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後編

全ては王と王妃、アンジェリーナ、そしてシャルロッテが仕組んだことだった。

フェルディナントの口から告げられた事実に、貴族達がどよめく。



「馬鹿な! シャルロッテが私を謀るなど!!」

クリストファー王子は反射的に隣に寄り添うシャルロッテを見やり、そして固まった。

そこにいるのは間違いなくシャルロッテのはずなのに、その姿はまるで別人のように見えた。

先程までの吹けば飛んでしまいそうな儚さは消え失せ、凛とした表情で真っ直ぐにクリストファー王子を見つめていた。



「お前は、誰だ・・・?」

震える声で尋ねるクリストファー王子に、シャルロッテはにっこりと笑って答えた。

「クリストファー様ったら、おかしなことを仰いますのね。私はシャルロッテですわ」

「そんな、だって、シャルロッテはもっと・・・」

その先は言葉にすることが出来ず、口ごもるクリストファー王子。



「こちらが私の本来の姿ですわ。申し訳ございません、クリストファー様。私、貴方を騙しておりましたの」

ふふ、と楽しそうに笑うシャルロッテに向かってクリストファー王子は悲痛な叫び声をあげる。

「シャルロッテ、何故だ! 何故、私を騙した!」



「私がシャルロッテに命じたのです。クリストファー、貴方とフェルディナントにハニートラップを仕掛けるようにと」

王妃の落ち着いた声は決して大きくはなかったが、貴族達のざわめきにかき消されることなく、はっきりとクリストファー王子の耳に届いた。

「そんな・・・、何故そのようなことを・・・」

血は繋がっていなくとも、二人の王子を実の息子のように可愛がっていた王妃にすがるような視線を向けた。



「国内の貴族達を一つに纏めあげ、隣国の脅威に備えるためです」

その言葉に、クリストファー王子だけでなく、広間にいた全ての貴族達が、はっと息を飲んだ。



「我が国が隣国のパラストールと国境で何度も衝突を繰り返していることは、この国の人間は皆知っていることと思います。いくら我が国の国力がパラストールより上だといえども、油断は出来ない情勢です。国がひとつに纏まらねばならぬという時に、世継ぎの王太子は決まらず、国内の貴族達は第一王子派と第二王子派に別れて、お互いの足を引っ張りあっている」

静まり返った広間に響き渡る王妃の厳かな声に、誰もが黙って耳を傾けた。



「私はもうこの年齢では子供は望めないでしょうから、貴方達のどちらかを王太子にするしかない。しかし、貴方達はは同じ歳で母親の実家も同等の家格、学業も武芸も共に優秀で、優劣がつけられない。確たる理由もなくどちらかを選べば、選ばれなかった側の反発を招き、この国の中枢は瓦解する。ですから、別の方法で貴方達二人を試すことにしたのです。アンジェリーナとシャルロッテの二人に協力を頼んで」



「アンジェリーナはともかく、何故シャルロッテなのです?」

訳がわからないといった様子のクリストファー王子の問いに答えたのはフェルディナント王子だった。

「シャルロッテ嬢が、王妃陛下が最も信頼を寄せる侍女だからだ」

「フェルディナント、貴方はきちんと真相にたどり着けたようですね」

満足そうに頷く王妃に向かって、フェルディナント王子は一度頭を降る。

「私一人の力ではありません。全て、彼らのお陰です」

そう言って後ろを振り返ったフェルディナント王子の視線の先には、誇らしげな様子の外務大臣の息子と王国騎士団長の息子が立っていた。

「彼らの協力が無ければ、私はきっと真相に辿り着くことは出来ませんでした」



「それで良いのです、フェルディナント様。それこそが、貴方に課せられた試練だったのですから」

フェルディナント王子に向かって嬉しそうに微笑んだアンジェリーナは、表情を引き締めると二人の王子に向かって語りかけた。

「フェルディナント様、クリストファー様。お二人にはそれぞれ、良き王となる為に欠けているものがございました。私が以前から常々お二人に申し上げて来たことではごさいますけれども、クリストファー様は人の話を直ぐに信じてしまう一方で、諌言に耳を塞ぎがちな所がございます。それに対してフェルディナント様は、疑り深く他人を信用できない為、何でも自分お一人の力で解決しようとなさる所がございます」



アンジェリーナの指摘に、一応自覚はあったのか二人の王子は叱られた子供のような顔をする。そんな二人の様子がおかしかったのか、シャルロッテがコロコロと笑い声をあげる。

「よく、王妃様が愚痴をこぼしてらっしゃいましたよ。お二人を足して割ってしまえば丁度いいのに、と」



「ぶふっ」

その言葉に、王妃の隣に座っていた王が思わず吹き出す。

が、王妃に白い目で見られると、慌てて咳払いをして誤魔化した。

「と、とにかく、二人のうち欠点を克服出来たものを後継者にする為、シャルロッテを学院に送り込みお前達に近づけさせたのだ。フェルディナントは間違いなく言葉巧みに取り入ろうとするシャルロッテを疑うことはわかっておったから、誰かを頼らねばシャルロッテを探ることが出来ぬよう、アンジェリーナに邪魔をしてもらった」



「シャルロッテ嬢と二人で話をしようとすると必ずアンジェリーナの邪魔が入りましたし、アンジェリーナがシャルロッテ嬢を虐げているという噂が学院に流れてからは、彼女の無実を証明する為に傍を離れられなかったから苦労しました」

そう言って苦笑するフェルディナント王子に、外務大臣の息子と王国騎士団長の息子が茶々をいれる。

「まぁ、疑り深い殿下は、初めは、利害関係も面識もない複数の人間に同じ調査を命じる。それも別々に命じて調査している者同士は、お互いが全く同じことを調査しているとは知らないなどと、徹底されてましたけどね」

