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龍の姫に恋してから、俺の不良ライフが変なんです!  作者: @眠り豆
第一話 隣のあの娘(コ)は龍の姫
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1・俺の縄張りなんだよ。

 ……ムカつく。


 なんだってコイツらは、追い払っても追い払ってもやって来るんだ。

 近所の安売りスーパーで特売鶏肉を購入して、家へ戻ろうとする俺の目に飛び込んできたのは、コンビニ前で女子を囲む不良三人組だった。

 俺が住んでるマンションの一階、コンビニ前でたむろする不良たちを、何度追い払ったか知れねぇ。

 いい加減不良世界に知れ渡れよ、ここは俺の縄張りだって!

 一匹狼気取ってんのが良くねぇのか?

 ずっと誘ってくれてる、ゴリ先輩の配下に入るべき?

 けどそうしたら、自分の学年くれぇシメとかなきゃ先輩の面子潰すことになる。

 そりゃ今一年で粋がってるヤツらなら、すぐ砂にできるぜ?

 でも俺ぁ群れるのは嫌いなんだ。

 トップで仕切るとかにゃ向いてない、一匹狼なのさ。


「……おい」


 夕暮れの住宅地、バカ三人に一歩踏み出して、俺はヤツらが知り合いだと気づいた。

 つってもこんな真似するバカ、友達なんかじゃねぇ。

 同じ高校の二年生だ。裏庭や校舎の片隅に潜んでんのを見たことがある。

 不良世界は上下関係にうるせぇが、こちとら一匹狼、気にするつもりはねぇ。

 ま、七尾さんにゃ睨まれるかもしんないけど、元々気に入られてねぇし。

 同じ学年のバカのケツも拭けないあの人が悪ぃんだ。そうだろ?

 三バカトリオが俺を見る。


「んんー? ゴリ番長のイソギンチャクのカンくんじゃん」

「……」


 言われていることの意味が、しばらく理解できなかった。

 気づいても少しの間、ギャグで言ってるのかどうか悩んじまった。

 んなだから、年上だっつってもリスペクトできねぇんだよ。


「イソギンチャクってのは、腰ぎんちゃくのつもりか?」


 最初に口を開いたバカの顔が赤く染まる。

 三人とも中肉中背で特徴はない。銀のトゲトゲアクセなんか珍しくもねぇし、茶髪金髪はパンピーでもしてる。

 俺と同じくれぇの身長だから、百七十センチ前後かな。ま、俺と違って筋肉のねぇ弛んだ体してっけど。


「ちなみに俺は『カン』じゃねぇ。いぬいだ。アンタら……バカだろ」


 三人は顔を見合わせて、ボソボソと相談し始めた。


「……ウソだろ? だってあれ、『乾燥』の『カン』じゃん」

「……俺らがバカだから、からかわれてんじゃね?」

「……え? あれって『感想』の『カン』なの? 俺、『感じる』って字だと思ってた」


 バカの自覚があるんなら、少しは勉強しろ。

 それと、ひとり、さらに勘違いしてるぞ。

 俺は溜息をついて、ヤツらに囲まれてる女子に顔を向けた。

 女子は苦手だ。つっても俺の縄張りで困ってんのは放っておけねぇ。

 横にちっちゃいのもいる。小学生か?

 姉弟かね、と思って俺と同じ年ごろの女子に逃げろと告げようとしたとき、


 時間が、止まった──


 湿気を含んだ初夏の風になびく長い黒髪はさらさらで、絹糸を思わせた。

 陶器のようにすべすべで雪のように白い肌が、黄金色の夕焼けに染まっている。

 長いまつ毛が影を落とす、潤んだ大きな瞳が俺を映す。

 ぷっくり膨らんだ瑞々しい唇が開く。


「……乾さま? もしかして、いぬい 勇気ゆうきさま?」


 俺の名前をフルネームで紡いで、確認するみてぇに弟を見るのは、白いワンピースにレースのストールを羽織った少女。

 いや、弟かどうかはまだわからねぇが、顔が似てるから近い関係にあることは間違いねぇだろう。

 俺は彼女に頷いて唾を飲みこむ。

 口の中がカラカラだ。

 な、なんだ? 俺ぁなに緊張してんだ? 相手は同じ年ごろの女子と小学生男子だぞ。

 確かに元から女子の相手は得意じゃねぇ。

 でもほかの女子を前にしたときとはなんか違う。

 心臓が締めつけられたり動悸が激しくなったりすんのは一緒だけど、寒気がしねぇんだ。

 嫌悪や怒りも沸いてこない。

 むしろあったかくて、なんだかほんのり幸せな気分までする。


「漢字の読みなんざどうでもいい。一年坊主が二年生さまをバカにして、ただで済むとおもうなよ?」

「しかも俺たちは三人だ!」

「単純に計算しても、三人合わせてお前の二倍の攻撃力を持つぞ!」

「「そこは三倍にしとけ!」」


 俺は彼女から目を離せない。

 そんな俺に気づいて、彼女が俯いた。

 ヤベぇ。怯えさせちまったか? 昔から俺は、目つきが悪くて周りに恐れられている。

 ……けど、恥ずかしそうに頬を赤らめた彼女は、とても、とても、


「あ」


 小学生が声を上げたのは、襲ってきた三バカトリオのひとりの顔をつかんだ俺が、そのままヤツを振り回して、ほかのふたりに頭突きさせたからかもしれない。

 俺が手を離すと、襲ってきたバカは地面に崩れ落ちた。

 ナイス石頭。

 大丈夫。もういっぽうの手で提げた鶏肉は無事だ。

 頭を押さえたほかのふたりがヤツを支える。


「ヤベぇよ、逃げよう」

「ゴリ番長に気に入られてる男なんだ。俺らの敵う相手じゃねぇ」

「くそっ。覚えてやがれっ!」


 三バカトリオが夕陽に消えると、女子が小さく「あ」と呟く。

 いつまでも聞いていたくなる、鈴を転がしたように涼やかな声だ。

 小学生が彼女を見た。


「べつにいいだろう、姉上。あの三人に聞かなくても、乾殿は見つかったのだから」


 ……へ?

 もしかしてこのふたり、あの三バカトリオに道聞いてた?

 アイツらは、俺が『バカ』って本当のこと言ったから、怒って襲ってきただけ?

 そういや腕を無理矢理つかんだりはしてなかったな。

 てなことを思いながらも、俺は相変わらず彼女から視線を外せないでいた。

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