表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の姫に恋してから、俺の不良ライフが変なんです!  作者: @眠り豆
第二話 隣のあの娘(コ)は恋天使(キューピッド)
32/50

16・隣のあの娘(コ)はスケバン志願?

 帰宅途中で横道に逸れた俺らは、商店街でポイントカードとタコ焼きを交換した。

 近くの公園でベンチに座って冷めるのを待つ。

 でき立てのタコ焼きってヤツぁ、凶悪に熱いからな。

 安売りスーパーで買ったペットボトルもあったが、せっかくだから自販機で炭酸水をゲットした。夏は、このシュワシュワした感触が恋しくなる。

 ひと口飲んで、紫乃花さんは目を丸くした。

 それから微笑む。


「面白いですね」

「ああ、悪くないだろ?」

「はい……勇気さま」

「ん?」

「勇気さまが番長になるのなら、わたし、腹心になりたいです」

「へ?」

「隠行の術はあまり得意じゃありませんけど、頑張って殿方の姿になってみせますわ。今度、七尾先輩にコツを聞いてみます」

「うーん……」


 俺は冷たいペットボトルを握り締めて、夏の空を仰いだ。


「群れるなぁ苦手なんだ。トップで仕切るとか向いてねぇし」

「そうですか? お友達がおっしゃってたじゃないですか、勇気さまは面倒見が良いと。上に立つものに相応しい資質だと思いますよ」


 最後の授業前の休み時間、羊谷たちの言動について潮に相談してみた。

 自覚なかったのかと大笑いされちまった。


「面倒見って……負けて悔しがってるヤツにちょっとアドバイスしたり、余った弁当分けてやったりしただけだぜ?」


 その程度で懐かれても困る。


「十分だと思います。気難しい紅太だって、勇気さまのことは慕ってますもの」

「アイツ、気難しいのか?」


 紫乃花さんは、まつ毛を伏せた。


「……向こうでは。異界あちらを統べる龍神の跡取りですもの。相応の言動が要求されるんです。あの子はちゃんと、それに応えて……勇気さま」

「お、おう?」

「そろそろ大丈夫ではないでしょうか?」


 まつ毛を伏せたのは、膝上のタコ焼きの冷め具合を確認するためもあったみてぇだ。

 俺たちは爪楊枝をつかんだ。

 ひとつに刺して、そのまま口に運ぼうとする紫乃花さんを慌てて止める。


「外は冷めてても中は熱いままとかあっから!」

「ご、ごめんなさい」


 食べてるうちに、ほかのが冷める。

 最初のひとつを爪楊枝で崩して仕切り直しだ。


「モグモグ……美味しい!」

「そりゃ良かった」

「うふふ。勇気さまの言われたとおり、中心部分は熱いですね。丸ごと口に入れてたら、大変でした」

「大変なんだ」


 俺は重々しく頷いた。

 わかってても、ソースの香りに負けてやっちまうんだよな。

 つい最近も口ん中ヤケドしちまったこたぁ、彼女には内緒だ。

 気持ちのいい風が吹く初夏の公園でバラしたタコ焼き食って、炭酸水飲んで、隣には紫乃花さん──幸せって、こういうのかもしんねぇ。オトモダチだけどよ。


「勇気さま」

「ああ、そろそろ丸ごとでもイケると思うぜ?」

「本当ですか!……って、違います。そんな食いしん坊じゃありません」

「ん? もう腹いっぱいになっちまった?」

「いえ……まだ食べますけど」


 恥ずかしそうに俯く姿も可愛かった。

 うん、こうして側にいられるだけで幸せだ。


「そうではなくてですね、勇気さまがトップはイヤだとおっしゃるのなら、影の黒幕はいかがでしょう?」

「番長の話?」

「ええ。わたしがスケバンになって、勇気さまが腹心として支えてくださるというのはどうですか?」

「ス、スケバン?」

「ご存じありませんか? 女性の番長のことです」


 ものすげぇドヤ顔で言う紫乃花さんも可愛いけど、なんで、んな言葉知ってんだ。


「漫画で読んだのですがカッコイイのですよ? あ、でも番長はケンカもしなくちゃいけないのですよね?」


 紫乃花さんは眉間に皺を寄せて、むー、と唸った。


「わたし、完全な龍の姿に変化すると三メートルくらいになるのです。尻尾で殴ると、大型トラックで跳ね飛ばされたくらいの衝撃らしいのですけど、ケンカ慣れした不良の方なら大丈夫ですよね?」

「……たぶん死ぬ」

「そうですか。このままの姿で戦ったことはないので、ちょっと不安です」


 『呪う』って、彼女の攻撃法の中では一番優しいものだったのかもな。

 てか、龍の姿なら戦ったことあんのっ?

 紫乃花さんが、ふふっと笑い声を漏らす。


「勝手にお話を進めてちゃいけませんね。しかもわたし、勇気さまのことを気遣う振りして、少しズルいことを考えてました。番長の役目は学校を霊的な悪から守ることでしょう? 腹心やスケバンになったら、あのお三方をお守りして、お詫びできるかなって思ってたんです。わたし、霊力が強いことしか取り柄がありませんから……あ」


 俺は手を伸ばして、紫乃花さんの頭を撫でた。

 彼女は嬉しそうに目を細める。


「うふふ」

「そうだな。紫乃花さんが助けてくれるって言うんなら、本気で番長になるの考えてみっか」

「まあ! 素敵ですわ。わたし、頑張って隠行の術を修行します。勇気さまが番長になられたときは、わたし、わたしがスケバンになったときは、勇気さまが異性の姿にならないといけませんものね」

「……紫乃花さん、なんかさっきから勘違いしてるみてぇだが、番長と腹心は同性じゃなくてもいいんだぜ?」


 そうですか、と頷いて、龍神のお姫さまはタコ焼きの残りを食べ始める。

 遠くで遊ぶ子どもの声を聞きながら目を閉じた俺は、ロングスカートで武器を構える紫乃花さんの姿を想像して、炭酸水を吹きそうになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