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龍の姫に恋してから、俺の不良ライフが変なんです!  作者: @眠り豆
第三話 隣のあの娘(コ)は小悪魔ちゃん
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7・パフェとカードと男と女

 紫乃花さんに似たカードはゲットできなかった。

 紅太と流が、一枚売りのカードの前でまだ悩んでいたのだ。

 もちろん洋にーちゃんが一緒だから、ほかの客の迷惑になるようなことはしてねぇ。けど、俺は身内だ。目の前でカードを手に取ったりしたら、なんのカードが欲しいのか、根掘り葉掘り聞かれることは間違いない。

 んなわけで諦めた俺だったが、ヤツらを恨む気持ちはなかった。


「んー……どれも美味しそうですねえ」


 俺の前の席で、紫乃花さんがメニューを見つめている。

 紅太たちのカード選びに時間がかかりそうだからと、洋にーちゃんが俺と彼女だけでお茶してこいと勧めてくれたんだ。

 ありがとう、洋にーちゃん!

 まあ、別れる直前に洋にーちゃんが、紫乃花さんの耳元でなにか囁いてたのは気になるけど。メチャクチャ気になるけど。

 それはそれとして、昼食はみんなで食べることになっているので、俺たちは和スイーツの店に入った。結構話題の店だ。俺も家族と来たことがある。

 ……お袋は酒と肉があればいいって人間なんで、甘党の親父につき合わされたんだけどな。

 目つきの悪ぃ俺と、強面で大男の親父は注目の的だった。

 でも今日はそれほど違和感なく店内に溶け込んでると思う。

 だって男女のふたり連れだぜ?

 これって、ちょ、ちょっとしたデートってことでいいんじゃね?

 嬉しいけど、メッチャ緊張するっ!

 座席はテーブルとイスだけど、壁の棚に置かれただるやまや皿が、和の雰囲気を醸し出す店だ。入り口にはのれんもかけられていた。

 ここは和食のプレート定食もやってるんで、昼どきはいつも混んでいる。

 今日はちょっと早めだから、店内にも余裕がある感じだ。

 飛び出しそうな心臓を飲み込んで、俺は紫乃花さんに情報を提供した。


「かき氷が評判だぜ」


 氷自体は普通の氷、牛乳で作ったり空気の含有量が多かったりはしてないんだけど、この店特製の蜜で新鮮なフルーツを煮込んだものがかけられている。

 これが美味ぇんだ。

 あくまで新鮮なフルーツを使うので、いいのが仕入れられなかったときは注文できないこともあった。

 もっと暑くなると、店の前に長蛇の列ができるほど人気のメニューだ。

 紫乃花さんは、はあ……と甘い息を漏らす。


「かき氷も美味しそうなのですが、こちらは霊気のせいだけでなくクーラーも効いていますので、ひと皿は食べきれないかと」

「そうか。じゃあパフェにしたらどうだ。ここは一般的なものより小さめのミディアムサイズがあるんだ。昼食前だし、ちょうどいいんじゃねぇの」

「パフェ……勇気さまのおススメってありますか?」

「黒豆かな。あんまほかじゃ見ねぇし、蜜で煮た豆の柔らかさが絶妙のアクセントになってるんだ」

「ほほう」


 キラン、と瞳に星を煌めかせて、それにしますと彼女は言った。

 俺は桃のかき氷にする。

 お冷の代わりの熱いほうじ茶をすすりながら、紫乃花さんを見た。

 この状況に導いてくれた洋にーちゃんに感謝はしてるが、ふたりの関係は今も気になる。てかさっき、なに囁かれてたんだよ。これって、聞いてもいいことかな?

 彼女が俺の視線に気づく。


「勇気さま」

「お、おう?」

「さっきのカード、出してみてもいいですか? こんなところで荷物を広げたりしたら、はしたないかしら?」

「かまわねぇだろ。あ、でもちっと待て」


 俺はタオルハンカチをテーブルに敷いた。

 カードは紙製だから、濡れちゃマズイ。

 ポケットを膨らませても持ってきて正解だったぜ。

 ありがとうございますと微笑んで、紫乃花さんがケースからカードを取り出す。スターターデッキだから、それほどレアなカードは入ってない。彼女が可愛いと言っていた猫の妖精と小悪魔ちゃんが、三枚ずつ入っていた。

 猫の妖精はやっぱりケットシーだ。名前と説明が書いてある。

 イギリスだかスコットランドだかの伝承に出てくる、猫の王国の王族らしい。


「……どちらがお好きですか?」


 不意に、真剣な声音が耳朶を打った。


「へ?」


 紫乃花さんはタオルハンカチの上に、ケットシーと小悪魔ちゃんを一枚ずつ置いている。このふたつから選べってことか?

 んなの紫乃花さんに似た小悪魔ちゃんのが好きに決まってる。

 でも、んなこと言えるわけねぇし。

 俺はケットシーを指差した。


「こっちかな。攻撃も防御も弱ぇけど、倒されるとプレイヤーの体力を回復して仲間を呼んでくれるからな。先攻のときは裏側守備表示で出しとくといいぜ」


 紫乃花さんは俺の言葉を聞いて、しょぼんとうな垂れた。

 可愛い唇を尖らせる。


「……やっぱりモフモフのほうがお好きなのですね」

「紫乃花さん?」

「ゴメンなさい、なんでもありません。あの、良かったらこのカードと勇気さまのカードを一枚交換していただけませんか?」

「いいけど?」

「うふふ、良かった。じゃあお守りにもなるよう霊力を吹き込んでおきますね」

「あ、悪ぃ!」


 どこかぎこちない笑顔でケットシーのカードを唇に当てようとしていた紫乃花さんを、俺は止めた。

 んな顔見せられて、こっち選べねぇよ。

 長いまつ毛を揺らして、いつも潤んだような瞳が俺を映す。


「勇気さま?」

「やっぱこっちの『小悪魔姫デビルプリンセス』がいい」

「そうなのですか?」

「……ホントは店で見たときからこっちがいいと思ってたんだけど、こんなに可愛い女の子のカードが好きだなんて言ったら、引かれそうで言えなかったんだ」

「そんな、引いたりしません。……じゃあ」


 ちゅ。


「どうぞ、お守りです」

「ありがとな」


 ちょうど注文してた品が来たので、俺たちは慌ててカードを片づけた。

 もらったカードを関根と重ねるのはイヤな気がして、俺はポイントカードで二枚を隔てた。ホントは最初から欲しかった、大切なカードだもんな。


「わあ、可愛くて美味しそうです」


 黒豆パフェを見た紫乃花さんは上機嫌だ。

 よくわかんねぇけど、俺が紫乃花さん似のカードを選んだことも喜んでくれてんのかな? だったら嬉しいんだが。

 んで、後でもらったカードに口をつけたら、かかか間接キスになんのかな?

 発火しそうなほど顔が熱くなった俺を、桃のかき氷がクールダウンしてくれた。うん、やっぱ美味ぇ。あ、いや、俺は甘党じゃねぇけど。

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