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前編

一度、悪役令嬢ものを書いてみたかったので、別の連載の息抜きに書いてみました。

ランドール王国王立学院。

ランドール王国の十五~十七歳の貴族の子息、令嬢が通うその学院では、毎年卒業式の式典の後に盛大なパーティーが催される。

これから成人し、国を支えていくことになる彼らを歓迎する為、パーティーは国王の名のもと、王宮で行われる。

今年の卒業生には、ランドール王国の第一王子フェルディナント・ランドールと第二王子クリストファー・ランドールが含まれることもあって、パーティーには卒業生とその家族だけでなく、国中の貴族が集まっていた。



卒業生達は各々の家族や友人たちと卒業を喜び合うもの、両親と共に有力貴族への挨拶回りをするもの等様々で、広間のあちこちに大小の人だかりが出来ていた。

その中でも、とりわけ目立つ集団が二つ。勿論、第一王子と第二王子を中心とした集団である。

ランドール王国の国王には、王妃との間には子はおらず、二人の側室との間に同じ歳の王子がそれぞれいた。

同年齢の二人の王子はどちらも眉目秀麗で優秀かつ、有力貴族の娘である彼らの母親の実家も同等の家格であった。

その為、未だに二人の王子のどちらが王位を継ぐのか、はっきり決まっていなかった。

パーティーに出席していた貴族達の関心は、二人のどちらが後継者に選ばれるかということで、彼らは和やかに談笑しながらも、二人の王子を中心とした二つの集団の様子をチラチラと伺っていた。



そんな貴族たちの視線の間をぬって、一人の令嬢が第二王子の集団に近づいていく。

華やかな美貌で、周囲の貴族たちの視線を自然と集めるその令嬢は、ランドール王国の宰相、ローゼンクロイツ公爵の娘、アンジェリーナ・ローゼンクロイツであり、彼女もまた卒業生の一人であった。

才色兼備と名高く、次期王太子妃と目される令嬢は、第二王子クリストファーの前に立つと優雅に一礼し、祝福の言葉を述べた。



「クリストファー殿下、この度は王立学院のご卒業、心よりお祝い申し上げます」

艶やかな微笑みを浮かべるアンジェリーナとは、対照的にクリストファー王子の表情は硬い。

「君からの祝いの言葉など不必要だ。アンジェリーナ・ローゼンクロイツ、この場をもって、君との婚約を破棄させてもらう!」



広間に響き渡るその大声に、一瞬で辺りは静まり返った。

パーティーに出席していた全ての視線が、クリストファー王子とアンジェリーナに注がれる。

固唾をのんで見守る貴族たちの視線を一身に集めながら、アンジェリーナは内心ため息をつくも、それを表には出さずクリストファー王子に問いかけた。

「クリストファー殿下、理由をお伺いしても?」



「理由?貴方はそんなことも分からないのですか? つくづく、愚かな女性だ」

アンジェリーナの問いかけに答えたのは、冷たい表情を浮かべるクリストファー王子ではなく、王子の右に立っていた内務大臣の息子だった。さらに、王子の左に立っていた近衛騎士団長の息子がアンジェリーナを怒鳴り付ける。

「貴様がシャルロッテに働いた狼藉、忘れたとは言わせんぞ!」

普通の令嬢であれば、青ざめ泣き出してしまいそうな剣幕であったが、アンジェリーナは顔色ひとつ変えなかった。

「己の身分をかさにきて、己よりも身分の低い令嬢を虐げるなど、貴族の令嬢の風上にもおけぬ。ましてや、王妃に等相応しくない。この国の王妃に相応しいのは、シャルロッテのような他者への思い遣りを持った令嬢だ」

そう言って、クリストファー王子は自信の傍らに寄り添う令嬢の肩を抱き寄せた。クリストファー王子に付き従う、内務大臣の息子と近衛騎士団長の息子も口々に同意し、シャルロッテを誉め称えた。

