて、もったいないもの。

 それを教えてくれた、わたしの誰より大切な人と一緒に、あなたに会いに行きます。


 最後になりますが、くれぐれもお身体には気をつけて。



 フローラ・ニンフェ



 *  *  *



 親愛なるフローラへ



 のろま! ばか! このわからずや!

 どれだけ言ってやりたいことがあると思っているの! こんなちっぽけな紙切れで足りるわけないでしょう!?

 早く帰ってきなさいよね!



 イングリッド・アルツト

本編に尺的な都合やなんとなくタイミングを逸して収まりきらなかった未収録シーン等を、番外編として付け足していきます。

基本的に一話が短いですが、おまけやエクストラのようなものなので、気軽に楽しんでいただければ幸いです。


かなり時系列がバラバラになると思うので、それぞれの前書きに軽く注釈をつけさせていただきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公の従姉妹の イングリッド、不器用だな。 でも、あなたのおかげで 主人公が逃げ出せたんだよね。
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