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龍の姫に恋してから、俺の不良ライフが変なんです!  作者: @眠り豆
第三話 隣のあの娘(コ)は小悪魔ちゃん
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6・隣のあの娘(コ)の密かな野望

 なんだかんだあるけど、ショー自体は楽しかった。

 子どものころを思い出してみると、うちは相当甘い家だった。

 誕生日やクリスマスには、必ず欲しいオモチャがもらえた。

 こういうショーにもよく連れてきてくれた。

 それって、親父たちが退魔師だったからなんだろうな。

 危険な仕事で、自分たちがいついなくなるかもわかんねぇから、その分俺に愛情を注ぎ込んでいたんだ。

 俺と潮は友達だけど、うちのお袋と潮のお袋さんも友達だった。

 両親が長く家を空けるときは、よく潮の家に預けられてたもんだ。

 よく考えりゃ教師の親父とパートのお袋に、そんなに帰れなくなるような仕事があるのもおかしなこった。そういうことだったんだよな。

 ショーが終わって、俺は紫乃花さんに聞いてみた。


「これからカードショップに行くけど、紫乃花さんはどうする? なんなら俺が紅太と流を見てるから、洋にーちゃんに案内してもらったら?」


 俺の決死の申し出に、彼女は怪訝そうに首を傾げた。


「あの、わたしもカードショップへ行きたいのですが……ダメですか?」

「え、いや、全然! 一緒に来てくれるなら喜んで!」


 うはあ。気ぃ遣ったつもりで悲しい顔させちまったよ。

 我ながら初恋野郎は役に立たないぜ。

 紫乃花さんが、ふふふ、と笑う。


「良かった。わたしもカードで遊んでみたいんです。いつも勇気さまと紅太が遊んでるのを見て、羨ましくて」

「言ってくれれば教えたのに」

「……ゴメンなさい。今あるカードが、あの、あんまり可愛くなくて」


 うん。俺は昔から硬派に憧れてたから、『武装兎アーマードラビット』以外は厳ついカードばっかなんだよな。『武装兎アーマードラビット』だって鎧着てて、可愛いカードたぁ言い難いし。


「勇気さまの貸してくださったルールブックを読んでみたら可愛いカードもいっぱいあったので、そういうのを買って、わたしもお仲間に入れて欲しいなって思ったのです」

「そうか。スターターデッキもいろいろあるから、好みに合うのがあると思うぜ」

「余はレアカードが欲しい!」

「俺はスーパーレアが欲しい!」

「だったら余はウルトラレアだ!」

「流、レアが出ても出なくても、買うのは三枚までだからな」

「紅太、お前もだぞ」

「えー? 余は自分のお金で買うのに」

「お金の使いすぎはいけません」

「はぁい」


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 久しぶりのカードショップは賑わっていた。

 フィギュアや食玩なんかも置いてあるからか、女子の姿も少なくない。


「……勇気」


 洋にーちゃんが、俺の肩を突いて小声で言う。


「お前は彼女についててやれよ。俺がふたりを見てるから」

「あ、ありがと」


 ニヤリと笑って、洋にーちゃんは紅太たちと一枚カードのコーナーへ向かう。

 こうして気を遣ってくれるってことは、洋にーちゃんと紫乃花さんにはなんもないのかな。てか俺の気持ち、バレバレだった?

 俺は顔が赤くなってないようにと祈りながら、紫乃花さんとスターターデッキのコーナーへ足を運んだ。

 スターターデッキは、それだけでゲームができるようになる最低限のカードを収録したセットだ。一枚で売られているカードと違って、中身は表示されている。


「いろいろありますねえ。……このガラスケースに入っているのは、特別強い組み合わせなのですか?」

「いや、それは生産の終わったバージョンだ。もう入荷することがないんで、プレミアがついてるってこった。スターターデッキだから、強さはどれも同じくれぇだよ。自分のくせに合ってるかどうかでも変わるけど、それは遊んでみねぇとわからないからな」

「なるほどー」

「てか紫乃花さん、そのプレミア品、あんま可愛くねぇだろ」

「そうなんですけど、強いのならいいなと思って。実はわたし……」


 紫乃花さんが声を潜める。


「すごく強くなって、勇気さまも紅太も負かしてしまうつもりなのです」

「おっと、そいつぁ強敵だな」

「はい。わたしは勇気さまの『強敵』と書いて『とも』と読む強敵ともになりたいのです」


 そう言って、嬉しそうに微笑む。

 可愛いぜ? すげぇ可愛くて心臓が止まりそうだ。

 でも紫乃花さん、あくまでオトモダチとしてのレベルアップなんスね。

 彼女はガラスケースの上のデッキをふたつ取って、見比べ始めた。


「動物と妖精、どちらも可愛いですねえ」


 俺はケースの上に並べられた、紫乃花さんと同じデッキを取って内容を確認する。


「どっちも体力回復カードが多くて初心者向きだな」

「むー。でも攻撃力は弱いのですね」


 紫乃花さんはふたつのデッキを置き場に戻して、近くにあったいかにもな悪魔デッキを見始めた。何世代か前のバージョンで、西洋妖怪を召喚するサモナーも参戦してきたってゲーム内設定になったみてぇだ。

 まあ『武装兎アーマードラビット』がいた辺りで、今さらなにを、って感じではあるんだが。

 カードの箱裏に書かれた内容説明と、ガラスケースのプレミア品の下に並べられたデッキのカード構成を見比べて、紫乃花さんは力強く首肯した。


「勇気さま、わたし、これにします!」

「へ? いいのか? それ、全然可愛くねぇだろ」

「でもこのデッキだと、攻撃と回復が同時にできるんですもの。それに、この子は可愛いです。この子も」


 彼女がガラスケースの中を指差す。

 ひとつは猫の妖怪。ケットシーってヤツかな。

 うん、可愛いわ。

 そしてもうひとつは、コウモリの羽を持つ悪魔だった。

 ちょっと際どい衣装を身に着けた黒髪の美少女で、相手のカードを操る『小悪魔デビルプリンセスキッス』って技を使うらしい。

 いわゆる萌え絵? でウィンクしてるイラストだ。

 西洋妖怪には五行ではなく、四つの属性が割り振られている。

 RPGの魔法でよくある、炎、大地、風、水(氷)だ。

 つっても風を木気に当てはめて、上手く五行と対応させていた。

 魔力を帯びた武器が、四つの属性にない金気の代わりをしている。

 美少女悪魔のカードは水(氷)属性だった。

 てかコレ、紫乃花さんに似てるんスけど。

 鹿のじゃなくて羊のだけど、ちゃんと角もあるし。

 カウンターへ向かう紫乃花さんを見送りながら、俺は一枚売りのカードを何枚か買って帰ろうかと思っていた。

 あの美少女悪魔のカードが欲しいんだ。

 べべべつに、紫乃花さんに似てるからじゃねぇぜ?

 五行では水気は木気を生み出すものだ。

 水属性のあのカードは、木気の関根の力を高めてくれる。だからだ。

 ──うん、まあ、ウソだけど。

 紫乃花さんに似たカードが傷んだらイヤだから、デッキになんか入れねぇよ。

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