涙をためた大きな目、うっすらと頬を染める令嬢は愛らしく、庇護欲を掻き立てるような儚さがあったが、彼女は男爵家の令嬢で、とても王妃になれるような身分ではない。

そもそも、王族や高位の貴族であるクリストファー王子の取り巻きと気軽に会話を交わせる身分ですらないのだが、彼等はすっかりシャルロッテに骨抜きにされてしまっている様子だった。

アンジェリーナが学院で耳にした噂によれば、シャルロッテは偶然を装い彼らに接触した後、言葉巧みに彼らの心の闇を聞き出しそれを癒したのだとか。

第一王子やその取り巻きと常に比較されるプレッシャーゆえに大きなコンプレックスを抱える彼らにとっては、シャルロッテの甘言はさぞ耳に心地よく、彼らの自尊心を満たしたのだろう。



随分なやり手だと半ば感心しつつも、アンジェリーナはチラリとシャルロッテに向けた視線を、クリストファー王子に戻す。

「恐れながら殿下、私はシャルロッテ孃に対して貴族にあるまじき態度を咎めたことはございますが、彼女を害するようなことなど、一切しておりません」

冷静に言葉を発するアンジェリーナとは対照的に、近衛騎士団長の息子が更に激昂する。

「よくもぬけぬけと! 貴様がシャルロッテに手をあげるのを見た人間が何人もいるのだぞ!」

その言葉と共に、目撃者だという学生達が次々と名乗り出てくる。

「私、放課後の中庭でアンジェリーナ様がシャルロッテ様の頬を扇子で打たれるのを何度も目撃しました!」

「私もです!」

「私は5日前のお昼にアンジェリーナ様がシャルロッテ様を池に突き落としたところを見ました!」

順繰りにその顔を確認していくと、彼等は皆、第二王子派の貴族の令嬢や子息達であった。

第二王子派の貴族達は、中立派であるローゼンクロイツ公爵を快く思っていない者も多い。

更に、幼い頃からことあるごとに小言を言ってくるアンジェリーナをクリストファー王子が疎ましく感じているというのは、貴族の子息や令嬢達の間では周知の事実であった。

大方、この件に乗じてアンジェリーナを引摺りおろし、あわよくば自分や、姉妹を新たな婚約者にとでも考えているのだろう。



彼らの嘘の証言に、もともとアンジェリーナとの折り合いが悪かったクリストファー王子が、これ幸いと飛びついたということがアンジェリーナには容易に想像できた。

自分にとって都合のいい話は疑いもせず簡単に信じてしまうところは、昔から変わらないのだなと残念に思いながら、アンジェリーナはきっぱりとクリストファー王子に告げる。

「その方々が何と仰ろうと、私はやっておりません」



「まだ、言い逃れをするのか。君には本当に失望したよ。せっかく君に謝罪をするチャンスを与えというのに」

口では残念だと言いながらも、嬉しそうな様子を隠しきれていない。

何を言っても無駄であろうクリストファー王子に、アンジェリーナは諦め、最後の確認を行う。


「本当に私との婚約を破棄してよろしいのですね?」


「当たり前だ!」

そう叫ぶと、クリストファー王子は玉座に座り、じっとことの成りゆきを見守っていた国王に向かって声を張り上げた。

「父上、ご覧の通りアンジェリーナ・ローゼンクロイツは、将来の王妃には相応しくない令嬢です! この場での婚約破棄の許可を頂きたい!」



「好きにするがいい」

短く答えた国王に続いて、王妃が言葉を続ける。

「もう一度だけ確認しますが、クリストファー、そなたは本当にそれでよいのですね?」

「もちろんです!」

問いかける王妃の鋭い視線に、クリストファーは力強く頷くと、アンジェリーナに再度向き直った。



「アンジェリーナ・ローゼンクロイツ、先程も伝えたように今日この場をもって、君との婚約を破棄させてもらう!」

クリストファー王子の高らかな宣言に、取り巻き達が一斉に拍手を送る。



その時、彼らの拍手を掻き消すかのように、よく通る声が広間に響き渡った。

「クリストファー、お前は本当に愚かだな!」

ざわめく貴族たちの間から姿を表したのは、第一王子のフェルディナントであった。


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