12・きつ姐さんもご乱心?
──ショッピングモールの人込みの中、先輩トリオを探していたら、
「よう、楽しそうだな。デートか? コラ」
私服だったせいか、不良(笑)に絡まれた。
「七尾さん、なにやってんスか」
「うっせぇし、お前に関係ないし」
「わかりました。じゃあ行こうか、紫乃花さん」
「はい」
「ちょ!」
七尾さんが、紫乃花さんのジャケットの裾をつかむ。
「聞けよ!」
「うっす」
「申し訳ありません、七尾先輩。わたしたち大事な用事があるので、お早めに済ませていただけますか?」
「冷たいな、お前ら。まあ、いい。すぐ済むよ。あー……猿藤先輩見なかったか?」
「待ち合わせですか?」
俺は七尾さんの服装を確認した。
こないだ紫乃花さん家で着ていた、オレンジのストラップレスキャミソールと黄色いショートパンツ姿だ。
高校に入ってから女性の服は買ってないと聞いて、紫乃花さんが進呈したと聞いている。
七尾さんは足が綺麗だから、ベストなチョイスだろう。
少し寂しい胸元は派手なアクセで誤魔化している。さすが女子だな。
ワンピース好きの紫乃花さんが、ぱん、と両手を打ち合わせた。
「あら、素敵。デートですか? 七尾先輩、ご自分で猿藤先輩に告白なさったのですね」
「おめでとうございます」
良かった良かった。
恋する乙女ってのはすげぇな。
恋愛感情を打ち明けるなんて考えただけで心臓止まりそうなのに、七尾さんは性別詐称まで告白したんだ。俺みてぇなヘタレには到底真似できない。
ゴリ先輩は甘いの嫌いじゃなかったから、月曜日にお祝いのケーキでも作って行こうかな、なんて思っていたら、七尾さんは悲痛な面持ちで首を横に振る。
「違ぇよ」
俺と紫乃花さんは視線を交わし合った。
あんまり聞きたくねぇが、一応確認しておこうか、後輩として。
「……ストーキングっすか?」
「いくら好きでも、それはどうかと思います」
「違ぇし!」
「ああ、偶然を装って会うってわけっすね。だったら、いいんじゃないスか? でも俺たちゴリ先輩見てねぇっす。今日は来てないかもしんないスね」
「来てるよ。猿藤先輩、毎月ここに来るんだ。あんな女のために」
「来るのがわかっていて……やっぱりストーキングですか、七尾先輩?」
「違うってば! 見てないんだったらいいよ。電話してもつながらないから、ちょっと心配なだけだ」
「映画でも観てるんじゃないスか。俺や洋にー……先輩もかけたんスけど、つながりませんでした」
「ヒロ番長が猿藤先輩に? なんかあったのか?」
七尾さんは妖狐で、ゴリ先輩の腹心として番長の仕事も手伝ってる。
事情を話してもいいんだろうか。
俺の表情を見て、七尾さんは頷いた。
「ああ、そうだな。事情にもよるか。自分で聞いてみるから、ヒロ番長の居場所教えてくれよ。それも秘密にしろって言われてんの?」
俺は首を横に振った。
てか、画像女のことも口止めはされてない。
もうすでにネットでは話題になっているんだと。
「洋先輩は上のフードコートでタコ焼き食ってます」
「わかった。ありがとな」
片手を振って、七尾さんは階段のほうへ向かっていった。
ちなみにタコ焼きは紅太の要望だ。そんなに食いたかったのか、アイツ。
七尾さんを見送る紫乃花さんが複雑そうな顔をしている。
「どうしたんだ?」
「勇気さま、これってストーカーほう助に当たらないでしょうか?」
「だ、大丈夫だと思うぜ?」
それより俺は、ゴリ先輩の行動のほうが心配だった。
七尾さんの口調からして、会ってんのはたぶん例の幼なじみだろう。
あんな真似されたのに、毎月会ってるってのはどうなんだ。
いいように利用されてる姿しか想像できねぇよ。
クイズ番組でたまに出てくるメッシーやアッシーとやらにされてんじゃね?
ゴリ先輩誕生日早いから、ゴールデンウィークに四輪の免許取ってたし。
とか思いつつ、ゴリ先輩を笑う気にはなれなかった。
恋しちまったら、どうしようもねぇんだよな。
好きな相手のためなら、なんだってしてやりたくなるもんだ。
俺の視線に気づいて、紫乃花さんが首を傾げる。
「勇気さま?」
「あ、いや、今日はなんか電話のつながらねぇ日だと思ってな」
俺は先輩トリオの連絡先を知らないが、紅太は知っている。
別れる前に事情をボカしてかけてもらったんだけど、それもやっぱりつながらなかった。
辺りを見回せば、つながらない電話に毒づいてるヤツが結構いる。
「つっても、ここは元からつながりにくい場所なんだけどな」
「人も霊脈も多いですからねえ」
霊力と電力、代用できるくらいよく似た力は互いに影響し合う。
ホラー映画で、悪霊出現の前に電化製品がおかしくなるのは、ある意味自然なことだった。
そういやさっきのクズは、フツーに動画再生してたな。
ネットの保管庫じゃなくて、自分の機体に保存してたのかね。
七尾さんのストーカー疑惑やゴリ先輩のアッシー問題は置いといて、俺と紫乃花さんは先輩トリオ探しを再開した。
てか七尾さん、ゴリ先輩がほかの女子といるところに乗り込む気なのか?
ゴリ先輩と幼なじみ女子の過去を詳しく話してくれたのは、ご本人ではなく七尾さんだった。ゴリ先輩は、フラれたんじゃよ、と笑ってただけだ。
七尾さん、自分で調べたのかなあ。
だよな。たとえ七尾さんが相手でも、だれかを悪者にすることになる話をするゴリ先輩じゃねぇ。
……止めたほうが良かったかな。
ぼんやり後悔していたら、紫乃花さんが声を上げた。
ちかくの路地を指差している。
「勇気さま、あちらに!」
俺は頷いて、彼女の示す場所へと向かった。
今の優先順位はこっちのほうが高い。
それに女子の争いは、男が首突っ込むと余計ややこしくなるもんだ。
あっちはゴリ先輩に任せよう。




