プロローグ
キンルイ王国は闇に覆われていた。
暗黒魔王・シャグアマミ率いる魔物軍の侵攻は凄まじく、国は滅亡寸前にまで追い込まれていた。
国王は何とか現状を打破しようと名だたる勇者を魔王討伐に向かわせたが、一向に成果は出ない。
いよいよ腹をくくるべきかと誰しもが諦念を抱いた。明日にも魔物軍によって蹂躙されるのではないか。そう思うとおちおち心休めることもできなかった。
そんな絶望の王国に一つの希望が舞い降りた。
アーサーという少年である。純真の白髪に黄金の瞳、小さく細い体。弱々しくも美しい容姿であった。
彼はどこからともなく王の前に姿を見せると、「魔王刈ってきます」と言い残し魔王討伐の旅に出た。
彼はまず武器調達として、人類最古の城の地下に眠る「英雄のみが手にすることのできる伝説の剣・セイクリッドバスター」を、まるで収穫期の大根のようにずぼっと引き抜いた。その抜きっぷりは見事で、従臣の老人・ジメジが快感のあまり失禁してしまうほどであった。
武器を手に入れたら、あとはもう魔王城へと一直線。邪魔する敵はセイクリッドバスター(以下セイバス)でバッサバサ。嫌がらせをしてくる魔王幹部はセイバスの柄でぼっこぼこ。カメのように頭を抱えてうずくまる幹部に同情したジメジは「アーサー様、もう十分でしょう。これではアーサー様が悪魔に見えてしまいます」。この後三日間、ジメジはアーサーにガッツリ無視された。
彼は己が信念を邪魔するものは何人たりとも許さない冷酷な人間だった。あるいは単なるわがままボーイだった。
アーサーの快進撃は魔王に怯える人々を勇気づけた。アーサーが世界を救ってくれる。心に差し込んだ希望の光は活力となって国を照らした。
王国の復興は目前に思われた。城前の広場に金ぴかアーサー像を建設するという若干フライング気味の勝利宣言を行うまでに人々は歓喜していた。
しかしこのとき誰も気づかなかった。アーサーの心の内にひっそりと萌芽する感情を。そしてそれが人々を再び絶望の淵に追い込むことを。