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龍の姫に恋してから、俺の不良ライフが変なんです!  作者: @眠り豆
第一話 隣のあの娘(コ)は龍の姫
14/50

14・DSはDS

 俺たちは慌てて用意をして、少し遅めの夕食を始めた。

 席順は朝と同じ。

 紫乃花さんの向かいに、俺と紅太が並んでる。

 献立は、もちろん予定通り手巻き寿司だ。

 椅子の上に立ち上がって寿司を巻く紅太に、紫乃花さんが眉をひそめる。

 でも彼女は言葉を飲み込んだ。どんなに言動が大人でも、まだちっちぇもんな。


「……ハム、トマト、レタス、出し巻き卵、最後に鶏肉のチーズ包みのスペシャルだ!」


 もうすでに、手巻き寿司って雰囲気じゃねぇ。

 海苔の長さが足りなくて、ハムや鶏肉が飛び出していた。

 鶏肉には片栗粉をまぶして焼いてある。独特の食感が楽しめるんだ。

 予定から変更して、中身はチーズ。大葉はお好みで。

 梅肉はジャコと一緒にきゅうりの千切りと和えた。

 ネギたっぷりのトロ納豆、ほぐしたタラコと和えた山芋、冷凍してた唐揚げはトースターでカラッと焼いた。コショウとバターで炒めたコーンも結構イケる。

 紫乃花さんがエビアボカドを嬉しそうに食べているのは想定内だ。

 あ、そうだ。

 エビは無事だった。

 俺が持ち帰り用の氷をビニール袋に入れている間に、紫乃花さんが術をかけてくれていたんだ。だから、氷を入れた袋を手にして振り返ったとき、彼女が注目されてたんだな。きっと呪いのときのように、うっすら銀色に煌いたんだろう。

 てっきり紫乃花さんが可愛いからだと思って、男どもにガン飛ばしちまったよ。

 ……まあ、それもあっただろうが。

 つっても気軽に術を使うくせは注意しとかなきゃなんねぇな。

 今日みてぇなことが続いちゃ問題だ。


 ぱくん、ごっくん。


 手巻きを超えた太巻き、いやむしろ山賊おにぎりに近いシロモノを、紅太が一瞬で喰らい尽くした。

 コイツは食うときの瞬間だけ、頭を龍神フォームにしている。

 龍神フォームだとひと口で量を食えるんだと。

 しかし成長期っつっても限度がある。


「紅太」

「なんだ、勇気」

「今度龍神フォームで食ったら、そこでお代わり禁止だかんな」

「えー? 育ち盛りに殺生な!」


 『殺生』って!


「龍神のお前は腹ぁ壊さねぇ代わりに、必要以上に食べた分の栄養が霊力になって蓄えられていくんだろ? 許容量を超えたら暴走するらしいじゃねぇか。さっき紫乃花さんに聞いたぞ」

「普通に食べたら残ってしまうぞ」


 紅太はテーブルの上を見回して言う。

 おう、わかってる。調子に乗って作りすぎた。


「残ったヤツは明日サンドイッチにして、お前のオヤツ用に置いておいてやる。ナマモノだから、トロ納豆だけは食い切ってくれ」

「任されよう!」


 紅太はお代わりを作り始めた。

 鼻唄なんか歌ってるところはホント男子小学生でしかねぇな、この龍神の坊ちゃんは。


「そういえば、勇気さま」

「ん、なんスか?」

「さっき夕食の準備をしてくださっていたとき、どうしてキッチンのゴミ箱を恐れていらっしゃったのです? 絶対に近寄ろうとなさらなくて、ゴミが溜まったときだけ駆け足で捨てていらっしゃいましたわ」


 ぷっ、と紅太が吹き出した。

 俺は紫乃花さんから視線を外す。


「……先輩トリオが干からびないように、ここまで入れてきた袋捨ててるんで」


 近寄りたくなかった。

 アボカドの皮やエビの殻でゴミ箱が埋まっていくのが、どれだけ嬉しかったかしれねぇ。


「まあ、わたしのせいで、すみませんでし……え? それだけですか?」

「それだけっす」


 紫乃花さんは笑いを噛み殺した。……いいけど。

 彼女は、ちらりと弟に視線を送る。


「じゃあ紅太、今夜は最初から一緒に寝ますか?」

「へ?」

「姉上っ!」


 真っ赤になった紅太が、金切り声を上げた。


「聞いてください、勇気さま。紅太ったら昨夜、知らない場所は怖いと言って、夜中にわたしのベッドに潜り込んできたんですよ? 小学生になるのだから、人間界こちらではひとりで寝るって言ってたくせに」

「へー」

「ジ、ジロジロ見るなっ!」


 照れ隠しにか、紅太は手巻き寿司を頬張った。

 トロ納豆と梅きゅうり、それから唐揚げで、リスのように頬が膨らむ。

 はん。大人っぽいかと思っていたが、男子小学生は男子小学生だな。

 ま、一年生だから仕方ねぇか。

 てか紫乃花さんのベッドに潜り込むって、お前──

 俺の気持ちに気づいたのか、紅太はニヤリと笑う。


「……羨ましいか?」

「……べつに」


 ああ、そうだよ。その通りだよ。羨ましいに決まってんだろうが、ゴラァ!

 つうかお前、人間界こっちでは、っつうこたぁ、向こうでは一緒に寝んのがデフォルトかよ?……嫉妬で精神を入れ替えられたらっっ!

 紫乃花さんはそれ以上この話題を掘り下げるつもりはないようで、エビアボカドのお代わりをモグモグしてる。小動物みてぇで可愛い。


「まあ姉弟なのだから、おかしなことでもないだろう」


 目いっぱい照れてたくせに。


「お風呂も一緒だし」

「はあ?」


 ってめ、てめぇっ!

 ガキに殺意を抱いてしまう。

 そういやお風呂とトイレの掃除の仕方、どうやって教えよう。結構体力使うから、俺がしてもいいんだが……排水溝の掃除は週末の楽しみだ……そうもいかねぇよな。

 紫乃花さんに教えるのはなんか照れくせぇし、今度紅太を仕込んでおくか。


「……勇気、なにを企んでおる?」

「べつに。てか紅太、エビアボカド少しは食ったのか?」

「え? あ! 姉上ズルイ! 余はまだ食べてないのに!」

「だって美味しいのですもの」


 三個目のエビアボカド巻きを飲み込んで、紫乃花さんは鈴を転がすような声で笑った。

 可愛い。

 ああ、何度でも思うさ。

 だって俺ぁ彼女に惚れてるんだ!……オトモダチ、だけどな。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ──紫乃花さんと俺が夕食の用意をしている間に、仔猫の件は、紅太と大家さんが通報してくれていた。

 大家さんが泣きすぎてませんように。

 瞼が膨れたり隈ができたりすると、さらに人相が悪くなるしな。

 情が深ぇんだよ、あの人は。

 残念だけど、俺にできるのは、大家さんに夜食を差し入れに行くことくれぇだ。

 後は警察に任せるしかねぇ。

 番長にでもなってりゃ、仲間を総動員して犯人を捕まえられたのかね。

 一匹狼気取ってたんじゃどうしようもない。俺は役立たずだ。

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