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龍の姫に恋してから、俺の不良ライフが変なんです!  作者: @眠り豆
第三話 隣のあの娘(コ)は小悪魔ちゃん
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14・闇へと下る。

「……怒らないんですか?」


 紅太たちの待つフードコートへ向かいながら、紫乃花さんが口を開いた。

 しっかし人が多いな。先に上の階へ上がっとこうか。

 近場の階段を探しつつ、俺は尋ねた。


「怒られてぇの?」

「違いますけど……」


 彼女はしょぼんとうな垂れる。


「わたし、勇気さまに嫌われることも覚悟していました。それでも、あのときはああするべきだと思ったので」


 細い手首には、もうちゃんと霊力封じの腕輪があった。

 五色の布で編まれたそれを、彼女はもういっぽうの手で撫でる。


「だったら、それでいいんじゃねぇの? 俺もあの男は許せないと思ってたし、なにより先輩たちが罪を犯さなくて良かったよ」

「わたしのこと、嫌いになられてないのですか?」

「嫌いになんかなるわけねぇし」


 てか好きだし。すっげぇ好きだし。……って、言えりゃ楽なのにな。

 思いながら俺は、ただし、と口にした。


「さっき電話したとき、洋にーちゃんメッチャ怒ってた。俺もなんで止めなかったんだって言われたよ。怒られんの覚悟してて」

「は、はい! これからフードコートで怒られます。勇気さままで巻き込んで、申し訳ありませんでした」

「俺はいいって。それに、なんかあったってわけでもないってよ。ちょっと霊脈の動きが変わっただけで……あ」


 フードコートに上がる階段を探していたら、地下駐車場へ降りる階段への入り口を見つけちまった。うちの制服姿の男が扉に入っていく。

 洋にーちゃんが先輩トリオを止めろと言っていたのは、俺たちが報告したのと、三人が例の事件の真犯人を目撃していたからだった。

 憎悪がはっきりしてる分、煽られやすいもんな。

 三人は最初ゴリ先輩に相談したらしい。

 番長の影響力で犯人を見つけてくれって。

 つっても見つけたら私刑リンチするつもりなのが見え見えだったから、ゴリ先輩は断って先代の洋にーちゃんに連絡した。洋にーちゃんは退魔師としてつき合いのある警察に注意を促した上で、三人がバカな真似しないよう気を配っていたんだ。

 羊谷が興奮してたのはプレゼントを壊されたからだし、先輩トリオ以外の不良が霊に煽られても、最初っから悪事を考えてねぇ限り大事にはならない、はずだけど──


「勇気さま?」

「ゴリ先輩だ」

「まあ」


 地下駐車場で待ち合わせってのも妙な気がすっけど、うちの制服であの巨体、ほかにいねぇだろ。


「先輩トリオのこと、一応伝えとこうかと思うんだが」


 七尾さんが来てることは、ゴリ先輩に会ってから言うかどうか考える。

 恋愛沙汰に、部外者が口挟むのもなんだしな。

 紫乃花さんが頷いてくれたので、俺たちはその扉を開けた。

 白い、路地の壁と同じ色の金属製の扉だ。

 扉の向こうは真っ暗だった。

 足元にしかライトがないのか、地下へ降りる階段だけがくっきりと見える。

 大きな背中が遠ざかっていくのを追いかけて、俺は足を踏み出した。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 どれくらい降りただろう。

 辺りが暗いせいか、ひどく長く降りてるように感じた。

 紫乃花さんはずっと無言だ。呪いのことで落ち込んでんだろうか。


「なあ……」


 振り向いて、俺は息を呑んだ。

 彼女がいねぇ。

 ウソだろ? 地下駐車場へ続く階段に別れ道なんかなかった。

 それに、いくら暗いとはいえ、なんで入ってきた扉も見えねぇんだ?

 白い金属製の扉だった。

 足元のライトを反射して、うっすら光っててもいいじゃねぇか。

 俺はふと、階段を囲む壁に手を伸ばした。

 見えねぇがあるはずだ。だけど指先は──

 しゃがんで階段に触れてみる。

 硬いようで柔らかく柔らかいようで硬い。

 馴染みのある感触だ。どうやらここは、だれかの結界の中らしい。

 って、だれの結界だよ!

 不意に気づいて前を見る。大きな背中は、もうどこにもなかった。


「……罠?」


 思わず呟いて、苦笑する。

 羊谷のことを笑えねぇ。俺も現役厨二病だぜ。

 しっかしどうするか。

 溜息をついて、俺は階段に座り込んだ。

 尻がむずがゆい。硬いなら硬い、柔らかいなら柔らかいで統一してくれ。

 つってもマトモな空間じゃねぇからしょうがないんだよなあ。

 思って気づく。

 むずがゆいのは階段の感触のせいだけじゃねぇ。

 デニムの後ろポケットから、圧を感じる。

 関根か? じゃあどっかに女子がいんのか? それがこの結界のぬし

 七尾さんとゴリ先輩が、また俺に試練を与えようとしてるんじゃねぇよな。

 さすがに二度も、んな真似されたら、俺も怒るぜ。

 とはいえほかにアテもねぇし。

 ポケットからパスケースを取り出す。

 あ、そういや、前に親父と来たとき作ったフードコートのクレープ屋のポイントカードがあったっけ。無事に外に出られたら紫乃花さん誘ってみっか。

 パフェ食ったっつっても、そろそろ腹が減るころだろ。

 あっこはおかずクレープもあるしよ。

 なんてのん気を装い考えてたのは、正直言って怖ぇからだった。

 ケンカにゃ自信がある。でもどんなに拳やキックを振るっても、ここから逃げ出せねぇじゃんか!

 今の状況で、こんな結界張るような相手、しかも女つったら、ひとりだけ心当たりがある。


 ──動画女だ。


 小動物じゃ飽き足らず、人間まで標的にし始めたのかもしんねぇ。

 親父や幼なじみのにーちゃん、学校の先輩と担任が退魔師でも、俺自身はなんもできねぇからな。あ、おまけに隣人が龍神だった。

 ……まあ、紫乃花さんが一緒でなくて良かったのかな。

 彼女なら指一本で解決しそうな気もすっけど、怖ぇ思いや危ない目には遭わせたくねぇし。

 パスケースからカードを取り出して、めくっていく。

 数枚で関根が現れたが飛び出しては来ない。圧は感じんだけど。

 さらにめくっていくと、小悪魔ちゃんのカードが現れた。

 やっぱ紫乃花さんに似てるよなあ。

 とか思って見つめていたら、カードの彼女が、ウィンクしていた片目を開けた。


「へ?」


 そして、


 ──勇気さま。聞こえますか?


 熟れた果実のように艶やかな唇が動いて、紫乃花さんの声が頭の中に響いてきた。

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