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龍の姫に恋してから、俺の不良ライフが変なんです!  作者: @眠り豆
第二話 隣のあの娘(コ)は恋天使(キューピッド)
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11・夕飯の献立を決めました!

 ゴリ先輩たちと別れて教室へ向かっていたら、頭上の紫乃花さんが、ひどく真剣な声音で告げてきた。

 カラスとはいえ重かったが、辛いとは感じない。

 どこか幸せな重みだ。


「決まったか。どっちにするんだ?」

「煮タマゴと豚肉の煮ものです。この子が食べたいと言うので」

「この子?」

「わたしが体を借りている眷属です。さっき勇気さまを見送った後、片隅からでも見守っていたいと思いまして……断腸の思いでロールサンドを残し、この子と交渉したんです。眷属になって体を貸してくれませんか、って」

「この子って……カラスか!」

「はい。今の体の支配権はわたしにありますが、この子の意識も同居しています。わたしがちょっと煮タマゴのことを考えたら、食べたいと言われました。でも動物に味の濃いものはダメでしょう? だから今夜、わたしの体を貸して食べてもらおうと思って」

「体を貸すって、大丈夫なのか?」

「ええ。お食事の間だけですし、霊力の差が大きいですから、なにかあればすぐに体の支配権を奪い返せます」

「ならいいけど」


 カラスに箸は使えるんだろうか。

 ……ん? 不意に俺は、あることに気づいた。


「体を借りてるって言ったけど、紫乃花さんの本当の体は?」

「保健室のベッドで眠っています」

「そうか。無事ならいいが、病気でもないのによくベッド貸してくれたな」

「保健室の先生もわたしのことをご存じのようでした」


 なるほど。あり得ることだ。

 この学校の人外は紫乃花さんだけじゃない。七尾さんもいる。

 俺が知らないだけで、ほかにもたくさんいるかもしんねぇ。

 普通の人間が保健室にいても、対応できないだろう。

 それと、昼休みだからってのもあるかもな。


「勇気さま、ご安心くださいね」

「ん?」

「わたしの眷属になった時点で、この子の霊力は高まっています。寄生していた虫や菌などは浄化されておりますわ」


 確かに、野生の生き物にはそういう問題があるか。

 紫乃花さんの声でしゃべるから、なんも考えずに触ってた。

 あ、いや、カラスだからだぜ?

 本当の姿の紫乃花さんにそんな……そりゃ触りてぇけど。


「んじゃ保健室に、紫乃花さんの本体を迎えに行くか」

「ありがとうございます。それと勇気さま、お願いがあるのですが」

「なんだ?」

「夕食の後で、わたしにお菓子作りを教えてくださいませんか?」

「ああ、いいぜ」

「良かった」

「なにが食べたい? 親父が甘党だったんで、大抵のものは作れるぜ」

「わたしが食べるのではないのです。……殿方は、どのようなお菓子がお好きでしょうか? お弁当のほうがよろしいでしょうか」

「……へ?」


 心臓が早鐘を打ち始める。

 殿方? 殿方って男のことだよな?

 俺のことだったら、こんな持って回った言い方しねぇよな?

 だだだれ? ゴリ先輩?

 そりゃゴリ先輩はイイ人だ。さっきのことは俺を案じての行動だし、入学したてのころ、親父とお袋がいないのを忘れて作りすぎちまった夕食をタッパーに詰めて持ってくると、いつも喜んで食べてくれた。

 七尾さんは毎回、睨みつけてきたけど。

 てかなんだよ、ゴリ先輩。

 過去の事件は気の毒だぜ? でもだからって、龍神のお姫さまと男装貧乳妖狐にモテモテとか、俺との恋愛格差が激しすぎねぇ?

 いや、それともまさか担任だったり? そりゃねぇよな? あんな貧乳星人……ん? 七尾さんとつき合ったらちょうどいい? いや、まあ、七尾さんはゴリ先輩が好きなんだけど。

 って、なにわけわかんねぇこと考えてんだよ、俺!

 頭が混乱してやがる。

 紫乃花さんが俺の頭から飛び立ち、地面に降り立った。

 小首を傾げて見つめてくる。


「一昨日呪いをかけてしまったお三方に、お詫びで差し上げようと思うのです。そんなものでお詫びになるとも思えませんが、本当のことは明かせませんし。本当は昨夜お願いするつもりだったのですけれど、七尾先輩がいらしたので」


 そっか。俺に言っちまったのは、親父から聞いてると思ったからだもんな。

 てか、言っても信じねぇよ。

 証明するために、もう一度呪うわけにもいかないし。


「あ、ああ……詫びに、か。うん、どんなんでもいいんじゃね? あの三人、たまに裏庭でクッキーやパイの詰め合わせ食ってたから、甘いもん好きだと思うぜ」

「そうですか。では頑張りますので、よろしくご指導ください。いつも頼ってばかりで申し訳ありません」

「気にすんなよ」

「いつか必ずご恩返しをいたしますね。じゃあ体に戻って待っています」

「おう」


 一瞬で、カラスの雰囲気が変わった。

 まん丸くて真っ黒な瞳で、怪訝そうに見つめてくる。

 俺はしゃがんで呼びかけた。


「よう。紫乃花さんが世話になったな。今夜は腕によりをかけて夕食を用意しとくぜ。煮タマゴと豚肉の煮ものがメインだから、メシは枝豆ご飯にすっか。煮ものが甘いから、サイドディッシュは夏野菜のピクルスとピリ辛ゴボウ炒めってとこでどうだ?」


 あまりピンとこなかったのか、カラスは飛んで行ってしまった。

 マジで夕食に来るのかね。

 まあ紫乃花さんさえ美味しく食べてくれりゃ、俺は満足なんだがな。

 保健室へ向かいながら、ぼんやりと考える。

 ……確かに彼女は、先輩トリオに悪いことをした。

 したけどよ──お菓子なんか差し入れて、先輩たちが紫乃花さんに惚れちまったらどうするんだ? 紫乃花さん、ほだされたりとかしねぇよな? な?

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