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龍の姫に恋してから、俺の不良ライフが変なんです!  作者: @眠り豆
第二話 隣のあの娘(コ)は恋天使(キューピッド)
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10・番長とは!

「隙間産業みたいなものかのう」


 ゴリ先輩は『番長』という存在を、そう表現した。

 屋上の柵に背を預けて、ゴリ先輩を挟んで俺と七尾さんがしゃがんでる。

 俺の膝にはカラスな紫乃花さん。彼女がどういう状態なのかは、まだ聞いていない。


「隙間産業っすか?」


 俺の相槌に頷いて、ゴリ先輩が言葉を続ける。


「この学校はおぬしのマンションと同じで、霊脈が交わる場所にある。この土地では、あまり珍しいものでもないがな。それにべつの土地でも、学校というものは霊脈の交差点にあることが多い」


 霊脈は、霊力が流れる見えない(見鬼除く)道だ。

 ここでまた、同じものは惹かれ合い強め合うって法則が稼働する。

 通う人間のことを考えて交通の便に配慮した、学校みてぇな建物には道が集中する。

 こっちの道は見鬼じゃなくても見える物理的な道だ。

 人間が流れる道と霊力が流れる道。ふたつは引き合う。

 物理な道は動けないから、霊脈のほうが動いて重なるってこった。


「それにしては、この場所の霊気は安定してますけれど」


 俺の膝で、カラスが首を傾げる。

 声以外カラスなのに、なんか段々紫乃花さんに見えてきた。俺、もう引き返せねぇな。


「うむ。乾先生が十年以上維持してきた結界に包まれておるからの。乾の担任が引き継いだ後も安定しているから、うちの高校にはほかの学校のような七不思議もない」

「そういえば……」


 考えてみると、学校につきものの怪談をあまり聞かない。


「とはいえ、結界は完全に閉じているわけではない。ところどころはわざと開けてある」

「霊脈の流れ込む土地を完全に封じてしまったら、聖域か蠱毒の壺になりますものね」


 『蠱毒』? カードゲームに出てきた気がする。

 話の腰を折るのもなんだから、帰ったら紅太に貸してるルールブックで確認すっか。

 ゲーム自体は前からあったけど、ルールブックが雑誌の付録についたのは、ちょうどウサギ小屋の事件が起こったころだったんだよな。

 俺はなんとなく、ズボンの後ろポケットを軽く叩いてみた。

 関根の嬉しそうな気持ちが伝わってくる。

 へへ。生前はどんなに野菜を貢いでも、男の俺が触ろうとしたら地面を踏みしめて威嚇してきたくせによ。……コイツに、人殺しなんかさせなくて良かった。


「その開けてある穴から入ってきたヤツらがする、いろいろな悪さに対抗するのが、番長の役目なんじゃよ。乾ももう気づいておるかもしれんが、七尾は妖狐での。入学前にわしが妹を助けた礼だと言って、力を貸してくれている」

「まあ」


 紫乃花さんが目を丸くする。カ、カラスでも可愛いとか反則だっ!

 てか、昨日七尾さんが言ってたこと自体は本当だったんだよな。女だと言えないから、助けられたのは妹ってことにしてんだろ。

 なんで今みてぇな状況になったんだ?

 ゴリ先輩が頭を掻いた。


「ところで乾、わしに話とはなんだ?」

「へ?」

「七尾から、おぬしがわしに話があると聞いた。隣に引っ越してきた巽さんの影響で、封じた霊能力が蘇って悩んでるのだと思って、こんな強硬手段を取ってしもうたが、違ったか?」

「そ、そうっすね。えーっと……」


 俺はゴリ先輩越しに七尾さんを見た。

 七尾さんは小さく手を合わせて、俺に頭を下げる。

 惚れた弱みってヤツか。

 本当の計画は言えねぇし、ゴリ先輩に頼まれたら断れねぇわな。


「あ、はい。そうっす。あざっした」

「そうか。余計な世話でなければ良かった」

「え?」


 小さく声を上げた紫乃花さんの小さな頭を両手で包み、なでなでしてやる。

 黒い鳥は幸せそうに目を閉じた。

 疑問は飲み込んでくれたかね。


「正直言うとな、おぬしへの心配だけでおこなったことではないんじゃよ。……乾。前から頼んでおるが、わしの跡を継いで番長になってくれんか? うちの番長は、お前のように霊力の強い人間でなくては務まらんのじゃ」


 ゴリ先輩は、昔から霊力が強かった。

 見鬼の能力もあって、幼いころは悪霊を目撃しては憑りつかれ、高熱を出して寝込むことも珍しくはなかったそうだ。

 今は退魔師見習いみてぇな立ち位置で、さっきまで屋上が妙だったのは、彼が結界を張っていたからだった。……まあ、紫乃花さんが一瞬で壊したけどな。


「小学校に上がる前、親が乾先生に頼んでくれての。先生が、徳の高い先祖の霊に守護をお願いしてくださったのじゃ。この高校に入ったのも、乾先生がおられたからじゃ」

「ほかの学校に移っちまって、すんませんでした」

「いや、向こうの学校にも乾先生が必要だったのじゃよ」


 ちなみに、とゴリ先輩は咳払いをして言った。


「わしの口調は、その守護霊の影響を受けておるからじゃ。べつに番長になったからといって、こんな口調でしゃべらねばならんというわけではないから安心しろ」


 ゴリ先輩の守護霊は、生前は名のある僧侶だった。

 僧侶の妻帯が認められていない時代の人なので、正確には直系の先祖の兄弟になる。

 かなりスパルタな性格で、昔から見守ってはいたものの、ゴリ先輩が自力で霊障を解決することを期待して、手出しはしなかった。

 親父とのガチンコ勝負に負けて守護を受け持った今も、基本的には見守るだけなのだという。


「乾、おぬしも気持ちを整理する時間が必要だろう。すぐに答えを出せとは言わん。ゆっくりでいいから、番長という選択肢を考えてみてはくれんか」

「……うっす」


 ゴリ先輩は大きく伸びをして、関根を俺に返せる日が来て良かったと笑った。

 彼が卒業するまでに俺が記憶を取り戻さなかったら、関根は親父に浄化されてあの世へ送られる運命だったらしい。関根にとっては、どちらが良かったのかはわかんねぇ。

 でも俺は──コイツと再会できて、嬉しかった。

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