「正直、そんなに自分達は信用されていないのかとショックでした。疑り深いにも程がある! と」



遠慮のない二人の言葉はともすれば不敬と取られかねないものであったが、フェルディナント王子は気分を害した様子は無く、むしろ二人とのやり取りを楽しんでいるようだった。

「やれやれ、私はそのことでこの先、一生お前達に文句を言われなければならないようだな。確かにあの頃の私は、周りの人間を信用することができなかった。だが、今はこうしてお前達という、何物にも代えがたい友人を得ることができた」



「私は、いったいどうすれば良かったのだ・・・?」

友人達と笑い合うフェルディナント王子を見つめながら、クリストファー王子がポツリと呟く。

その途方にくれた様子はまるで、迷子の幼子のようだった。

「クリストファー様、貴方の純粋で素直なところは美徳でもあります。貴方が王子ではなく、ただの人であったのならば何の問題もございません。ですが、あなたは王子なのです。他者の話をそのまま受け入れるのではなく、よく吟味をして真実を見極めなければなりません」

クリストファー王子に語りかけるシャルロッテの顔には笑顔はなく、その表情は真剣そのものだった。

「私や、取り巻きの貴族達の言葉を貴方はもっと疑うべきだった。そして、アンジェリーナ様の言葉にもっと耳を傾けるべきだったのです。何故、アンジェリーナ様の忠告を聞き入れては下さらなかったのですか?彼女は何度もクリストファー様の間違いを正そうとして下さったのに。そうしていれば、貴方は私に騙されて婚約破棄だなんて愚かな真似をせずにすんだのに・・・。これまでアンジェリーナ様がクリストファー様を諌めた言葉に、ひとつでも貴方の為にならない言葉がございましたか?」



シャルロッテの言葉に、クリストファー王子はこれまでアンジェリーナにかけられた言葉の一つ一つを思い返す。

アンジェリーナの言葉は厳しく、キツい物言いも多かったが、何一つとしてクリストファー王子の為にならない言葉はなかった。

自然と込み上げて来る涙を堪えながら、クリストファー王子は真っ直ぐアンジェリーナを見つめた。

「アンジェリーナ、今まですまなかった」

両手で口許を押えクリストファー王子を見返すアンジェリーナの目は涙で濡れていた。常に気丈に振る舞うアンジェリーナの初めて見る涙だった。



「今、この時をもってフェルディナントを正式な王太子とする! 異論のある者はこの場で申してみよ」

王の宣言に、異論を唱えるものは誰もいなかった。

「それから、フェルディナントの婚約者についてだが・・・」

一度言葉を切って王はちらりと自分の横に座る王妃を見た。

「クリストファーはアンジェリーナとの婚約を破棄すると先程申しておりましたが、そもそも二人は正式な婚約を交わしてはおりません。これまで、アンジェリーナは次期王太子の婚約者として教育して参りました。それを二人の王子の母親や、周囲の貴族が勝手に勘違いをしていたせいで、クリストファーもフェルディナント、どちらもアンジェリーナが自分と婚約していると思い込んでいたようですが。私も陛下も敢えてその誤解を解きませんでしたし」

王妃のこの言葉には、流石にフェルディナント王子も驚いたようだった。



「フェルディナントが王太子となった為、アンジェリーナを正式にフェルディナントの婚約者とする。二人とも、それで良いな?」

「勿論です、父上」

「陛下の仰せのままに」

フェルディナント王子と、アンジェリーナの返事に広間にいた貴族達の間から次々に二人を祝福する拍手が沸き起こった。

笑顔で祝福に答えるフェルディナント王子とアンジェリーナ。



そして拍手が収まった時、王はクリストファー王子告げた。

「クリストファー、お前には隣国パラストールに赴いてもらう」

「父上、それは・・・!」

王の宣言にクリストファー王子の顔が蒼白になる。

「この度、パラストールと停戦協定を結ぶことになった。それに伴い、両国の相互理解を深めるという名目で王子の交換留学を行うこととなった。あちらの国からは、第三王子がやってくる。我が国には王子はフェルディナントとクリストファーの二人しかおらぬら、お前に行って貰うことになる」

表向きは交換留学となっているが、実際のところは人質だ。

停戦協定が反故になってしまえば、命はない。

「行ってくれるな、クリストファー?」

王の言葉にクリストファー王子はただ頷くしかなかった。



「陛下、ならば私もクリストファー様と共にパラストールへ参ります」

「シャルロッテ様、本気ですか!?」

シャルロッテの宣言に、アンジェリーナが悲鳴をあげる。

「命の保証はありませんよ?」

それでもいいのか、と問うてくる王妃にシャルロッテは力強く頷いた。

「覚悟のうえです。クリストファー様には、我が国の態勢が整うまでパラストールを牽制して頂かなくてはなりません。そんな大仕事、クリストファー様お一人の手には余ります。それに、クリストファー様がパラストールの貴族達にのせられて、我が国に仇なすことがないよう監視する人間が必要でしょう」

その決意は固く、止めることは出来ないと悟り王妃はシャルロッテに尋ねた。

「クリストファーと、命運を共にして構わないと?」

「構いませんわ。だって・・・」

そこで、シャルロッテは一度言葉を切って、にっこりと微笑んだ。



「昔から、馬鹿な子ほど可愛いと申しますでしょう?」




本編では書ききれなかったフェルディナントとシャルロッテ視点の話を、今後書ければいいなと、考えています。

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