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5話 つまりはアーサーと一緒に地道な世界平和を(下)

 アーサーの異常性は以下のストーリーから明らかだった。


 アーサーの世界(以後、世界(ア)と表記する)では、アーサー誕生以前から魔王軍の侵攻によって人類絶滅の危機にあった。度重なる魔王討伐精鋭隊の派遣もすべて失敗し、代償として大きく戦力を削がれてしまった。もはや抵抗すらできない状態だった。


 明らかに魔王軍の勝利だった。この結果が覆ることなど、まずあり得なかった。それだけ戦力に差があった。


 ここでアーサー登場である。

 ボロボロの人類に舞い降りた英雄。誰も手が付けられぬ圧倒的な力を持つ少年。

 彼は当たり前のように魔王軍を蹂躙していった。


 人々は形勢逆転に歓喜し、勝利を確信した。実際彼は魔王軍をあと一歩まで追い詰めた(あと一歩のところで死んだけど)。毒キノコの誤飲というイレギュラーさえなければ、英雄が魔王を討ち、人類は平和になりましたとさ、ちゃんちゃん、という王道展開のお話。


 でも待って。これって、アーサーって、


「まるで魔王軍を滅ぼし人類を救うための存在」


 タイミング的にも、桁違いの能力からしても本来存在しえない存在。生まれるはずのない人外の人間。

 どうして彼が生まれたの? 奇跡? そんな陳腐な一言で片づけていいの?


「やつは世界(ア)が放ったソルジャーなのだ」


 ウイシュヌ様の言葉は的を射ていた。


 簡潔に申すと、アーサーは世界(ア)によって作り出された人類救済措置なのだ。人類の不利を悟った世界(ア)が、人類の滅亡を避けるべく送り出した無敵の英雄なのだ。

 彼の異常な戦闘能力は奇跡でも何でもない、ただただ世界(ア)によって与えられた必然の才能だったのだ。

 それ以外に説明がつかない。


「とはいえ、世界(ア)が彼に与えたのは類いまれなる戦闘能力だけ。地上に出ればいち人間。男女の交わりで命を授かり、親の下で育てられ、近所の友人と遊ぶ。力以外は他と何も変わらぬ人間。性格、思考、行動は世界(ア)の管轄外だった。だからこそ、彼はエラーというべき行動を取ってしまったのだ」

「毒キノコで死亡……」

「そう。あってはならない、敵将目前での不用意な死。魔王討伐という目的のためだけに強引に作り出した戦士が、使命を全うすることなく死んだのだ。世界(ア)は大層驚き困惑しただろう」


 見えてきた。ウイシュヌ様の考えるところが。


 アーサーは世界(ア)にとって大事な存在だった。実質世界(ア)によって生み出された、人間を守るための切り札的存在。しかし役割を果たす前に死んでしまった。

 結果、人類が再び絶滅の危機に瀕したことに世界(ア)は困っている。


 つまり、世界(ア)はアーサーの復活を望んでいるのだ。彼に役目を全うしてもらいたいのだ。

 だから我々がアーサーを生き返らせても世界(ア)は怒らないのではないか? 理の捻じ曲げにも暗黙するのではないか? ウイシュヌ様はそう言いたいのだろう。


「……でもそれはウイシュヌ様の憶測ですよね? 安易な決めつけで実行に移すと何が起こるかわかりませんよ」

 同期のもっともな反論。


「その通りだ。だから、ひとつ安全装置を付ける」

「安全装置?」

「アーサーを生き返らせてみたものの世界(ア)がこちらの思惑通りの反応を見せなかった場合、すぐに撤収する必要があるからな。同行者を派遣する」

「はえー」

「さらに、これも予想に過ぎないのだが、世界(ア)はアーサーの復活を望んでいるとは言ったが派手な活躍は望まないはずだ」

「どーゆーこと?」

「仮にもアーサーは一度死んだ身。それを天界が勝手に蘇生させて、人類を救う。正直、世界(ア)はおもしろくないだろう。天界という他の世界が世界(ア)の尻拭いをした形になるのだから。『俺の世界事情に他所者がツッコんでくるな』と不快に思ってもおかしくない」

「ほお?」

「つまり世界(ア)平和を天界の手柄にしてはならないのだよ。アーサーと天界からの同行者がこっそりと人類を導き、表面上では力なき人類がさも頑張って勝利を掴んだように見せかける必要がある。それが天界と世界(ア)との妥協点となるだろう。要は死者蘇生という大きな介入のあとは、いつも通り目立たぬ介入をしていこうということだ。それがせめてもの礼儀というものだ」


 ごちゃっとした同行人の仕事内容を同期が総括した。

「まとめると、同行者は世界(ア)に帰還したアーサーを監視し、彼の蘇生に伴う世界(ア)の変化を生で感じ取って遂次対応するとともに、陰ながら人類を安定に導く、ということですね?」

「ああ」


 はえー、その同行人とやらは大変複雑な仕事ですな。さぞかし優秀な方に任せるのでしょうな。例えば私の隣にいる赤髪のイケメン娘なんてどうでしょう。彼女はエリートですから、きっと大役も務まることでしょう。私が推薦人として尽力いたしまする。


「その役目をルウム君にやってもらおうと思う」

「むーりー」


 そりゃわかってましたよ。指名が来ることくらい。だってここは私のミス挽回の場ですもの。


 それでも下界に降りて下界の人間と一緒に世界平和を目指すって、そんな罰ゲームはイヤだ。


「拒否したら、まあわかってるね、ルウム君」

 ウイシュヌ様が愛用の大鎌をちらつかせる。


「不肖ルウム、必ずや任を全うしたいと存じまする」

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