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龍の姫に恋してから、俺の不良ライフが変なんです!  作者: @眠り豆
第三話 隣のあの娘(コ)は小悪魔ちゃん
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2・陰陽戦士 タタルンジャー!

「信じられません」

「まさか、こんなことが……」


 奇跡が起こった。

 紅太は、自分以外の煮タマゴをつまみ食いしてなかったんだ。

 驚く俺たちを見て、ヤツは頬を膨らませる。

 やっぱ姉弟だ。よく似てる。

 つっても空腹は我慢しきれなかったみてぇで、自分のラーメンは食べ始めていた。麺をくっつけた顔で言う。


「当たり前だ。つまみ食いしたらタコ焼きをもらえないではないか」


 この前、紫乃花さんと俺だけでタコ焼きを食べて帰ったことが、紅太にはかなりのショックだったらしい。ソースの匂いでバレバレだったもんな。

 まあ、つまみ食いはいいこっちゃねぇ。反省したならなによりだ。

 俺はふと、時間に気づいた。


「紅太、ちょっとテレビつけてみろ」

「うん?」


 紫乃花さんは風呂場、紅太はトイレを掃除した。

 男子小学生のこったから早々に切り上げてきたものの、掃除自体はちゃんとして疲れてたんだろう。ヤツはラーメンができるまで、テレビもつけずにソファーでゴロゴロしていた。

 てか早起きすぎんだよ! 四時はやめろ、四時は!

 お前は眠りの浅いご老体か!


「そうだな。今日はショッピングモールへ行くのだから、天気を確認しておかねばならん!」


 ショッピングモールには屋根あっけどな。

 テーブルの端に置いていたリモコンで紅太がテレビをつける。

 ちょうど俺の思っていた番組が始まった。

 爆発に、タイトルコールが重なる。


 ──陰陽戦士! タタルンジャー!!


 退魔師が出てくるアニメはやってねぇが、ドラマはあるんだ。

 紅太の口が、ぽかんと開く。

 瞳がキラキラと輝きだす。

 オープニングだけで、すげぇ引き込まれてんな。


「紅太、まだラーメン残ってるぞ。ちゃんとメシ食わねぇんなら、テレビ消せ」

「ちゃんと食う!」

「いただきます」


 慌てて残りを食べ始めた紅太と一緒に、紫乃花さんもハシを持つ。

 彼女の視線はテレビから離れねぇ。

 ……恋愛ドラマと勘違いしてる、わけないよな?

 俺がハシを手にしたとき、


「ごちそうさま!」


 紅太が立ち上がった。


「煮タマゴとチャーシュー分けてやろうか?」


 今日はまだ口つけてねぇから、紅太に乗じて紫乃花さんにももらってほしい。

 しかし男子小学生は首を横に振り、また今度! と叫んで食器を流しへ持っていった。テレビがコマーシャルの隙に片づけたかったようだ。

 半分に切った煮タマゴをつかんだハシが、少し悲しい。

 俺は勇気を振り絞った。


「……し、紫乃花さんはどうだ?」

「いただきますわ。ありがとうございます」


 うん。目的は果たされたから良しとしよう。

 俺が丼に煮タマゴとチャーシューを落とすと、彼女は心底嬉しそうな笑みを浮かべてくれた。食いしん坊だから? ちっとは俺自身への好意もあって喜んでくれてんじゃね?

 つってもオトモダチ相手でも好意はあるか。

 自分を戒めることは忘れなかったが、それでも顔は緩む。

 俺は山盛りにしたネギを麺と一緒に頬張った。


「ふーひはま」

「ん?」


 同じようにネギと麺を頬張った紫乃花さんが、小動物みてぇな可愛い顔を向けてくる。ごくんと飲み込んで、彼女は尋ねてきた。


「このドラマは、どういうお話なのですか? どなたがヒロインで、どなたが彼女の恋人なのでしょう。それとも、いくつものカップルが登場する群像劇ですか?」


 あ、やっぱ恋愛ドラマと勘違いしてたのか。

 素の顔も出てたけど、オープニングじゃほとんどヒーロー姿だったのにな。

 俺も口の中のもんを飲み込んだ。


「悪ぃ、恋愛メインのドラマじゃねぇんだ」


 全然ないわけではないけど。


「正義の味方が悪いヤツを倒すヒーロードラマ。あの赤いのが悪いのの下っぱで、今来たタヌキが今回の敵。最初にタヌキに命令してたのが悪いのの幹部」

「そんなドラマ、観るのは初めてです」

「んー、こっちでも女子はあんま観ねぇかな。男も観るのは小学校低学年くれぇまでだ」


 とか言いつつ、俺は結構好きだった。

 不良の俺が好きだとか言ってたら番組のイメージダウンになっちまうかもしれねぇんで、吹聴したりはしないが毎週録画もしてる。

 潮ん家に遊びに行ったときは、チビも交えて一緒に観るんだ。

 ロボットかっけぇ、とか俺とチビがのん気にしゃべってる横で、潮は真剣な顔をして、部下の能力と作戦の目的が噛み合ってない、とかなんとかマジのダメ出しをしている。

 アイツ、いつか世界を征服するつもりなのかもしんねぇ。

 ヤツを止めるのが俺の使命なのか?……ふっ。

 とっくに卒業したはずの厨二病に顔を出されて、俺は苦笑した。

 紫乃花さんが首を傾げる。


「『祟る』って、あまり良い言葉ではありませんよね。正義の味方なのに祟るのですか?」

「ああ、実は主人公の赤いのは霊力が強かったんで、悪いヤツらに人柱にされた怨霊なんだ。陰謀に気づいて基地に忍び込んだ正義の退魔師に目覚めさせられて、それからは正義の味方として戦ってる。祟るのは悪いヤツらに対してだけなんだよ」


 正義の退魔師は基地から逃げ出すとき呪いを受けた。

 呪いの眠りに就く前に、研究していた西洋魔術と本来の陰陽術を組み合わせた『式神ホムンクルスの秘法』で主人公に体を与えた。

 主人公の本体は人柱として、今も悪いヤツらの基地に眠っている。

 人柱になる前の記憶がない主人公の正体も気になるポイントだ。

 なんてことをツラツラ語ってたら、


「テレビを観ているのだから、静かにしてくれ!」


 コマーシャルが終わって、紅太に怒られた。

 お前の叫び声のほうがうるせぇっての。

 とは思ったものの、気持ちはわかる。

 それにこのまましゃべってたら、監督だの脚本だの中の人だのと、アレな発言を飛ばしちまってたかもしんねぇし、ちょうど良かった。

 しっかしK監督のときは爆発多いよなー。

 先週はI監督でワイヤー全開だったし。

 ……うん。俺はオタク入ってる。それは認める。

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