8・隣のあの娘(コ)はジェラシーガール?
和スイーツの店だけあって、ここのパフェには寒天と白玉が入っている。
「まあ! 寒天と白玉まで黒豆味です。でも食感が違うから飽きませんわ」
紫乃花さんは楽しそうだ。
さっきお裾分けした桃のかき氷も美味しそうに食べてくれた。
まあ、口つける前のスプーンで掬ってもらったんだけどな。
べ、べつに残念とか思ってねぇし!
「そう言えば勇気さま」
「ん?」
「さっきのショー、出演していたのはテレビに出ていたのとはべつの方たちですよね?」
「ああ、やっぱわかるか」
「わかりますわ、体型や技のキレが全然違いましたもの。でもタタルンイエローの方は、変身した状態でも巻き毛を指で遊ばせる仕草をされていて、テレビと同じことに感動してしまいました。とっても楽しかったです」
「そうか、良かった」
タタルンイエローは、名家で生まれ育ったお嬢さま退魔師で、正体不明でちょっと荒っぽいレッドに反発しつつも惹かれていくという役どころだ。
要するにツンデレ、そして縦ロール。
紫乃花さんが和風お嬢さまなら、タタルンイエローは洋風お嬢さまだ。
和風お嬢さまは、恥ずかしそうに俯いた。
「……ゴメンなさい。実はわたし、勘違いしてたんです」
「勘違い?」
「はい。勇気さまは最初に、退魔師の修行はしていないと教えてくださったのに、自分の角と尻尾を見られたことで、見鬼の力をお持ちなのだと思い込んでいたのです。だから……」
七尾さんの正体と性別も知っているのだと思っていたらしい。
「いや、全然知らなかったけど」
「うふふ。おまけにわたし、妖狐の方はみなさん艶っぽくて魅力的だから、勇気さまは七尾先輩がお好きなのかもしれないとまで」
「いやいや、ナイナイナイ」
俺が好きなのは……好きなのは、さ。
「許婚計画も、七尾先輩と猿藤先輩ではなく、七尾先輩と勇気さまを結びつけるつもりで考えたのです」
「ちょ! 紫乃花さん?」
本人もバカな真似をした自覚はあるようで、申し訳なさそうな顔をする。
「お友達って恋の手助けをするものでしょう? お世話になりっぱなしの勇気さまに、わたしができそうな恩返しを、ほかに思いつかなかったのです。でも相手の気持ちも聞かずにすることではありませんよね」
「恩返しとか気にしなくていいし、そもそも俺と七尾さんとか、ぜってぇねぇから!」
うふふ、と笑って、彼女は小さく、良かったと呟いた。
屋上に張られた結界に気づいたとき、俺が見鬼の能力を持っていないことにも気づいたという。それで心配になって突っ込んできたってわけだ。
「わたし、七尾先輩にヤキモチ妬いていたんです。だって龍って鱗だらけじゃないですか。どんなにすべすべの鱗があったって、モフモフな狐のほうが可愛いですもの」
「……んなことねぇし」
ちょ! ちょちょなにコレ、なにコレ!
もうほとんど告白だよな?
コレって紫乃花さんが俺に『恋』ってこと?
いや待て、待て俺。
ヤキモチ=『恋』とは限らねぇ。
俺だって赤んぼのころ、親父とお袋がイチャついてると邪魔しに行ってたって話じゃないか。てか乳幼児の前でイチャつくな、両親。気づいた俺がハイハイで直進してくるのが面白くて、わざとやってたみてぇだが。
そうだ。落ち着け俺。
紫乃花さんは、漫画と恋愛ドラマでしか人間界を知らない龍神のお姫さまだ。恋に恋するお年ごろだけど、想像だから楽しいわけで。
……つってもよお、やっぱそうなんじゃねぇのぉ?
俺に『恋』だけど自覚がなくて、胸のモヤモヤをオトモダチって言葉で納得しようとしてたんじゃねぇの?
自覚に必要なのはトキメキ?
壁ドンとか顎クイとか?
ああ、でもありゃイケメンに限るんだよな。
俺みたく目つき悪ぃ不良がやったら怯えさせるだけ──てか、嫌がる紫乃花さんが尻尾出して攻撃してきたら、死ぬわ俺。
「勇気さま」
「なななに?」
俺の頭ん中のアホい妄想、紫乃花さんに聞こえてたりしねぇよな?
「さっきカードを受け取ってくださってありがとうございました。勇気さまが、モフモフじゃなくて角のある女の子を選んでくださって、とっても嬉しかったです」
そりゃあんな泣きそうな顔で無理して笑われたら、ケットシー選べねぇし。てか、自分に似たカードを選ばれて嬉しいってこたぁ、つまり?
俺は興奮を押し殺して首肯した。
「ああ。俺、角って好きなんだ」
もちろんこれですべてが伝わるなんて思っちゃいねぇけど、今の俺にはこれが精いっぱいだった。
つうかよう、これからどうしたら『恋』にできんだ?
んで、やっぱ洋にーちゃんとの関係が気になる俺って、器が小せぇのかな。




