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龍の姫に恋してから、俺の不良ライフが変なんです!  作者: @眠り豆
第二話 隣のあの娘(コ)は恋天使(キューピッド)
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7・SE・KI・NE!

 ゴリ先輩はいつも、新校舎の屋上で昼飯を食っている。

 どういうわけか屋上の扉は、どの校舎も壊れていた。

 先代の不良たちが壊したのかもしれない。

 ゴリ先輩は自分で壊すほどのワルじゃねぇが、元から壊れているのを利用するくらいには不良ワルだった。なんといっても番長だしな。

 七尾さんや俺、ほかの不良が一緒に食うときもある。

 今日は紫乃花さんの立てた計画に従って、七尾さんがいるはずだ。

 俺は途中で割り込んで、七尾さんの言うことに頷いてりゃいいってこった。

 演技力には自信がねぇんでちょうどいい。


「……ん?」


 階段を上りきって、屋上の扉を目にしたとたん、妙な感覚があった。

 たまに夢の中である、階段を一段踏み外したときみてぇな感じだ。

 ふっと、なにかが歪む。空気が変わる。今まで見ていたものが違って見えてくる。

 そんな──


「なんだ、こりゃ」


 俺は靴の下にあったものを拾い上げた。

 カードだ。

 ここんとこ毎晩、夕飯の後で紅太と遊んでいる和風カードゲームのカードだった。

 裏面には千代紙みてぇな模様。靴の跡はついてなかった。

 なんだってこんなところに、こんなもんがあんだ?

 ゴリ先輩か七尾さんがやってんの?

 思いながらひっくり返して、表面を確認する。

 後で事務所の遺失物係に届けるけど、レア度が高いカードなら、処分されるときにもらいに行ってもいい。家のデッキは一枚足りねぇもんな。

 まあ、週末にショッピングモールのカードショップに行ってみても……


「関根?」


 色褪せたカードのイラストが視界に飛び込んできた瞬間、俺はそう口走っていた。


 ──『武装兎アーマードラビット


 金属の鎧を身に纏ったウサギのイラストが描かれている。

 萌え絵じゃない、リアルな獣のウサギだ。性別は公式がオスだと発表した。

 ネットでは擬人化されて、ウサ耳美少年のファンアートが飛び回ってたりする。

 渋くてカッコいいイラストを見たくて検索してたのに、ヒットすんのはショタばっかで、当時の俺がどれだけガッカリしたか……いや、やめておこう。人さまの趣味には口出ししねぇ主義だ。

 このカードゲームの基になってる五行の理は、十二支と関係が深い。

 十二支ってのは時間と空間の両方を表すもんだ。

 ウサギは旧暦で春の二月、時間は今の朝六時ごろ、方角は東、地形は川。

 同じものは惹かれ合い、強め合う。

 ウサギを描いたカードは、東のマスに置くと攻撃力がアップする。

 んで東ってのは五行の木気に属してて、木気は西の金気に弱い。

 コイツ以外のウサギは、金気に属するイヌ・トリ・サルのカードに攻撃されたらイチコロだ。でも武装兎は金属の鎧を纏ってるんで、金気の攻撃にも対抗できる。

 ちなみに鬼は木気だ。

 だから鬼退治のお供は、木気に強ぇ金気のイヌ・トリ(キジ)・サルだったってわけ。

 なんでんなこと知ってっかっていうと、イヌ・トリ・サルを左の一列、乾・西・未申に並べると発動する技、『桃太郎』があったからだ。

 それはともかくとして、俺は武装兎のカードが大好きだった。

 東のマスに伏せてあるコレを木気属性のカードと予想して、相手が金気のカードで攻撃してくる。その瞬間、逆転だ。


 特殊技『マグネットシールド』! 金気の攻撃を反射して、相手に自身の攻撃力半分のダメージを与える! 自分はノーダメージ!


 小学校で飼ってたウサギを重ねていたのもある。

 俺は、カードの武装兎アーマードラビットも学校のオスウサギも関根と呼んでいた。

 ガキの俺につき合ってカードゲームをしてくれていた親父が、なぜか武装兎を『関根』と呼ぶんで、気がついたら移ってたんだ。

 飼育小屋は畑の近くに、大きいのと小さいののふたつあった。一匹だけいたオスがスケベで、メスを追いかけては拒まれて怪我するんで、小さなほうの小屋に隔離されてたんだ。

 メスだけ出して運動させてると、オスは隔離小屋の網に夢中でしがみついて鼻に擦り傷作ってた。

 お袋にじゃれついて怒られてる親父を見てる気分だったぜ。


「でも……違うだろ」


 俺はひとりごちた。

 デッキから抜けていた俺のカードが、こんなとこに落ちてるはずがねぇ。

 てか、俺の武装兎はどこに行ったんだ?

 ダブりと一緒に処分した?

 潮の家に持ってって遊んだときに落として帰った?

 あるいは小学校で?

 どっちにしろ、高校の校舎の中に落ちてるなんてこたぁあるわけねぇ。

 ……ねぇんだけど。

 ズボンの後ろポケットに突っこんで、俺は屋上の扉を開けた。


「なんなんだ?」


 空の色がおかしい。

 紫乃花さんと一緒にロールサンドを食ってたときは、青く澄み渡っていた空が淀んでいた。ああ、淀んでいたとしか言いようがない。排水溝に流す直前の、筆洗いの水バケツの中みてぇな感じなんだ。

 そして、俺の目の前にはふたつの人影があった。

 ゴリ先輩と七尾さんじゃない。

 いや、ゴリ先輩はゴリ先輩なんだが、屋上の柵の上に布団を干すような体勢で仰向けにされている。

 目は閉じていて、意識がないようだ。

 干されたゴリ先輩の前に立ってるのは、黒い影だった。

 黒ずくめってわけじゃねぇ。

 本当に真っ暗で、ぽっかりそこに穴が開いてるみてぇなんだ。


「……やあ、小さな退魔師。久しぶりだな」


 地の底から響くような声がして、黒い影が笑った。

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